昨年のこの時期、「予備試験」の受験者と新司法試験の受験者の数を比較して、「法科大学院離れ」どうこう、というトーンの記事が多数書かれていたことに辟易して書いたエントリーがhttp://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130518/1369157610だったのだが、これを読んだのかどうか、今年は、比較的まっとうな方向にトーンが修正された記事が載っている。
「法科大学院を出なくても司法試験の受験資格が得られる『予備試験』の今年の志願者が約1万2600人に達し、学生離れが続く法科大学院の志願者総数を初めて上回ったことが分かった。」(日本経済新聞2014年5月2日付け朝刊・第35面)
「予備試験」というのは、あくまで「(新)司法試験」の“予選会”に過ぎないのであって、両者は決してフラットに比較されるようなものではない。
そして、法科大学院制度について議論する前提となる、潜在的受験者層がどのようなルートを選択しているするか、ということを論じる材料にするには、法科大学院→司法試験、というルートの受験者数と、予備試験→司法試験というルートの受験者数を比べなければならない、というのは当然のことだから、それが初めて比較対象として記事になった、というのは、それなりに意味のあることだと思う。
記事の中では、法務省が公表した予備試験の出願者数(1万2622人)*1と、日経新聞が独自に(?)集計した法科大学院の「志願者総数」(1万1000人前後)を比較して、
「法科大学院の志願者総数が、初めて予備試験の志願者数より少ない事態になった。」
とし、「学生離れに大学院 危機感」という見出しの下に、関係者の声を紹介する囲み記事まで掲載している。
ここのところ、何一つ前向きなニュースが報じられない「法科大学院」と、メディア的には“歪んだ”と評される法曹養成制度について叩くには格好のネタがまた一つ増えたわけで、今後も何かにつけこの話は持ち出されることだろう。
もっとも・・・
素人的にはわかりやすいこの議論も、数字をもっと掘り下げていくと、違う様相がおそらく見えてくるはず。
例えば、「予備試験の出願者数」の中には、「法科大学院に現に在学している者」や「法科大学院に進学することを考えている者」が、自分の聞いた限りでは、かなりの人数いるはずで*2、単純に「予備試験ルート対法科大学院ルート」という構図にはなっていない、ということに注意が必要だろう。
一部の「大学(大学院)で教えることが全て」という大学原理主義の方々にとっては、これでも“制度の失敗”ということになるのかもしれないが、かつて大学4年までに司法試験に受からなかった人間が、大学に5年、6年とズルズル留年したり、フリーター生活をしながら受験を続けていたことを考えると、“大学院生の身分+更なる高度教育の機会”が与えられる、ということには重要な意味があるわけで、制度を上手に使っている(そして両方のルートを使える経済的余裕がある)「予備試験・法科大学院併用組」にとっては、今の制度も案外悪くない、という評価になりうるだろう*3。
また、一方で、「増えた増えた」というほど、予備試験の受験者数が増えていない、ということにも目を向ける必要がある。
自分は、昨年、予備試験の受験者数が、平成24年度の9,118人から11,255人に増加したのを見た時、「その次はたぶん15,000人くらいまで伸ばすんだろうなぁ・・・」と漠然と思っていた。
だが、今年度の受験者数は12,622人だから、わずか1,400人弱増加したに過ぎない。
実質的に最後の実施となった平成22年度の「旧司法試験」のサイトには、平成元年以降の受験者数の推移を記した表が掲載されているのだが、平成年代の司法試験の受験者のピークは、平成15年度の50,000人強だし、最後の年、僅か50人という狭き門になった平成22年度でさえ16,000人出願して、13,000人以上が受験している*4。
そういった事実を踏まえるならば、「予備試験人気」は、むしろ“伸び悩み”と評される状況になっているというべきだし、今すべきことが、「予備試験か、それとも法科大学院か?」という狭いコップの中での議論ではなく、「なぜ司法試験を目指す人間がこれほどまで集まらなくなってしまったのか?」ということを真剣に考えることであることも一目瞭然ではないかと思う*5。
“この先の話”までここで始めてしまうとキリがなくなるので、また別の機会に稿を改める予定であるが、“裾野を広げることの重要性”が看過された議論が巷にあふれているのは、正直見るに堪えない。もう少し何とかならないのか・・・、と思うばかりである。
*1:ソースは、http://www.moj.go.jp/content/000122007.pdf
*2:特に某有名大学では、遅くとも学部4年次には、法曹の道を考えている者は予備試験を受験し、合格・不合格にかかわらず、そのままエスカレーター的に法科大学院に進学する(そして翌年、既修の1年目に司法試験を受けて、合格した者は中退する)というルートが、いわば優秀層の定番ルートになっている、と聞く(さらに優秀な人間は3年次予備試験合格、4年次新司法試験合格、というルートを辿るのだろうが、今も昔もそこまで生き急ぐ人間は多くはない)。法科大学院創設当初、旧司法試験が併存していた時代の
*3:しかも、以前のエントリーでも書いたとおり、予備試験ルートで司法試験に合格する受験者の多くは、この「併用組」が占めている(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130911/1379266546)。
*4:http://www.moj.go.jp/content/000057099.pdf参照。
*5:予備試験が導入された当初は、試験自体の知名度の問題もあったから、人数が10,000人前後でも、まだそんなに違和感はなかったのだが、これだけあちこちで話題に上るようになっても、まだこの人数に留まっている(予備試験受験者と法科大学院受験者の人数を足せば良いではないか、という意見もあるだろうが、前記のとおり、両者を“併願・併用”している者はかなりの数に上るはずだから、ほとんど実益はない)。