アスクルに明日は来るのか?

単にタイトルのダジャレを書きたかっただけだろ、という突っ込みは甘んじて受けるが*1、実際、傍から見ていると「この会社の明日はどうなるのだろう?」等々、いろいろと考えさせられる話題ではあるわけで・・・。

17日、18日と各メディアでも立て続けにニュースが流れ、いろんな方がいろんなことをおっしゃっているので、ここであえて繰り返すようなこともないのだが、一応、関係する会社から出ているリリースを時系列で並べてみると、以下のような感じになる。

7月17日 
ヤフー:アスクル株式会社の第56回定時株主総会における取締役選任議案(第2号議案) に対する当社議決権行使に関するお知らせ
https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2019/07/17a/
プラス:アスクル株式会社の第56回定時株主総会における取締役選任議案(第2号議案) に対する当社議決権行使に関するお知らせ
https://www.plus.co.jp/sp/news/201907/0003747.html
アスクル:ヤフー株式会社からの社長退陣要求に関する当社意見と提携解消協議申入れのお知らせ
https://pdf.irpocket.com/C0032/Uxy1/ddHX/sWqW.pdf
ヤフー:アスクル社からの「業務・資本に係る協議の申入れ」の回答について
アスクル社からの「業務・資本に係る協議の申入れ」の回答について - プレスルーム - ヤフー株式会社
ヤフー:アスクル株式会社からの「業務・資本提携に係る協議の申入れ」に関するお知らせ
https://file.swcms.net/file/sw4689/ja/ir/news/auto_20190717472835/pdfFile.pdf
7月18日
ヤフー:アスクル株式会社の本日(2019年7月18日)開催の記者会見について
https://file.swcms.net/file/sw4689/ja/ir/news/auto_20190718473320/pdfFile.pdf

プレスリリースの数で言えば、圧倒的にヤフー株式会社の方が手数が多いのだが、アスクル株式会社のリリースは、それまでのヤフー㈱とのやり取りに係る添付資料も含めると15ページにもわたる長大なもので、しかも18日には岩田社長が大々的に記者会見まで行っている*2

世論の風向きがどちらを向いているか、と言えば、現時点では何とも言えないところはあって、

「あれこれ言ったって、取締役の最終的な選任権を持っているのは株主で、そこは資本の論理が勝つところなんだからしょうがないだろう
「再任拒否の口実を与えるような決算を続けたのが悪い」
「そもそも、1位株主と2位株主だけで過半数取られてしまうような状況を作り出した方が悪い」

という声もあれば、

アスクル指名・報酬委員会が決めた次期取締役候補者を、資本の論理で一方的に覆すのはおかしい
「そもそも『LOHACO 事業』の再編が首尾よく進まなかったことの腹いせ的な人事介入ではないか」*3

といった声もある。

「指名・報酬委員会」が決めた候補者を覆す形になることに関しては、アスクルのプレスリリースに添付されている「アスクル株式会社独立役員会」の書面にも、

「Y 社は、当社に派遣している取締役を通じて、当社が指名・報酬委員会における次期取締役候補者の検討を進めている経緯を了知しているにもかかわらず、定時株主総会に上程する取締役選任議案を決定する指名・報酬委員会及び取締役会の開催予定日(2019 年 7 月 3 日)の直前に突如として岩田社長の退陣を要求してきたものであり、まさに数の論理で上場企業たる当社の指名・報酬委員会によるプロセスを踏みにじろうとしたものです。本件業務・資本提携契約第 3.2 条第3 項では、当社取締役選任に係る議案は、当社が設置する指名・報酬委員会の答申を最大限尊重して当社取締役会で決定すると定められていますが、今般の Y 社による岩田社長退陣要求は上記条項の趣旨に反するばかりでなく、上場企業としての当社におけるガバナンス体制を全く尊重していないものと言わざるを得ず、極めて遺憾であります。」(強調筆者)

というコメントが記されているのだが、「指名・報酬委員会」はあくまで内部機関でしかなく、最終的な選任・非選任の判断を行うのが株主総会であることに変わりはない。
そして、アスクルが閉鎖会社ではなく一部上場の公開会社であることを踏まえると、上記で引用されている「業務・資本提携契約」の中で、特定の株主の株主総会での議決権行使に関し、明確な制約(取締役会が提出した議案には常に賛成する、等)が課されていることも考えにくいわけで、社内の独立した委員会の判断といえど、それに対して、「尊重」する、という精神条項以上の拘束力があるわけではないとすると、法的見地からはアスクルの方が分が悪い、ということになりそうである*4

