滋賀県代表の野洲(やす)高校が、
なかなか面白いサッカーをするという評判を聞いて、
久しぶりに中継を観てみた。
如何せん、相手が連覇を狙う鹿実、
しかも実況アナが何度も強調していたように、
“フィジカルの鹿実”と、“テクニックの野洲”の対決だけあって、
いいサッカーを見せつつも、最後は鹿実が勝つんだろうな・・・、
と漠然と思っていた。
中村俊輔、中田浩二、本山雅志と
毎年のように、華になるスター選手を輩出していた1990年代後半に比べると、
最近の高校サッカーは地味になった印象を受ける。
Jクラブのユースチームの組織化が進んだことで、
高校の「クラブ活動」にいい選手が流れなくなっている、
というのが最大の原因だろうが、
プロリーグの技術レベルが年々向上しているのに、
高校サッカーの舞台では、
あいも変わらず、国見に代表される“体育系的サッカー”*1
が通用してしまうことには、どうも違和感がある*2。
もちろん、市船のように、戦術的に洗練されたチームもあるし、
静岡学園や滝川二のようなテクニック勝負型のチームも出てきてはいるのだが、
一応結果を残している前者はともかく、
後者のチームは、国立に来て力尽きるパターンが目立つ。
「面白いサッカーをするけど勝てないチーム」に共通するのは、
個々の選手のスタミナ不足とフィジカルの弱さで、
ある程度のところまで来ると、運動量豊富な“古典的サッカー部”の前に
屈することになってしまう。
数年前にも、国立競技場の準決勝で、
大会随一のテクニックを誇った滝川二の背番号10が試合から“消え”*3、
これまた技術に定評のあった桐蔭学園が国見に封じられ、
最後はヨレヨレになって敗退していった姿を観たばかりである*4。
国見高ほどではないが、
鹿実も猛練習に裏付けられた運動量豊富かつシンプルなサッカーを展開する
古典的な伝統校である。
なので、今年も・・・
というのが、試合が始まる前の率直な感想だったわけだ。
試合が始まっても、その感想自体は変わらなかった。
評判になるだけあって、確かに野洲高のテクニックは物凄い。
まるで、JリーグのチームとJFLのチームが試合をしているような技術の差。
再三のドリブル突破、ヒールパスを交えたつなぎで
鹿実のDFを翻弄したかと思えば、
(特に、FW9・青木孝太選手とMF14・乾選手のワザは絶品)
少々攻められても、ゴール前でDFが簡単にボールを取り返す。
ボールを奪ったDFは、簡単にはクリアしない。
自陣ゴール前でもあくまで“抜いて”“つなぐ”のである。
監督の読みどおり、最初の20分を無失点で乗り切った直後、
セットプレーからつないでDF荒堀選手が先制ゴール。
ここまでは、「高校サッカー界に革命を起こす」という
宣言どおりの試合であった*5。
しかし、後半に入ると、予想通り野洲高の運動量が落ちる。
味方が走りこんでいなければ、いかにテクニックがあってもパスは出せない。
息を吹き返した鹿実は、終盤に来て長身の選手をゴール前に送り込み、
パワープレーで勝負を賭ける、という高校サッカーの教科書どおりの作戦に出る。
野洲DF陣もたまらずシンプルなクリアで逃げようとするが、
おそらくやり慣れていないのだろう。
自陣ゴール前で冷や冷やさせられるシーンが度々出てくるようになった。
実況アナも、解説者も、そしてスタンドの声援さえも、
“ニッポンのサッカー部”が水戸黄門よろしく逆襲することを祈り続け、
その願いが通じたか、再三のパワープレーの末、
後半34分、鹿実FW・迫田選手のヘディングシュートで同点に追いつく。
何とか延長戦に持ち込んだものの、
前後半90分を戦った野洲イレブンに、もはや勝機はなく、
あとは、「猛練習で培った鹿実の底力爆発」という
予定調和的な結末を待つだけのように思えた。
だが・・・
延長戦に入って、鹿実が再三の決定機を逃したあたりから
流れが再び変わり始める。
野洲イレブンの運動量は落ちていたが、
