「赤本」問題再燃。

産経新聞の記事が結構な話題になっている。

「大学入試の過去問題集などで、国語の長文読解問題の一部が掲載されない異例の事態が起きている。評論などを執筆した作家から著作権の許諾が取れていないためだ。教育業界では「教育目的」という大義名分のもとで無許諾転載が慣例化していたが、著作権保護意識の高まりから、大手予備校や出版社などが相次いで提訴されており、引用を自粛する傾向も目立ち始めている。」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080525-00000960-san-soci

これと同根の問題として、国語教科書に準拠した解説書、問題集をめぐる裁判例を以前本ブログでも紹介したことがあるが*1、裁判所(高部コート)は同一性保持権侵害の成立範囲を極力狭めはしたものの、著作権法26条の解釈論として「著作者の許諾不要」という結論は導けない、と言い切っており、純粋な法解釈で争うには教育業界側の分が悪い、というのが現状だといえるだろう*2


個人的には、論文や小説の中からわずか半ページ〜1ページ分くらい抜き出して使ったところで著作権者の経済的利益が害されるとは解し難いし*3、そんな微々たる侵害を根拠に「許諾権」を振りかざすのは権利濫用、言語道断! といいたいところであるが、どんな悪法でもルールはルール、と諦めざるを得ないのだろうか・・・。


法的にどうしようもなければ、社会的に著作者団体に圧力をかける、という手も考えられなくはないが、脆弱な教育産業界の力だけでは如何ともし難いというのが実情だろう。


短期的には裁判所の大胆な解釈を、中期的には新たな権利制限規定での対応を、そして長期的にはフェア・ユースで何とかならんのか・・・と淡い期待を抱いておくことにしたい*4


なお、記事の中では、

駿台予備学校河合塾のホームページでは、センター試験の問題文を掲載せず新聞社の特集サイトにリンクさせている。「著作権が理由であることは否定しない」(駿台広報課)。報道を目的とする新聞社のサイトは著作権許諾が不要のため、“間借り”することで訴訟リスクを避けている。」

とあるが、いかに新聞社のサイトであったとしても、入試問題全文をそのまま掲載し続けることが「時事の事件の報道」の一環として認められるものなのかなぁ・・・?という率直な疑問が沸いてくるところで、他人事のように報じている新聞社自身が、後にこの種の紛争に巻き込まれる危険があることは、指摘しておかなければならないと思う。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060427/1146596857

*2:著作権業界ではかなりリベラルな解釈を採られている中山信弘教授でさえ、この点については、「単なる複製であり、著作権の許諾が必要になる」と何らフォローはされていない。中山信弘著作権法』270頁(2007年、有斐閣

*3:もちろん、問題作成に際しての改変等がなされていれば、著作者人格権侵害の問題は生じうるわけで、経済的観点からのみ論じていい、というものでもないのであるが・・・。

*4:もっともフェア・ユース規定を入れたところで、入試問題の解説のための転載行為が「フェア・ユース」に該当するとされる保証はない。

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