著作権間接侵害理論の新展開?

以前ちらっとご紹介した「土地宝典」をめぐる判決だが*1、よく読むと新聞記事で言及されていた「著作物性」よりも、他の争点の方が興味深かったりする。


特に、「法務局内にコインコピー機を設置し、当該コインコピー機を用いた利用者による無断複製行為を放置していたこと」が、「被告(国)自身の不法行為にあたる」としたくだりなどは、見方によっては究極の「間接侵害責任拡張法理」のようにも思えるわけで(結論から言えば、そうではない、ということになるのだが)、今後の議論の展開が注目されるところだろう。

東京地判平成20年1月31日(H17(ワ)第16218号)*2

原告・株式会社富士不動産鑑定事務所ほか(代理人・荒井俊行弁護士)
被告・国


本件は、既報のとおり、原告Cが作成した「土地法典」の無断複製行為を各法務局が行わせたことが、国の著作権侵害行為にあたる、として、Cから著作権を承継した原告らが国を相手取って訴訟を提起した、という事案である。

土地宝典の著作物性について

まず、裁判所は、地図の著作物性について、

「一般に,地図は,地形や土地の利用状況等の地球上の現象を所定の記号によって,客観的に表現するものであるから,個性的表現の余地が少なく,文学,音楽,造形美術上の著作に比して,著作権による保護を受ける範囲が狭いのが通例である。しかし,地図において記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法に関しては,地図作成者の個性,学識,経験等が重要な役割を果たし得るものであるから,なおそこに創作性が表われ得るものということができる。そこで,地図の著作物性は,記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して,判断すべきものである。」
(35頁)

という一般論を述べた上で、本件「土地宝典」について、

「本件土地宝典は,民間の不動産取引の物件調査に資するという目的に従って,地域の特徴に応じて複数の公図を選択して接合し,広範囲の地図として一覧性を高め,接合の際に,公図上の誤情報について必要な補正を行って工夫を凝らし,また,記載すべき公図情報の取捨選択が行われ,現況に合わせて,公図上は単に分筆された土地として表示されている複数の土地をそれぞれ道路,水路,線路等としてわかりやすく表示し,さらに,各公共施設の所在情報や,各土地の不動産登記簿情報である地積や地目情報を追加表示をし,さらにまた,これらの情報の表現方法にも工夫が施されていると認められるから,その著作物性を肯定することができる。」(39頁)

として、その著作物性を肯定した。


被告側は、「土地宝典」が全面的に公図に依拠して作成されたものであり、その資料価値の大部分が公図そのものにあること、などを指摘して争ったのだが、上記のような情報の付加がなされている以上、一定の創作性は認めざるを得ないというべきであり、裁判所の判断は概ね妥当なものとして支持できるように思われる。

被告の行為の不法行為該当性

本件で最も興味深いのは、この争点をめぐる裁判所の判断である。


被告側は、

(1)窓口での土地宝典の貸出しが作成者の権利侵害につながる認識を抱くことは困難であった以上、結果についての予見可能性がない。
(2)法務局内に設置されたコインコピー機は、国とは独立した財団法人である民事法務協会が設置したもので、国は国有財産法に基づいてその使用を許可しているに過ぎず、コインコピー機の管理について関与する権利を有しない。

