以前ご紹介した祇園祭ポスターの著作権侵害訴訟(東京地判平成20年3月13日)に関し、『知財管理』誌に森脇肇弁護士の評釈が掲載されている*1。
この評釈の中では、「委託者の注意義務」をめぐる下級審裁判例が整理されているほか、著作権侵害に関する委託者の過失を肯定されないようにするための「実務でのポイント」(特に契約書上の対応)についても多くの紙幅が割かれており*2、実務者サイドから見て極めて興味深いものとなっているのだが、特に、自分が共感したのは、判決の中で八坂神社の過失を肯定した判旨に対する、森脇弁護士の評価の部分である。
森脇弁護士は、
「「プロ」とそうでない者における注意義務の程度は異なるというのが常識的な理解というものであろう」(1508頁)
という前提に立った上で、
「かように高度な注意義務を負うのは自らが営む事業そのものが著作権と密接に関係する場合に限るべきであり、事業に付随して広告宣伝を行うとか著作関連物品を管理するにとどまる者が「プロ」に制作委託する場合は、前記判決(3)(4)*3のとおり、「プロ」に対して事細かに確認するとか自ら積極的に侵害調査を行うまでの注意義務はなく、「特段の事情がない限り」委託者を信頼しても過失はないという原則論に立つべきである」(1508頁)
と述べられる。
そして、
「被告八坂神社は、重要文化財、著作物その他文化的所産を取り扱う立場にある者であって、もとより著作権に関する知識を有するものであるから、著作物を使用するに際しては、当該著作物を制作した者などから著作権の使用許諾の有無を確認するなどして、著作権を侵害しないようにすべき注意義務があるというべきである。」
「被告八坂神社は,その最終判断に当たり,被告サンケイデザインに対して,本件写真の著作者名や当該著作者名を表示しないことに対する承諾の有無を具体的に確認し,その状況次第では,更に著作者に当該承諾の有無を直接確認するなどして,著作者人格権を侵害しないようにすべき注意義務があったというべきである。」
という東京地裁の判旨につき、本件事案の下での結論の妥当性はともかくとして、
「「一般論として」被告Xに高度の注意義務を負わせる点は賛成できない。」(1509頁)
とされているのである。
本件判決の上記のくだりに関しては、自分も以前、
「確かに文化財も著作物に当たりうるのかもしれないが(もっともほとんどはパブリックドメインになっているだろうが)、上記太字部分のような理由付けで「注意義務」が認められてしまうのだとすれば、世の中のほとんどの広告掲載主体は、自身の広告における著作権侵害について無過失責任を負わされることを覚悟しなければならないだろう。」
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080324/1206295744
とコメントしていたところであるが、やはり常識的に考えればクエスチョンマークの付く判断だといわざるを得ないように思われる。
もちろん、ここで過失が否定されたからといって、著作権を侵害した制作物を制作委託者が使い続けることができるわけではなく、委託者側としても有形無形の損害を被ることは免れ得ないわけだが、それでも多額の損害賠償を権利者から請求されるストレスからは解放されるわけで、宣伝担当者もちょっとは気が楽になるのではなかろうか。
願わくば上級審で異なる判断が示されることを期待したい。