物言う株主

来週、再来週と株主総会シーズンを目前に控え、
続々と届いていた各社の議決権行使書を片付ける。


あらためて説明するまでもないことだが、
別に自分が資産家、ということを言いたいわけではない(苦笑)。


一単元でも百単元でも、
届く“お手紙”の中身は変わらない。
ただそれだけのことだ。


筆者自身、何年か前までは、
自分の会社の株主総会にコミットしていたのだが、
今はシフトから外してもらっている。


なぜかって?
それは・・・

仕事の中身があまりにアホらしいんだもん(笑)。

株主総会のバックスタッフなどをやっていると、
日頃は雲の上にいる役員の方々に声をかけられる機会も
多くなるから、実のところこの手の仕事は、
社内からは結構垂涎の的になっていたりするもので、
それゆえ動員される機会の多い法務というポジションは、
「美味しい」と言われたりもするのだが、
付き合わされた側の率直な感想を言えば、
壮大な時間とコストの無駄、といった感想しか出てこない。


日常的なIR活動を
発言権のある「物言う株主*1中心に
行っている現状では、
「物言う機会のない株主」のために
コミュニケーションの場を設ける必要が高い、
ということは自分自身良く分かっているつもりだし、
株主総会とは、本来そのために存在すべきものだと思う。


もちろん会社法上も

「この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。」(295条1項)

重要な場として位置付けられている。


だが、実際にそのような場として機能しているとは
とても思えない、それが現状である。


会社側のスタンスに問題があることは否めない。
事前に行われるリハーサル、
そして綿密に作成された想定問答集には、
「株主の追及をいかに無難に切り抜けるか」という思想はあっても、
「相手が求めるより多くの的確な情報を提供する」という
“コミュニケーション”の基礎となり、
議決権を行使していただくにあたっても、最も重要となるはずの
思想が欠如している。


下積みで資料作成にいそしむ担当者たちの頭の中には、
社長や自分のところの担当役員に恥をかかせたくない、
という内向きな発想はあっても、
株主はこういうことを聞きたいんじゃないか、
といった前向きな発想は皆無に等しい。


かつてのような“圧迫系”の議事進行は、
どこの会社でも近年では流行らないようで、
それは自分の会社も例外ではないのだが*2
それでも、多くの大企業においては、
株主にとっても社員にとっても貴重な時間が、
“セレモニー”で終わってしまっていることに変わりはない、
と言ってよいのではないだろうか。


もちろん、企業側にも言い分はある。


カスタマーサービスセンターに問い合わせれば良いような
細々としたクレームを延々と語る株主。
あまりに抽象的過ぎて、
場内の一般株主からも失笑が漏れるような質問。
前の質問者と同じことをより長々と繰り返す株主。
総会は“青年の主張”大会ではない。


上のような質問が出ると、
オペレーションしている側としては非常に楽で、
定型回答か社交辞令でお返しすれば事足りてしまう。


そして、毎年毎年、
そういう質問者に馴らされてしまうと、
準備する側としてもどっちを向いて仕事をするようになるか、は
明らかであろう。


そもそも、会社の経営全般にわたる話題を
1、2時間で片付けることなど不可能、
と言ってしまえばそれまでだし*3
元々多くの株主は、自分の持株の相場には興味があっても、
経営の中身には大して興味などないのだ、
と言ってしまえば、それまでの話である*4


だが、以上のような状況は、
会社のあり方としても、
そしてそれ以前に、その企業に勤める人々にとって、
健全な状況とはとてもいえない、
自分はそう思っている。


IT化が進んでいる現代において、
なぜ株主に事前に提供される資料が
薄っぺらな招集通知と営業報告+αだけなのか。


折々の施策のプレスリリースだけじゃなくて、
経営者の思想だの哲学だの、といったものだって、
日々発信できる環境は整っているはずなのに。


これは、総会指導の弁護士の先生方や*5
商法学者の先生方が叫ぶだけで変わる話ではないのであって、
会社の中の人間も、外の人間も、
一度は振り返って考えてみなければならないテーマだと
思うのであるが・・・。


