折れない魂。

学生時代、スポーツの世界に若きスターが登場するたびに、
喝采を送っていた自分がいた。


“若きスター”が年上世代から、自分たちと同世代のアスリートになり、
いつのまにか選手のプロフィールに、
“年下”を感じさせる生年月日がちらほら見受けられるようになっても、
自分にとっては、“若さ”と“新しさ”が
選手に声援を送る時の一つの尺度になっていた。


長く現役を続ける“ベテラン”選手に対して、
時々“畏敬”の念を感じることはあっても、
彼らの“こだわり”に共感することは稀であり、
多くは、自分が声援を送る“若きスター”たちの敵役として、
記憶に残るにとどまっていた。


だが、自分が生きている歳月を重ね、
次第に、第一線で活躍する同世代のアスリートを見かけることが
少なくなってきた今、
自分の中の“尺度”が変わってきていることに気付く。


先週発売された『Number』に、「折れない魂。」という特集が組まれている*1


最高峰の舞台や、現役そのものにこだわり続ける
アスリート達を描いた特集であるが、
いまだ若い田臥勇太*2や、
F1のキャリアの中では成長途上にある佐藤琢磨*3を除けば、
年上世代で、かつ選手生活のピークを過ぎたと思われているアスリート達であるが、
今の自分には、そんなアスリート達の“こだわり”に共感できるところが多い。


例えば、“ニッポンの闘う人”吉原知子選手。35歳。
アテネ五輪後、引退を噂されつつも、いまだ東北の地で現役を続行している。

「自分でも十分やったかな、という思いはあるんです。だからホントにいつ辞めてもいい。でも、まだ後輩たちに伝えられることはあるのかなと思うし、自分でも何かやり残していることがあるかも知れない。その何かを探して、今日もコートに立つんだと思う」*4

同じく、ヘルシンキ世界陸上が“ラストラン”と伝えられていた
陸上の朝原宣治選手、33歳。
2年後の大阪世界陸上まで、既に射程に入れているようだ。

「ほんと直感ですよね。まったくダメだったらやらないと思うんですよ。やっぱり不安もありますよ。もちろん。ほんとにダメそうだったら、そこまで無理して大阪までやらんでもええわと、途中でやめてしまうかもしれないし。それはわかんないですけど、とりあえず挑戦してみようと」*5

昔、引退を表明した後に、復帰するアスリートの気持ちが
どうしても分からなかった。
マイケル・ジョーダンしかり、辰吉丈一郎しかり、
全盛期を過ぎてもなお、現役にこだわる、という彼らの気持ちが、
どうしても理解できなかった。


だが、企業の中にいる人間として、
第一線で活躍できる時間はそんなに長くない、ということに気付いた今*6
自分の手と足で、そして、自分の頭で、
全力をかけて仕事をすることができる時間が、限られているということに、
自分は心底恐怖心を感じている*7


たとえ、きらびやかな“管理職”としての椅子を用意されたとしても、
おそらく自分は“現役”としての仕事にこだわり続けるだろう。
そして、自分の手で、ライバル企業に競り勝ち、
一つの仕事を仕上げる喜びを味わうために、
部下を押しのけてでも、“主役”の座にい続けたいと願うだろう*8


だから、今は、現役にこだわり続けるアスリート達の気持ちが、
痛いほど良く分かる。


既に38歳になった“KING”KAZUのように、

「自分が楽しくやっている姿、一生懸命やって楽しんでいる姿を見てもらうこと。チームが勝つこと、自分がそこに混じっていい結果を出すことなんだと思う。」*9

といえるほど、自分は達観できてはいないけれど、
少なくとも、現役として“一生懸命に”なれる場を求めて、
これから彷徨い続けていくことになるんだろう、ということは、
何となく想像が付く。


それが今の会社の中にあるのか、外にあるのか、
今の自分には分からないけれど。


なお、特集記事の中でも取り上げられていた高橋尚子選手が*10
日曜日に見事な快走を見せて、ストーリーを先につなげたのは、
(この記事を読んだ後だけになおさら)嬉しいニュースであった*11

*1:Number2005年12月1日号(No.641)

*2:宮地陽子「解雇からの再出発」Number641号26頁

*3:今宮雅子「再挑戦への決意」Number641号70頁

*4:吉井妙子「逃げない私。」Number641号44頁

*5:木村元彦「蘇える興奮。」Number641号55頁

*6:定年が65歳の時代に何を・・・と思われるむきもあるかもしれないが、少なくとも大企業で管理職になってしまえば、“監督”や“GM”としての立場から活躍することはできても、“現役アスリート”として第一線で活躍することは難しい。結局のところ、40歳前後で“現役”から退く、という点に関しては、アスリートもサラリーマンも大して違いはないように思える。“監督”として采配を振るうことには、“アスリート”とは違う魅力があるのかもしれないが、残念ながら、それを感じることができるほど自分はまだ老成してはいない。

*7:ライン職ならまだしも、スタッフ職の管理職ともなれば、概して、部下からあがってくる報告に朝から判を押すだけ、という日常に陥りがちなのが自分の会社の実態である。まぁ、そうでない会社も世の中にはあるのだろうけど。

*8:その時点で、管理職としては失格であるが・・・。

*9:一志治夫「軽やかな冒険。」Number641号24頁

*10:黒井克行「止まった時間。」Number641号46頁

*11:個人的には、まだ大レースで“底”を見せていない彼女に対して“復活”という表現を使うのは、失礼な話だと思う。「軽い肉離れ」をあえて公表したことに対しても賛否両論あるようだが、彼女の側にしてみれば、2年前に当時の小出監督がレース後に発した「言い訳」が批判を浴びたことへの、一種のアンチテーゼのつもりだったのではないかと思う。いずれにせよ、“結果を出した”その一点のみで、彼女はもっと評価されて良い。

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