長い長い裁判の末に。

先月、「カラオケに韓国曲配信/第一興商に賠償命令」という見出しで報じられた(日本経済新聞2010年2月11日付朝刊・第30面)、著作権侵害に基づく損害賠償請求事件の判決文が、ようやくアップされた。


事件番号等を見ると、この事件が東京地裁に係属したのは、平成16年。


審理短縮化が図られている近年においては実に異例の、6年にわたる審理の末、ようやく第一審での決着を見ることになったこの事件がどのようなものだったのか、簡単に見ていくことにしたい。

東京地判平成22年2月10日(H16(ワ)18443号)*1

原告:株式会社アジア著作協会
被告:株式会社第一興商


アップされた判決文は実に97頁にも及ぶが、その多くは原告に対象楽曲(韓国楽曲)の著作権管理権限が認められるか、という点に関する当事者の主張等である。


そして、訴訟の中では、信託譲渡や直接譲渡等の成否をめぐり、契約書の成立の真正が争われたり、証人尋問等による権利者の意思探究等が行われたりしたようなのであるが、訴訟記録に直接触れることができない我々には、その辺の面白さはとても理解できそうにない*2


そこで、以下では、そもそもなぜ第一興商がこのような責任追及を受け、結果としても約2300万円の支払いを命じられることになったのか、という点に着目してみていきたいと思う。

許諾交渉の経緯

実は、本件原告は訴訟提起に先立ち、平成14年から平成15年にかけて、被告が加盟する社団法人音楽電子事業協会(「AMEI」)との間で一定の交渉を行っていた。


認定された事実によれば、

ア 原告は,平成14年4月15日設立され,同年6月28日付けで,著作権管理事業法に基づく著作権等管理事業者として,文化庁長官の登録を受けた。
イ 原告は,平成14年7月ころ,文化庁から,原告規程について,利用者又はその団体の意見を聴取するようにとの指導を受けた。
ウ 原告の事務局長丙(以下「丙」という。)は,平成14年8月1日,利用者団体であるAMEIを訪問し,原告規程等を交付した上,質問及び意見があれば,1週間を目途に連絡をもらいたい旨要請した。
エ AMEIの著作権・ソフト委員会カラオケ部会長丁(以下「丁」という。)は,原告に対し,平成14年8月8日付け書面(乙3)により,期間をおいた上で,団体としての意見を述べたい旨等を伝えた。
オ 原告は,平成14年8月9日,文化庁長官に対し,著作権等管理事業法13条1項に基づき,原告規程(甲69)の届出をした。
カ 原告は,平成15年5月28日ころ以降,AMEIの会員に対して書面を送付し,使用料等の打合せをするよう申し入れた。
キ 原告とAMEIは,平成15年7月9日,AMEIにおいて,1回目の協議をした。
ク 原告とAMEIは,平成15年11月28日,原告において,2回目の協議をした。

という流れになっており、少なくとも平成15年中までは、原告とAMEIの協議が行われていた。


だが、年明け以降、事態は急変する。

ケ 原告は,AMEIに対し,平成16年1月15日付けメール(甲32)により,今後のAMEIとの協議を取り止める旨を通知した。
コ 原告は,被告に対し,平成16年5月20日付け書面(甲33)により,これまでの著作物の使用に関し,使用料相当額を支払うこと,今後,原告との間で著作物の使用に関する契約を締結すること等を請求した。
サ 原告は,当裁判所に対し,平成16年8月31日,本件訴訟を提起した。

そして、結果として、原告・被告は5年半近くに及ぶ長期間の訴訟に巻き込まれることになったのである。


後述するように、原告の管理規程に基づく利用料は、JASRACのそれと比べてもかなり高額にわたるものになるようであり、交渉が難航したことにはやむを得ない面もあるのだが、“韓流ブーム”が爆発的に盛り上がっていた当時の状況を考えると*3、後々まで引きずらないような手立てを早めに講じておくことはできなかったものか、と悔やまれるところだろう。


また、被告は、損害賠償責任の要件としての故意過失の存在について争っていたが、裁判所は、

「被告は,楽曲データを,著作権者から複製又は公衆送信の許諾を得て作成し,自らの製造に係るカラオケ端末機のハードディスクに搭載する等した上,通信カラオケリース業者に対してカラオケ端末機の販売等を行う株式会社であるところ,このような業務用通信カラオケ事業者であれば,他人の著作物を利用する際には,その著作権を侵害することのないよう,当該著作権の帰属を調査し,事前に著作権者から複製又は公衆送信の許諾を得るべく万全の注意を尽くす義務がある。特に,本件においては,平成13年10月1日の著作権等管理事業法の施行後は,JASRAC以外の著作権等管理事業者が存在する可能性があり,争いのない事実等(9)のとおり,現に,平成14年6月28日に原告が著作権等管理事業者として登録し,同年8月以降,被告の加入するAMEIを訪問する等して,断続的ながら交渉していたものであり,また,請求対象期間である平成14年6月28日から平成16年7月末日までの間は,韓国の唯一の著作権管理事業者のKOMCAとJASRACとの間の相互管理契約の締結による著作権の管理も行われておらず,そのことは周知の事実であったのであるから,被告においては,利用しようとする楽曲に関し,事前に著作権の所在等について調査検討し,著作権者から許諾を得る等して,著作権侵害の結果を防止すべき注意義務があった。」(88頁)

