麻原弁護人2名への処置請求

あの業界の内情にそんなに詳しいわけではないので、
あくまで感想の域を出ないのだが、
少し疑問が残ったニュース。

控訴審の公判が開かれずに死刑が確定した元オウム真理教代表、松本智津夫死刑囚(麻原彰晃、51)の弁護士2人について、東京高裁(須田賢裁判長)は25日、日本弁護士連合会に処分を求める「処置請求」をした。高裁は「控訴趣意書の掲出期限の延期を申し出ながら、延期後もあえて提出しなかったのは、審理の迅速な進行を妨げる重大な違法行為」としている。」(日経新聞2006年9月25日付け夕刊・第23面)

東京高裁は処置請求書の中で、
松下明夫、松下武の両弁護士に対し、

「両弁護士が提出期限最終日に趣意書を持参しながらあえて提出しなかった行為は「不誠実」であるうえ、「法曹に許されざる一種の実力行使で、被告の裁判を受ける権利を奪った重大な職責違反」(同上)

と厳しく批判している、ということであるが、
ここで問題とされているのは
「期限最終日に趣意書を持参しながらあえて提出しなかった行為」
であって、ここでは控訴趣意書を提出しなかったこと自体が
問題とされているわけではなさそうだ。


最三小決平成18年9月15日(堀籠幸男裁判長)*1において、
刑訴規則238条の「やむを得ない事情」があるか否かの争点をめぐって
認定された事実の中にもあるように、

「同日(注:提出期限最終日)の裁判所と弁護人との打ち合わせの席上、弁護人は、控訴趣意書は作成したと明言しながら、原々審の再三にわたる同趣意書の提出勧告に対し、裁判所が行おうとしている精神鑑定の方法に問題があるなどとして同趣意書を提出しなかった・・・」

という点を裁判所は重く見たのだろう。


ただ、前後の文脈が分からないので何ともいえないが、
一般論として、

「提出期限の延期を申し出た者が、延期された期限内に趣意書を提出すべき義務は、延期前と比較してより一層強まる」

とまで言ってよいものかどうかは疑問だし、
そもそも、被告人に対する誠実義務、の領域を越えて、
裁判所が弁護人の職務行為に介入することが許されるかどうか、
という素朴な疑問もここにはある*2


裁判所は「迅速な審理の進行を妨げた」ことを
「重大な違法行為」、と指摘するが、
「迅速審理」は一義的には“被告人の利益”のために
求められるものであって、
被告人自身が迅速な審理を受けることを拒むのであれば、
あえて引き延ばすことも許されてしかるべきだろうし、
控訴が認められず、結果として被告人が不利益を受けたことを
問題とするのであれば、
その是非の判断は、被告人サイドからのアクション(懲戒請求)に
委ねるべきではないか?


それゆえ今回、東京高裁がわざわざ「処置請求」を行ったことについて、
どうも釈然としない思いが残る。


まぁ、この1年のネット上での反応などを見る限り、
何らかの処分を下したほうが、
“世論”の意向には沿うのだろうけど・・・。

*1:H18(し)202号・控訴棄却決定に対する異議申立て棄却決定に対する特別抗告事件

*2:それゆえ、「処置請求」自体、17年間封印されていたのだろう。

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