といった主張を行ったのであるが、裁判所は次のように述べて被告側の主張を排斥している。

「上記認定事実によれば,本件土地宝典は,広範な地域の公図及び不動産登記簿等の情報を一覧することができるため,不動産関係業者等が郊外地や山林地などの物件調査をするにあたって重用されており,また,各種申請における添付資料とされていることなどから,遅くとも原告らが本件土地宝典の著作権を譲り受ける以前から,現在に至るまで,不動産関係業者等をはじめとする不特定多数の第三者が,上記のような業務上の利用目的をもって,各法務局に備え置かれた本件土地宝典の貸出を受けて,各法務局内に設置されたコインコピー機において複製行為をなしてきたことは容易に推認し得るところである(略)」
「一方,このような公的申請の添付資料や物件調査資料としても使われるという本件土地宝典の性質上,貸出を受けた第三者がこれを謄写することは十分想定されるのみならず,閲覧複写書類の改ざん防止の見地から,コインコピー機は法務局が直接管理監督している場所に設置されているものであるから,各法務局は,本件土地宝典が貸し出された後に複写されているという事情については,十分に把握していたはずである。また,民事法務協会がコインコピー機を設置しているとはいえ,同協会は法務省所管の財団法人であって,被告が同協会に対し法務局内のコインコピー機設置場所の使用許可を与えており、かつ、実際にコインコピー機設置場所の管理監督をしているのは、上記のとおり,各法務局である。よって,被告(各法務局)は,本件土地宝典の貸出を受けた者がこれを複写しているという事情を十分に把握していたのであるから,この複製行為を禁止する措置をとるべき注意義務があったのに禁止措置をとらず,漫然と本件土地宝典の貸出行為及び不特定多数の一般人による複製行為を継続させたことにおいて,本件土地宝典の無断複製行為を惹起させ,継続せしめた責任があるといわざるを得ない。」
「また,民事法務協会は,コインコピー機の直接の管理者であり,不特定多数の一般人をして本件土地宝典の無断複製行為をさせ,これにより利益を得ていたのであるから,本件土地宝典の複製行為については,その侵害主体であるとみるべきである。そして,被告(各法務局)が本件土地宝典の複製を禁止しなかった不作為についても,被告が民事法務協会に対しコインコピー機の設置許可を与え,同設置場所の使用料を取得し,同コピー機が法務局が貸し出す図面の複写にのみ使用されるものであること,法務局がコインコピー機の設置場所についても直接管理監督をしていることを考慮すると,各法務局がコインコピー機の使用に関し,民事法務協会と共に直接これを管理監督していたものと認められ,各法務局についても,不特定多数の一般人による本件土地宝典の複製行為について,単なる幇助的な立場にあるとみるよりは,民事法務協会と共に共同正犯的な立場にあるとみるのが相当である。以上によれば,民事法務協会と被告とは,本件土地宝典の不特定多数の一般人による上記複製行為について、共同侵害主体であると認めるのが相当である。」(以上44-45頁)

一見すると、この判旨には危うい論理が含まれているように見える。


特に、自己の建物内にコピー機を設置している事業者に対して「複製する行為を禁止する措置をとるべき注意義務」などというものを認めているくだりなどからは、いろいろとアタリが大きいのでは?という懸念が出てきても不思議ではない*3


だが、本件の事案の下では、上記のような判断になるのもやむを得ないといわざるを得ないように思われる。


利用したことのある人なら分かると思うが、かつては、法務局に行くと、資料の持ち出しができない代わりに、館内にあるコピー機の利用を勧められることが多かった*4


やたら料金が高くて辟易させられることも多かったのだが、必要な資料を持って帰らないといけない以上、背に腹は変えられない。


かくして、法務局の窓口での資料の貸し出し→館内コピー機での複写→資料の返却、という一連の作業は一つのルーティンとなる。


そして、このような状況下で、いかに「コピー機を管理運営するのは「民事法務協会」という別団体」であって、法務局自身は利用者の複製行為を関知していない、と強弁したところで、「持ち出し禁止の資料を法務局が利用者にコピーさせていた」という事実関係が揺るぐはずがないのである*5


裁判所が、“法務局と民事法務協会”それぞれが提供するサービスを一体のものとして考えていることは、

「被告は,本件土地宝典の複製行為により直接の利益を得ているわけではない。しかし,被告は,本件土地宝典の複製行為により利益を得ている民事法務協会からコインコピー機の設置使用料を取得しているものである。また,本件土地宝典の複製行為については,民事法務協会と被告とが共同侵害主体であると評価すべきことは前記のとおりであるから,共同侵害主体と評価し得る者のいずれかが複製行為により利益を得ているだけで足りると解すべきである。」(45頁)

という判示からも良く分かる。


本件においては、コピースペースの提供主体は、あくまでコピー機の運営管理業者と一体となった「直接侵害者」なのであり、上記のような結論だけ見て、「間接侵害責任を負わされる範囲がまた広がったか・・・」とため息を付くのは早計ということになろう。