と上記交渉の存在も加味したうえで被告の注意義務を設定して過失を認定しており、

「他人の著作物を利用しようとする場合には,自ら,著作権者の許諾を得るべく,事前に著作権の所在等について調査し,検討すべきところ,被告は,何ら積極的に権利関係について調査検討した様子はないから,原告の対応が上記のとおりであったとしても,被告が注意義務を果たしたということはできない。」(89頁)

とまで言われてしまっている。


日韓間のスキームが整理されるまでの間の過渡期的な事象だったとはいえ、業界団体に窓口を委ねがちな業種においては、注意すべきことだといえるのではないかと思う*4

不幸中の幸い

被告にとって不幸中の幸いだったのは、損害額の算定にあたり、原告の使用料規程に基づく算定ではなく、JASRAC規程に基づく算定をすることが妥当、とされたことだろう。


裁判所は、

「弁論の全趣旨により,音楽著作物の著作権の大多数は,JASRACに対する信託により管理されており,業務用通信カラオケの分野においても,利用される楽曲の大半はJASRACが管理する楽曲であること,上記著作権の管理において,実務上適用されているのは,JASRAC規程(乙40)であり,同規程は,利用者団体であるAMEIとの協議を経て合意され,文化庁に届け出られたものであって,利用者の意見が一定程度反映されたものであることが認められるところ,上記JASRAC規程に基づき算定される使用料は,上記著作権の利用の対価額の事実上の基準として機能するものであり,著作権法114条3項に基づく使用料相当損害金を定めるに当たり,これを一応の基準とすることには合理性があると解される。」(89-90頁)

JASRAC規程によることの妥当性を示したうえで、原告規程について、

「原告規程については,利用者団体であるAMEIにおいて,包括的利用許諾方式を定める原告規程の内容を検討する前提として,原告が管理する楽曲の根拠の説明及び資料の提出を求め,原告も一応これに応じていたが,なお不十分な点が多く,結局のところ,AMEIが原告規程の内容について検討の上,意見を述べる状況には至らなかったのであるから,原告により,利用者団体の意見聴取義務が十分に履行されたとはいえない。そうすると,原告規程が既に文化庁に届け出られており,AMEI以外の利用者団体からは,特に意見の提出はなかったことを考慮しても,前記の交渉過程により,原告規程の内容の合理性が基礎付けられたと認めることはできない。」
「また,内容においても,原告規程の利用単位使用料は,カラオケ端末機に楽曲を複製することに対する対価と解されるが,管理楽曲数が700万曲を超えるJASRACJASRAC規程における利用単位使用料の最低額が650円であるのに対し,管理楽曲数が桁違いに少なく,これを正確に算定することが困難な原告の原告規程における利用単位使用料の最低額が200円であり,いずれも毎月徴収することを予定していること等からすると,原告規程が必ずしも合理的な内容と認めることはできず,これを使用料相当損害金の算定の基準として採用することはできないというべきである。」(93-94頁)

と手続面(意見聴取手続の不十分さ)・内容面の双方から、損害額算定基準としての合理性を否定したのである。


原告が主張する、

・一般管理事業者の意見聴取は,努力義務が訓示的に課されているにすぎない。
・(意見聴取の前提として)管理する著作物等の情報提供は義務付けられておらず,原告は業務改善命令を受けたことがない

といった事情も一応理解することはでき、上記のような本判決の構成が妥当なものかどうかについては、議論の余地も十分にあるとは思うのだが、JASRACの利用料規程そのものを合理的な基準として損害額算定に使ったこと自体については、結論において許容できるのではないか、と個人的には思っているところである。

*1:第29部・清水節裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100312084907.pdf

*2:韓国国内において著作権信託管理の事業許可を受けていない事業者から信託譲渡された楽曲の管理権限を争う被告の主張に対し、「業法上の許可を得ていないことが,直ちに私法上の契約の効力に影響し,契約が無効となるということはできず,他に私法上の契約を無効とすべき違法な事情を認めるに足りる証拠はないから,被告の主張を採用することはできない。」(87頁)と述べているあたりは、理論上も興味深いところであるが・・・。

*3:それゆえに利権も当然大きくなる・・・。

*4:なお、被告は「原告のAMEIや被告への連絡の経緯」から、禁反言や権利濫用の主張もしたようであるが、時機に後れた攻撃防御方法として、職権で却下されている。具体的にどの点を禁反言と主張したのかは明らかでなく、筋が良ければ控訴審でこの争点が浮上してくる可能性もないとは言えないのだが・・・。