で、本題に戻ろう。


『資料版商事法務』等には既にいろいろと掲載されているが、
今年の総会の一番の議題が、
会社法施行に伴う定款変更であることは言わずもがな、であろう。


大体どこの会社もマニュアルどおりの作り方になっているのだが、
会社ごとのポリシーの差が出てきている箇所が一つだけ。

「取締役の責任免除」条項(会社法426条1項参照)*6

である。


元々定款に入れていた会社、
今回新たに定款に追加した会社、と様々ではあるが、
今回の議決権行使に際しては、
上記条項を入れていた会社の定款変更については、
すべて「否」で通させていただいた*7


少々迷ったが、「社外取締役の責任限定」条項を
設けている企業についても同様の対応、ということで。


別に自分が「可」付けようが「否」付けようが、
大勢に影響がでるはずもないのだが、
気持ちの問題である。


野蛮なまでの取締役への責任追及が、
企業監視のあり方として健全なものかは疑問だし、
将来的に責任限定、免除の方向に行くのは間違っていないと思う。


ただ、「責任免除」はあくまでも
「社内の法令順守体制の充実」とセットで導入されるべき
問題のはずだ。


それなのに、
「取締役が期待される役割を十分に発揮することができるよう」
という理由を付し、
監査役会の全員一致による同意を得ております。」
という免罪符を付けただけで、
定款変更議案を提案する、というのでは
説明不足のそしりは免れないだろう*8


そのほかにも、

①取締役報酬の総枠を大幅に増加させている会社
②業績が芳しい状況ではないのにもかかわらず、役員に退職慰労金を支出している会社
③元取締役、執行役員、親会社の役員等を横滑りで監査役に就任させている会社

こういった会社の議案には、容赦なく「否」を投じておいた。


いずれも、事柄そのものが絶対的に悪い、
というつもりはない。


ただ、説明が一言足りない、
そう思ったからである。


以上、散々好き放題述べてきたこのエントリーだが、
今、

「だったら、お前が一から十までオペレーションやってみろよ!」

という怒声が聴こえたような気がする(苦笑)。


もちろん、自分がそういう立場にいて、
権限を持たせてもらえるなら、
今すぐにでもチャレンジしてみたい*9


だが、それができないから「物言う株主」を気取るしかない、
ここに法務戦士の悲しい現実がある*10

*1:いわゆる機関投資家の皆様。

*2:それでも恰幅の良い人間を社内から募って、“特別部隊”として待機させていたりはするのであるが(笑)。

*3:日頃顔つき合わせている役員同士でさえ、中長期の計画を立てる時には何週間も合宿を張って議論して、ようやく全体像が見えてくる、というレベルなのである。

*4:ライブドアの一件で騒いでいる人々の何割が、あの会社のバランスシートやP/Lに目を通していたのか。総会のごとに届く営業報告書に目を通していた人すら、ほとんどいなかったのではないか?

*5:もっとも、現在この手のお仕事に従事されている先生方自体、“クライアントの利益を第一に(もちろん、これ自体は決して間違った発想ではないのだが。)”無難な総会運営の指導に終始されている傾向があるようで、本当にそれで良いのか、という疑問は提起されてしかるべきだろうが(元々、総会屋や特殊株主対策として弁護士が付き始めた、という経緯もあるから、株主とのコミュニケーションとか言われても・・・、というお気持ちは当然あることだろう。

*6:正確には、「取締役の責任免除決定権限を取締役会に委任する条項」、というべきか。

*7:参考までに対象企業は、NTTドコモ、日産、中部電力伊勢丹、電化(社外取締役のみ)、コナミ社外取締役のみ)といったところ。

*8:今年に関しては、会社法の施行が遅れたせいで362条5項の決議をするタイミングが難しかった、というのは分かるが、それなら翌年の総会まで定款変更を見送る、という手もあったように思う。

*9:もちろんそれが容易いことではないのは重々承知。役員の中に理想に共鳴してくれる人がいたとしても、悲しい哉、横から足を引っ張られる・・・、そんな気がする。

*10:総務部門の尻拭いのために法務部門が存在するわけではないのだ、と小さい声で囁いてみるテスト・・・。

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