相手の鹿実の方も、延長戦に入ってからは、かなり運動量が落ちていた*6。
双方スタミナが落ちれば、再びテクニックの出番である。
フィジカルで勝負しようとする鹿実に、野洲はDFのポジショニングの妙で対抗。
再三攻められてもゴールだけは割らせない。
逆に、GKのロングキックからのスルーパス一本で
相手ゴールを脅かすシーンも見せた。
そして、延長後半7分(終了3分前)。
野洲DFから逆サイドのMF・乾選手に大きなフィード、
そして、中央に切り込んだ乾選手が、ヒールパスでMF・平原選手へつなぎ、
平原選手がワンタッチでMF・中川選手にスルーパス、
そして、そこからゴール前に走りこんだFW・瀧川選手に折り返してゴール。
(筆者はテレビの前で思わず絶叫。)
乾選手のパス以降はすべてワンタッチ、
DFがボールを奪ってからゴールまでの時間は僅か20秒。
Jリーグの試合でもなかなか見られない、見事な速攻である。
試合の終盤で、こんな攻撃を見せられたら、
普通の高校生が付いていけるはずがない。
鹿実DF陣は完全に崩壊し、
最後は、瀧川選手と青木選手がゴール前でフリーになっていた。
結果、野洲2−1鹿児島実。滋賀県勢初の優勝。
鹿実がエースFWを累積警告で欠いていたことを差し引いても、
堂々の勝利であった。
最後の最後になっても、変わらないテクニックを披露していたところを見ると、
野洲高も単なる“テクニックのチーム”ではなかった、ということだろう。
観客を楽しませる(そして一番楽しいのはやっている選手たち)
サッカーをして、かつ勝負にも勝つ、
こういうチームが栄冠を勝ち取った、というのは非常に喜ばしいことだと思う。
実況の中では、鹿実の松沢総監督の「教育者」としての“顔”が
再三強調されていたが、
鹿実や国見高校のような“全人教育的サッカー指導”の下では、
いかにサッカーの才能があっても、ベンチにすら入れない選手が
必ず出てきてしまうように思われる。
小学生や中学生ならともかく、
高校生のレベルであれば、「巧いヤツに自由奔放にやらせる」
といった指導法の方が、選手達にとってはプラスに働くのではないか、
と個人的には思っている。
もっとも、鹿実や国見の指導者の先生方が信頼されているのは、
自身の戦績もさることながら、
プロの道に進んだ後の選手達の活躍ぶりによるところも大きい。
“体育会的サッカー”の申し子たちが、
プロに進んでから惜しげもなくテクニックを披露しているのに対し*7、
高校時代に高度なテクニックで鳴らした選手たちが、
プロに進んでから短命で終わるパターンは多い。
今年、野洲高校が起こした“Revolution”が、単なる一大会の仇花に終わるのか、
それとも、サッカー界全体の革命につながるのかは、
野洲イレブンのプロ入り後の活躍にかかっているように思われる。
ちなみに、終始華麗なテクニックを披露していたMF・青木選手は、
ジェフ千葉入りするそうで、これは今から楽しみだ(笑)。
*1:グランドを縦横無尽に駆け回り、ロングボールをゴールに向かって蹴り込むシンプルなサッカー
*2:もちろん、クロスの正確さ、マンツーマンでの強さ、ゴール前のポジション取りの巧さなど、単純に見えてそこには高度なテクニックの裏づけがある、ということは重々承知の上ではあるが。
*3:結果は、原とカレンロバートの2トップを擁した市船が圧勝。
*4:ちなみにその年、ベスト8まで勝ち残って旋風を巻き起こしたのが野洲高である。身長155cm(あくまで公称、実際は・・・以下略))の小さなMF・中井昇吾選手の印象が強かった。中井選手はその後柏レイソル入り、今季は水戸に移籍していたが果たして・・・?)
*5:キレイにつないで終始攻めつつも、ゴール前で決めきれない、というどこかの国のA代表のような展開になってしまったのは勿体なかったが(前半の展開なら2,3点取ってもおかしくなかった。)、後になってみると、ここで1点を先制できたことは非常に大きかった。