商標いろいろ(その1)

最近、商標の審決取消訴訟を見る機会が多くなってきたので、
時々まとめてご紹介しようかと。
定期連載になるかどうかは不明である。

「ササッと」事件(無効審判不成立審決取消訴訟

知財高判平成18年4月26日(H17(行ケ)第10851号・塚原朋一裁判長)。

【対象商標】
「ササッと」(株式会社永谷園
第4723145号(平成15年10月31日登録)
第30類
「茶、コーヒー及びココア、菓子及びパン、調味料、香辛料、アイスクリームのもと、シャーベットのもと、コーヒー豆、アーモンドペースト、即席菓子のもと、米、脱穀済みのえん麦、脱穀済みの大麦、食用粉類、食用グルテン

【結論】請求認容、審決取消

「上記1の事実によれば、「ササッと」の語は、一般に、「急いで、すみやかに、素早く、手ぎわよく、すばやい動作でものごとを行う様子、ちょっとした時間に挨拶状や礼状などを書いてしまう」等の意味を有しており、食料品や飲料品の分野においては、審決が説示するように、他の語(動詞等)や記述と併せて「すばやく(手軽に)行う様子、速やかに、簡単に行う」との意味合いを看取させる働きをするほか、・・・(中略)・・・それ自体で、「素早くできる」又は「簡単にできる」との意味合いを看取させる働きをするものと認められる。」
「そうすると、本件商標をその指定商品のうちの「茶、コーヒー及びココア」に使用した場合には、取引者及び需要者は、これを商品の品質、用途を普通に用いられる方法で表示したものと理解し、自他商品を識別するための標識としての機能を有するものとは認識しないと考えられるから、本件商標は、その商品の品質、用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であって、商標法3条1項3号に該当する。そして、本件商標につき、需要者が被告の業務に係る商品であると認識することができることを認めるに足りる証拠はない。」

「ササッと」だけを商標登録しようとするのは、
相当斬新なアイデアだと思われるのだが、
さすがに競合メーカーは許してくれないだろう(笑)。
(本件の無効審判請求人は日本製茶株式会社)


「ササッと」は、普通の国語辞典に掲載されている言葉ではなく、
審判段階では、「「さっさと」と同義語である」という苦しい主張を強いられていたが*1
本件訴訟では、「擬音語・擬態語の読本」や「類語大辞典」という
新証拠を提出したのが効を奏したようである。

クエン酸サイクル」事件(無効審決取消訴訟

知財高判平成18年4月27日(H17(行ケ)第10714号・篠原勝美裁判長)。

【対象商標】
クエン酸サイクル」(古内亀治朗商店株式会社)
第4330205号号(平成11年10月29日登録)
第29類
「食肉、食用魚介類(生きているものを除く。)、肉製品、加工水産物、豆、加工野菜及び加工果実、卵、加工卵、乳製品、食用油脂、カレー・シチュー又はスープのもと、なめ物、お茶漬けのり、ふりかけ、油揚げ、凍り豆腐、こんにゃく、豆乳、豆腐、納豆、食用たんぱく」

【結論】請求棄却

「本件商標『クエン酸サイクル』をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者・需要者は、上記事情よりして、生物の細胞内物質代謝において最も普遍的な経路(本件代謝経路)、クエン酸による代謝作用への効用を表したもの、あるいは食餌と代謝機能との関係を表したもの、すなわち、食に関する基礎的な用語の一つを表したものと理解するに止まり、何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものといわなければならない。」

本件では商標法3条1項6号が問題になっている。


原告(商標権者)側は、「クエン酸サイクル」という用語は、
一部の生化学の分野の専門家の間で認識されていただけで、
一般需要者の間では認識されていなかった、と主張したのだが、
判決では、辞書や教科書に「クエン酸回路」という用語が登場していること、
新聞記事などにも「クエン酸サイクル」等の用語が登場していることから、
原告の主張が退けられている。


原告は、

クエン酸の効用等が見向きもされなかったころに、いち早くその効能に着目し、研究会を作って製品開発にあたり、平成8年には健康補助食品の商品化に成功し、これに本件商標を付して販売するに至った」

と、“先行者”としての立場を力説するが、
自分が中学生の頃には、「クエン酸」は身体にいいもの、
として十分に認識されていたと思うので、
あまり説得力はない。


ちなみに、原審決は、
3条1項3号に関する最高裁判決を引用して(最判昭和54年4月10日)、
公益性による登録制限の論理を展開しているが、
この点については、
3号該当性の判断と6号該当性の判断が異なることをもって、
審決の言及は「誤り」であったと本判決において断罪されている。


だが、いずれにせよ、結論には影響はなかった。


クエン酸サイクル」商標は、
本件で問題になったものに限られず、
他の区分においても多数登録されているのだが、
上記判決の論旨を見る限り、これらは風前の灯、
になっていると言っても過言ではない・・・。


以上、今回はこんなところで。

*1:特許庁は「直ちに両語が同義のものであるとはいい難い」と請求人の主張を退けた。