似たもの同士。

類似した「キャッチフレーズ」の使用をめぐってトラブルになる事案が時々出てくる。


例外的な場合を除いて、商標権で保護するのが難しいと考えられていることもあって*1、不競法上を使った勝負に持ち込まれることが多いのであるが、戦いの舞台を変えたからといって、うまく行くとは限らない。


アイスクリームショップ同士の対決となった本件も、それを証明するかのような結論になっている。

東京地判平成20年11月6日(H20(ワ)第13918号)*2

原告:B-Rサーティワンアイスクリーム株式会社
被告:コールド・ストーン・クリーマリー・ジャパン株式会社


原告が「We make people happy.」というキャッチフレーズを使っていたのに対し、被告が「Make People Happy」と原告のフレーズから「We」を抜いただけのフレーズを使用したことが不正競争防止法2条1項1号の「不正競争」に該当するか、というのが本件の争点である。


原告は、昭和48年12月に設立され、全国にチェーン展開している老舗アイスクリーム事業者、一方、被告は平成17年5月に設立された新興チェーン。


原告のHP(http://www.31ice.co.jp/contents/company/)と被告のHP(http://www.coldstonecreamery.co.jp/about/corporate.html)を見比べれれば分かるように、米国発のアイスクリームブランドであることや顧客に対するメッセージなど、両者には元々“何となく共通している”ところが多い。


被告には被告なりのアイスクリームの製法上のセールスポイントがあるとはいえ、“イメージ”に依拠するところが多いこの種の業界において、誤認混同は何としても避けられねばならないのであって、キャッチフレーズの類似性を根拠に訴訟を提起した原告サイドの心情は、筆者にも理解できなくはない*3


だが、不正競争防止法は、そんなに甘い法律ではなかった。


裁判所は、

「原告文言は,原告における設立以来の「モットー」,すなわち,会社の営業活動に関して基本となる指針や目標を定めた標語であり,「We」,「make」,「people」及び「happy」の平易な4つの英単語からなる英文であって,中学生程度の英語の理解力があれば,「私たちは人々を幸せにする」との意味を了解することのできるものである。英文であるとはいえ,このような平易かつありふれた短文の標語そのものは,本来的には,自他識別力を有するものではないことは明らかである。原告文言のような標語が法2条1項1号の「商品等表示」としての営業表示に該当するためには,長期間にわたる使用や広告,宣伝等によって当該文言が特定人の営業を表示するものとして,需要者の間に広く認識され,自他識別機能ないし出所表示機能を獲得するに至っていることが必要であるというべきである。」(22-23頁)

という規範を立てた上で、一部の使用態様については、

「基本的に原告文言が一般消費者の目に触れるものではない」or 「目に触れる機会が多かったものとは認められない」

とし、また、店頭に掲げられた「セールスビルダーボード」上の文言については、一般消費者が「原告文言に接する機会が多い」ことは認めつつも、

「原告の店舗においては,これらのセールスビルダーボードや統一ポスター等に記載された原告文言よりも,はるかに目立つ外観上の表示をもって,前記(1)イの登録商標(注:「サーティワンアイスクリーム」のロゴマーク)が使用されており,これと比較して原告文言はさほど目立たず,一般消費者に強い印象を与えるものではないことが認められる。また,セールスビルダーボードや統一ポスター等に記載された原告文言に接した一般消費者は,その一文を読み取った上で,これを原告からの顧客に対するメッセージであるとともに,原告の社員ら現場における店舗の従業員に向けられた社内的な意味合いが強い社是のようなものとして受け取るものと認められ,原告文言を原告の業務に係る営業の表示として受け取るとは通常考え難い。」(23-24頁)

とし、

これらの原告文言の使用態様や原告文言の持つ本来的な意味合いに照らすと,上記の原告表示の使用事実をもって,原告文言が原告の業務に係る営業表示であるとして一般消費者の間に広く認識されていると認めることはできず,他に,原告文言が原告の業務に係る営業表示に当たることを根拠付ける事実を認めるに足りる証拠はない。」(24-25頁)

と、原告のキャッチフレーズの商品等表示性を否定したのである。



筆者自身、サーティワンアイスクリームの店頭に、上記のようなキャッチフレーズが掲げられていたことに、今の今まで気が付かなかったくらいだから*4、これも順当な結論だというべきだろうが、類似性で蹴られるならともかく、商品等表示性そのもので蹴られてしまったのは、原告としてはちょっと痛かったのではないかと思う。


なお、本件で共通して用いられていたフレーズが「make people happy」というシンプルなものであったことが、結論に影響を与えているのは事実だとしても、判旨にあるとおり「長期間にわたる使用や広告,宣伝等によって当該文言が特定人の営業を表示するものとして,需要者の間に広く認識され,自他識別機能ないし出所表示機能を獲得するに至って」いれば、商品等表示には該当するわけで、類似フレーズを使用している側としては、そのシンプルさのみをもって、不競法違反の責めを免れるものではない、ということに注意する必要がある*5

*1:とはいえ、商標登録が全く認められないわけではない、ということに注意する必要がある。

*2:民事47部・阿部正幸裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081110133810.pdf

*3:ちなみに、本場米国でも両者はライバル関係にある事業者として、認識されることが多いようである。http://answers.yahoo.com/question/index?qid=20080830210152AAmBNp3参照。

*4:アイスクリームは好物なのに(笑)。

*5:キャッチフレーズをガンガン前面に出して宣伝展開を行っているような場合(例えば某バーガーチェーンの“I'm lovi'n it”など)であれば、いかにシンプルな部分の借用でも、不競法違反には当たりうるのではないだろうか。残念ながら試してみる勇気はないのだが・・・(笑)。

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