「社会人枠」の意味

いつも拝見しているpocket6氏のブログ『新司法試験・独学の独白』に、
興味深い記事が掲載されていたのでご紹介したい。
http://app.blog.livedoor.jp/pocket6/tb.cgi/50386666


同氏は、
「社会人としての今までの知識や経験を生かす取り組み」がなされていない
現在の法科大学院の講義、レポートに苦言を呈され、
「社会人としてのキャリアアップ、専門性の強化」を
志向していないのであれば「社会人枠」という看板は外すべき、
とまで主張されている。


おそらく、法科大学院ごとに取り組みの内容は異なるはずだし、
これをもって「司法試験受験業界の常識云々」ということには
異論もあるところだろうが*1
いわゆる「社会人大学院」的なるものを思い描いて
法科大学院に入学した方々にとって、
「基本的事項のインプット」が中心となる日々の学生生活が、
ストレスがたまるものとなってしまうことは、容易に想像ができる。


おそらく、第1回の新司法試験の“惨状”を皆が目の当たりにした後には、
学部からの進学者、元専業受験生を中心に、
“受験対策”を求める声がより強くなっていくだろうから*2
今後、法科大学院における「アカデミズム」が薄れていくことはあっても、
強まっていくことは期待しづらいのかもしれない。


だが、自分の経験に照らして言えば、
これまで、一般的な大学院において、“社会人向け”に行われてきた
「社会人としてのキャリアアップ、専門性の強化」を図る試みも、
必ずしも成功しているとはいい難い。


自分がいた環境は、比較的恵まれている方だったとは思うが、
それでも、「社会人を対象とした」講義・演習の中には、
実務家出身者が自分のかかわった先端的な事例を並べて説明するだけの講義や、
単なる「頭の体操」に終始しているだけの演習なども多かった。


この手の講義・演習は、
実務に全く触れたことのない学生には良いインセンティブになるし、
逆に、その分野を極めたエキスパートにとっては、
頭を整理するのにうってつけの舞台となるが、
「エキスパートとして更に一歩地力を強化したい」という者にとっては、
そのニーズを十分に満たすものではなかったように思われる。


ニーズを満たさない、という点では、
延々と外国の学説の分析に終始する一般院生向けの演習も同じで、
結局のところ、本当に役に立ったのは、
所定のカリキュラムの合間に聴講した学部生向け講義と、
休暇の間に自力で必死に読み込んだ判例、概説書の類だったように思う。


今思えば、当時仕入れた最先端の分野の知識は既に陳腐化しているし、
高度なアカデミズムに裏打ちされた奥の深い知識は、
脳内に眠ったまま*3出てこない。


だが、概説書と判例から仕入れた基本的な知識は、
普遍性のある知識として、どんな場面でもちゃんと生きてくる。


そう考えると、
所定のカリキュラムの中で、そういった基礎的なトレーニングを
積むことのできる環境というのは、
実は恵まれているのではないか、と思ったりもするのである*4


ついでに言えば、
これまで「社会人枠」によって受け入れられた院生の多くが、
大学の中で「お客さま」扱いされていたのは否めない。


かたや研究の道を志す本来の「院生」、
かたや「教養」を身に付けていただくための「お客さま」、
というラベリングがなされた環境は、自分には受け入れがたいものがあった*5


翻ってみるに、法科大学院においては、
「社会人枠」で採用されていようが、一般選考で入っていようが、
同じ試験を目指す身分である点において、両者に違いはない。


キャリアを中断して学んでおられる方々にとっては、
歓迎されざる環境なのかもしれないが、
何かとラベリングされる環境に比べれば、
それはそれで、恵まれた環境であるように思えてならないのである。


いずれにせよ、
法科大学院に行く勇気がなかった自分としては、
元社会人の方々の今後のご健闘を、
ただただ祈るのみである。


そして、自分が生きている間に、
真に実務家のニーズに応える法学系の教育・研究機関*6
この国に誕生してくれることを願ってやまない。


もちろん、自分が行くかどうかは別として。


(追記)pocket6様 再コメントありがとうございました。

*1:司法試験に限らず、「受験」を目標にする環境においては、純粋な知的好奇心の充足という欲求を犠牲にしてでも、やらなければならないことはあるように思われる。

*2:声をあげることなく、素直に予備校に流れるのかもしれないが・・・。

*3:眠っているかどうかも実は怪しい・・・。

*4:もっとも、大学がニーズを満たしてくれなければ、自分でトレーニングを積むしかないというのは同じで、そうなると受験生という制約の下、時間的余裕のない今の法科大学院生にとっては、少し気の毒なことになるのかもしれないが・・・。

*5:現に、学部図書館の利用等に際しても、両者の“差別化”は図られていたし、何より「お客さま」に対しては、研究に進む道が事実上閉ざされていた。

*6:知識、教養、テクニックの取得を兼ね備えた大学院レベルの教育・研究機関・・・(無理?)

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