そして、ユーザーとしては、このような判旨が“一人歩き”しないように、目を光らせておく必要があるということになる。

その他の主張&損害論

被告側の主張の中には、「えっ?」と思わせるようなものもいくつか登場している。


例えば、著作権法38条4項*6の趣旨が法務局窓口での土地法典貸出にも及ぶ、という主張については、

著作権法38条4項は、貸与権との関係を規定したものにすぎず、複製権との関係を何ら規定したものではないのであって、ましてや、貸出を受けた者において違法複製が予見できるような場合にまで、貸出者に違法複製行為に関して一切の責任を免れさせる旨を規定しているとは到底解することはできない。」(47頁)

という判示を待つまでもなく、失当であることは明らかだろう*7


また、著作権法第28条(二次的著作物の原著作権者としての権利)に基づき、被告が土地宝典の複製についての許諾権を有している、という主張も、

「本件土地宝典の複製には、原著作者の許諾とともに、二次的著作物の著作権者である原告らの許諾を要するのであるから、原告らの許諾を得ずに複製を行うことが違法であることは明らかであり、被告の主張は採用することができない」(47頁)

という判旨で全てカタがつく問題である。


結果として、原告らには、不法行為・不当利得合わせて600万円弱の範囲で損害賠償請求が認められることになった。

今後の展望

「著作物性」に関する判旨と「侵害主体」に関する判旨を見る限り、本件訴訟において被告側が逆転勝訴することは難しいようにも思えるのだが、もしそうなることがあるとすれば、それは、上に挙げていない以下の争点に対する判断がポイントになるのではないか、と思う。


まず、「争点5」として挙げられている「Cによる包括的許諾の有無」について。


東京地裁は、

「本件に顕れたすべての証拠を精査検討しても、Cが法務局窓口で本件土地宝典を借り受けた者が謄写することを包括的に許諾していたと認めるに足りる証拠はなく、被告の主張は採用することができない」(46頁)

とし、さらに、

「本件土地宝典の販売を生業としていたCがそのような包括的な許諾をしたとは考えがたいというべき」
「このことは、本件土地宝典の奥付には、「非売品」との表示とともに、「不許複製」と明記されていることとも整合する」

と述べているのだが、Cが本当に法務局の貸出、複製サービスを問題視していたのであれば、訴訟を提起する前にいくらでも取ることができた方法はあったはずで、原告らが著作権を譲り受けるまで何の手立ても講じられていなかったことは、本来、包括的な(黙示の)許諾意思を推認させる方向に働いても不思議ではない。


また、これと似たような話で、「争点8」として挙げられている「信義則違反の有無」についても、もう少し争えるような気がしてならない。


土地宝典の原著作者であるCから原告らに権利を譲渡するにあたり、損害賠償請求権も含めて譲渡した、というくだりなどを見ると、一種の「訴訟信託」(明文ない場合は原則禁止)じゃないか、とさえ思えてしまうほどで、このタイミングで国を相手取って訴えることのきな臭さがどうしても漂ってくる事案だけになおさらである。


信義則や権利濫用、といった一般法理の適用に慎重な姿勢を見せた東京地裁だが、今後審級が上がっていく中で、別の判断が出されることはないか?


知財高裁に期待して裏切られることも稀ではない今日この頃、ここはあまり期待せず眺めていくことにしたい。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080201/1201972791

*2:第46部・設楽隆一裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080205115907.pdf

*3:例えば、店内に設置しているコピー機で違法複製がなされた場合に、そのコピー機を設置管理しているコンビニ運営事業者の著作権侵害責任が認められた、としたら、まさしく驚天動地ということになるに違いない。

*4:現在の運用がどうなっているかは、筆者自身確認していないのでよく分からないのだが・・・。

*5:そもそも、いかにも法務省職員の天下り先、という空気を醸しだしている「民事法務協会」(http://www.minji-houmu.jp/gaiyo/index.html)を「別個独立した団体」であると強調したことが、かえって裁判所の心証を害してしまったのではないか、という推測も働くところである。

*6:「公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあっては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。」

*7:38条4項は貸与権の権利制限規定であるが、本件訴訟で問題になっているのは複製権侵害であって、両者は次元の違う話といえる。