これが望まれた展開なのか?

年の瀬になっても景気のいい話を全く聞かない今日この頃。


いすづ自動車が期間従業員の途中解雇方針を撤回したのも束の間、翌日の朝刊には、

「いすづ全社員 賃金カット」

という見出しが躍る。

「いすづ自動車は販売不振を受け、国内に約8000人いる全社員を対象に、賃金を一時カットする方針を固めた。まず2009年1月から役員報酬を3割前後削減。一般社員も同4月以降に基準内賃金を減らす。社員一人当たりの勤務時間を調整するワークシェアリングの導入も検討、人件費の抑制を急ぐ。」(日本経済新聞2008年12月25日付朝刊・第1面)

この会社に関して言えば、新たに打ち出した対策は「契約社員の期間途中での解雇」というドラスチックな対応を取ろうとしていた会社とは思えないくらい悠長な中身だし、それゆえ、“途中解雇”の方針もあまり深く考えずに打ち出してしまったんじゃないの?(少なくとも適切なリーガルチェックを経たとは到底思えない)と揶揄されても仕方ないだろう。


だが、

「非正規従業員の解雇、雇止め」

が諸悪の根源のように叩かれる今、しばらくは、このような「非正規雇用の温存&正規雇用社員の条件切り下げ」という動きが業界・業種を超えた大きな流れとして広まっていくことが予想されるのも確かなわけで・・・。



実入りが完全にゼロになってしまうのと、僅かな額でも収入が確保できるのとでは大違いだから、人道的見地から非正規従業員の雇用維持を求める声が出てくることは理解できる。


だが、会社が負担することのできる人件費コストに限界があることを考えると、結局、「雇用維持」のしわ寄せが正規雇用者層に回ってくることは否定できない。

正規雇用も非正規雇用も関係ない。同じ労働者で手を取り合って使用者と戦おう!」

という理想論を振りかざすのは大いに結構なのだが、給与・賞与の一律カットに早期退職勧奨・・・といったオプションが入ってくるような事態になっても、同じようなスタンスを取り続けることができる労働者・労働組合がどの程度いるのだろうか。


そして、正規雇用者層に属する人々は、自らの血を流してまで「非正規従業員の雇用を守る」ことを、そもそも望んでいるのだろうか・・・?



本当に人件費コストを切り詰めたいのであれば、会社にとって元々負担の大きくない非正規雇用のコストを減らすより、負担の大きい正規従業員のコストを減らす方がずっと効果的なのであって、現時点で多くの大企業があえてそこまで踏み込まない背景には、景気後退・業績不振の影響を最小限にとどめたい、という思いもどこかにあるはずだ*1



これを機に、伝統的な「正規雇用」「非正規雇用」のあり方を抜本的に見直す、というのであればそれでも良いし*2、来年以降今を上回るような大津波が来れば、必要に迫られてそのような見直しを行わざるを得なくなるかもしれない。


だが、今はそのような状況ではないし、“抜本的な見直し”に対するコンセンサスも到底得られていないように思える。


大きな視点からのビジョンも議論もないまま、「木を見て森を見ず」的な近視眼的発想で野党や労組や各メディアが企業の行動を批判する姿を見るたびに、行く末が案じられて憂鬱な気分になるのは、筆者だけではあるまい・・・。

*1:もちろん、正規従業員の雇用や労働条件維持を優先する判例法理の存在も大きいのだが。

*2:筆者自身、これまでの「正規」「非正規」の位置づけについては、これらの用語の使い方自体を含め、かなりの疑問を抱いているので・・・。

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