「ラブandベリー」商標事件

商標の新・審査基準案に関するコメントも
ようやくアップできたところで、
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20061219/1166549509
溜まっている裁判例の整理でもしようかと。


手始めは、以前チラッと触れた「ラブandベリー」グッズをめぐる、
商標権侵害差止等請求事件*1
東京地判平成18年12月22日(民事第40部・市川正巳裁判長)*2


原告は有限会社ジェイ・アイ・イー、
被告は株式会社セガ
争いの元になっているのは近年あちこちで見かける人気キャラクター、
ラブandベリー」である。


原告が有していた商標は、「LOVE BERRY」という商標で、
被服類(第25類)を指定商品として、平成11年7月16日に登録されている*3


争いのない事実によれば、
原告は、高校生以上の女性を対象に、
インターネット等を通じてTシャツ等を販売している事業者である
ということで、探すと確かに
http://www.loveberry.co.jp/のようなサイトも見つかる。


一方、槍玉に挙げられたセガの商品には、
何種類かの異なる標章が付されていたが、
いずれも、同社が手がけているゲーム機、
「オシャレ魔女ラブandベリー
とタイアップしたものであることに変わりはなかった。


以上の事情を前提に、裁判所はいかなる判断をしたか。

商標権侵害の成否について

まず裁判所は原告の商標について、

「アルファベットの大文字の「LOVE」という文字と「BERRY」という文字が横一列に記載された」

という外観、及び「ラブベリー」という称呼が生じることを
認定した上で、当事者間に争いのあった「観念」につき、

「LOVE」は「愛、恋愛」を、「BERRY」は「核のない果肉の柔らかな食用小果実」をそれぞれ意味し、いずれも広く知られた言葉であることは、当裁判所に顕著である。よって、「LOVE」と「BERRY」を横一列に記載した本件登録商標から、「愛らしい小果実」などの観念が生じるものと認められる」(29頁)

と認定した。


そして、上記認定した原告商標と被告のそれぞれの標章の類似性を
外観、称呼、観念を中心に対比し、
取引の実情を加味して総合的に判断するという
スタンダードな手法によって、商標権侵害の成否を判断している*4


結果から言えば、裁判所が原告商標と類似する、と認定したのは、
9つのうち4つである。


裁判所が認定した表現を用いるならば、

被告標章2
「白地に紺色で縁取りされ、丸みを帯びた「LOVE」と「BERRY」の文字を上下に重ねた部分が中央に配置されており、その周辺には、「CUTE」「POP」の文字、キャンディの形をした図形及びハート型の図形、並びに白の細かい水玉模様が配置されている(「LOVE」と「BERRY」は中央に配置され、かつ、くっきりと縁取りされているため、周辺の文字等とは区別して認識される)」
被告標章4(1)
「丸みを帯びた文字でスペースを空けずに「LOVE&BERRY」と表記した標章であり、これが異なる色で6段にわたって使用されていること、丸みを帯びた「&」は、前後の「LOVE」、「BERRY」との間にスペースが存在しないためそれらと一体となり、目立たない外観となっていること、並びに左胸部にハート型の果実の模様が付されていること」
被告標章5(1)
「ハート型に果実のヘタと葉を加えた図形の中に、「LOVE★BERRY」の文字が小さく態様」であり、「「LOVE」と「BERRY」との間の★が1回り小さく、両者を分離するよりも「LOVEBERRY」をやや図案化した印象を与えている」
被告標章6
「「LOVE」と「BERRY」との間に、「L」の字に比し縦で2倍、横で4倍以上の大きさの「(ハートマーク)」が表示されている」

が類似していると判断されたことになる。


★や&、「ハートマーク」が入った場合の外観類似性の判断など、
実務的にはいろいろと面白いのであるが、
やはり他の商標とこれらとの判断を分けたのは、
「オシャレ魔女」の文字や、キャラクターの顔、といった、
元々のゲームそのものを想起させるものがあったか、
という点だろう。


裁判所は、キャラクターを想起させる標章については、
先に述べた原告商標とは異なる観念、
「オシャレ魔女の“ラブ”と“ベリー”」
が生まれるとして、「観念」類似の判断を異にしているし、
ゲームキャラクターとしての元来の「LOVE and BERRY」の周知性ゆえ、
取引の実情に対する評価も異にしている*5


自社の著名なコンテンツを商品化する際に、
たまたま特定の商品区分に同一・類似の先行商標が存在して
頭を悩ますことは多いだろうが、
本判決は、その意味で、どこに注意すれば商標権侵害を回避しうるか、
有力なヒントを示してくれているように思われる。

損害額の算定

さて、セガとしては一部被告標章について侵害が肯定されたため、
それらに対する差止、損害賠償も甘受することになってしまったのだが、
判決をよく読むと、差止請求に対しては仮処分が付されていないし、
損害賠償についても、原告の請求500万を22万4217円にまで
圧縮することに成功している。


特に38条2項の賠償額推定規定に対し、

「本件商品が被告ゲーム機の関連商品の1つとして販促品的な位置付けで販売」
「顧客は高校生以上の女性」

といった事情を元に、
被告売上高の「95%」については、
被告が販売を行わなければ原告の売上げが増加する
との因果関係が認められない、
として権利推定の覆滅を行ったくだりなどは、
事実上被告勝訴といってもよい内容ではないか、と思う。


なお、よくよく調べると、
セガの側でも自らの商標権を確保しようとした痕跡は見られる。


当該キャラクターに関連して出願された商標(第25類を指定したもの)
として以下の4件。

◆「LOVE AND BERRY」 第5005502号
H18.1.6出願 H18.11.24登録
◆「オシャレ魔女/ラブandベリー」 2005-102980号
H17.11.2出願  
◆「オシャレ魔女\ラブandベリー」 (ロゴ) 2005-111192号 
H17.11.25出願 
◆「ラブ and ベリー」 2005-116522号
H17.12.12出願

もっとも、「オシャレ魔女/ラブandベリー」は、
現在拒絶査定不服審判で係争中だから*6
セガとしては気が気ではないだろう*7


また、本件に対する意趣返しなのか、
ジェイ・エイ・イー社の側でも、

◆「LOVE&BERRY」 2006-22993号
H18.3.15出願
◆「LOVEandBERRY」 2006-22994号
H18.3.15出願

という2件の商標を同じ25類で出願している。


単に自己防衛本能が働いた結果なのかもしれないし、
セガが先行して出願していた第5005502号の存在ゆえ、
登録を受けられるかどうかは微妙だとしても、
こういう出願の応酬が、泥仕合的雰囲気を醸し出しているのは
間違いないところであろう(笑)*8

*1:以前のエントリーとして、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20061223/1166982789

*2:H17(ワ)第18156号

*3:登録第4294927号

*4:被告側は商標的使用該当性も争点にしていたが、裁判所はあっさりと被告標章の出所識別機能を肯定したため、事実上類似性判断が侵害の成否を分けることになった。

*5:ただし、4(2)については外観そのものの違いを重視して判断を導いているが。

*6:2006-18729号、H18.8.25請求

*7:登録審査時の類否判断と侵害成否判断とでは基準が若干異なるとしても。

*8:端から見ている分には面白い(苦笑)。

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