そうなると、最後の手段としては、アスクル側が仄めかしている「業務・資本提携契約の精神に反する」ことを理由とした契約解除、株式売渡(買戻し?)請求権の発動くらいしか打つ手なし、ということになってしまいそうだけど、ヤフー側は「当社は、アスクルの株式を譲渡する予定はありませんし、アスクルから売渡請求も受けていません」「当社としては業務・資本提携関係の見直しについての協議は、不要と考えております」と当然の”ゼロ回答”をした上で、

「当社はアスクル筆頭株主として、引き続きアスクルの上場企業としての独立性が重要との考えから、新経営陣とアスクルの意向を尊重いたします。当社は、アスクルの中長期的な企業価値の向上および早期の株主共同の利益の最大化に向けて迅速に取り組めるよう、最大限協力をして参る所存です。」

と、アスクル側のリリースの表現を逆手に取るような「契約の精神遵守」アピールまで出してきている。

アスクル現社長の後任に自社から送り込む意向がない」という点と合わせて、現社長の去就の話とアスクルとの業務・資本提携の話を明確に切り分ける、というこの理屈がどこまで関係者の中でストンと落ちる話になるのかは分からないが、抽象的に書かれている(と思われる)業務・資本提携契約の「精神」に関する条項に(法的な意味で)「違反した」という認定を裁判所で勝ち取るのは元々かなりの難作業だと思われ、加えて、この”切り分け”論を前面に出されてしまうと、アスクルはより苦しい立場になってしまうのは間違いない。

一般論として、こういう場合は、アスクルの現社長側が根負けして自ら取締役の地位を降りる(提出議案の候補者を一部取り下げる)か、少なくとも社長の座は降りる、ということで”手打ち”にする、というのが落としどころになることが多い。

もしかしたら、市井の人々の多くは、「第2位株主のプラス株式会社(持株比率11.63%)が最後の最後でアスクル側に戻って原案通り可決」というドラマチックな展開を期待しているのかもしれないけど、企業小説のようなどんでん返しをここで期待しても多くの場合は空しい結果になるだけだ。

そもそも、ヤフー側の主張とアスクル側の反論のどちらが的を射ているのか、十分に判断できるような材料がない*5以上、株主でもない外野の人間は静かに見守るしかない、というのが今回の話。

ただ、これまでなら、決して表に出ることはなく、双方の企業イメージを害することもなしに水面下で整理されていたであろうこの類の話がこんなに堂々とオープンにされてしまっている、という状況を見ると、もう少しうまく根回しできなかったのかな?という素朴な疑問は出てくるわけで、特に「資本の論理上有利な立場」にある者がそうでないものに対して何かをしようとする時、わざわざ”悪役”を演じなくて済むように・・・という観点から、本件で垣間見えるやり取りからも、いろいろと考えさせられるところは多いのである。

(2019年7月20日更新)

*1:ちなみに、アスクル株式会社の社名は翌日配達=「明日来る」から転じたものだ、ということがWikipediaに書いてある。多分そういうことなのだろう。

*2:アスクル岩田社長、怒りと困惑の記者会見 ヤフーの強硬手段は「全てが不可解」 (1/2) - ITmedia NEWS

*3:ヤフー側は、プレスリリースの中で「今後もLOHACO 事業の譲渡を申し入れる方針はありません」ということを強調しているが、あくまで今の方針がそうだ、と言っているにすぎないし、今回の議決権行使によって現社長が地位を追われるようなことになれば、その後方針を変えて再び申し入れを行った時のアスクル側の対応も当然変わってくるだろうということは容易に想像がつくわけで、アスクル側の反論に対する再反論としての説得力は決して強いとはいえない。

*4:このコメントの末尾が「極めて遺憾」という表現に留まっていることも、そういった限界を明確に表しているように思われる。

*5:公表されている決算資料を見る限り、対計画を下回ったとはいえ、この厳しい経営環境の下、例の物流施設火災という致命的なダメージも乗り越えて業績を回復基調に乗せているのだから、通常なら経営責任を問われるような場面ではないと自分は思うが、公表資料からは見えない何か、があるかもしれないので、それだけでヤフーの主張が不当だ、と断定することも難しい。