結局はこうなるわけだ。

製造業現場に「請負」や「労働者派遣」といった労働形態が浸透してきたことが、あたかも「格差社会」の元凶かのように指弾されている昨今であるが、↓のようなニュースを見ると、製造現場に「正社員」の活躍の場を取り戻したところで何ら現状の改善につながらないのでは? という疑念が湧いてくる。

「製造業大手が高校新卒者を中心とする現場技能職の採用を大幅に拡大する。日立製作所東芝キヤノンなどは2009年春の採用を前年に比べ5割程度増やす。」
派遣社員など外部労働力への依存が進む中、技能を持つ団塊の世代の大量退職が始まり、生産現場の空洞化が懸念されている。各社は技能職の採用増で「ものづくりの力」を維持する。」(日本経済新聞2008年7月12日付朝刊・第1面)

マクロな視点で見れば、製造現場に“雇用の安定した”正社員が新たに採用されることによって、労働者の待遇劣化に歯止めがかかり、技術継承も達成されて万々歳、ということになるのかもしれない。


だが、この大量採用の背景には、

「大手製造業の多くは製造業への派遣期間が実質的に3年に延長された06年以降、生産現場に大量の派遣社員を導入した。しかし派遣期間が3年を超えると正社員に登用するか契約を打ち切る必要があり、09年以降、雇用戦略の見直しを迫られる。」

という事情もある。


いくら景気の先行き不安で最近の若者の安定志向が強まっているとはいえ、いまどき高卒採用だけで、現在の非正規雇用を全て代替できるほどの質・量の労働力を確保できるとも思えないから、完全に「請負」「派遣」の枠が消え去ることはないだろう。


だが、それでも従来に比べると“狭き門”になるのは間違いない。


問題なのは、ここで、「法の足枷によって製造現場を追われる人」と「新たに採用される人」が層としては必ずしも重ならないところにある。


「正社員」が増えれば、一見全体では社員に対する保障が手厚くなったように見えるが、その裏で割を食う人間も当然いるわけで、筆者がこれまで再三にわたって近視眼的な“非正規雇用批判”にシニカルなメッセージを送ってきたのも、この辺に理由があったわけなのだが・・・。


これまで現場を支えてきた人間(いわゆるロストジェネレーションな人々?)を採用せずに、“若くてピチピチな”社員に目を向ける大手メーカーを批判するのはたやすいが、「採用の自由」は各企業に保障された憲法上の人権でもある。


日本社会に染み付いた、“保守的な人事・採用担当者の発想”を直ちに切り替えろ、といっても、そう簡単に流れは変わらないだろう。


それに、今のギチギチの規制の下、請負で働いている人間に対してメーカー側の技術者が直接指示を出すことは(建前上は)極めて困難だし、それゆえ、「技術継承」などという発想など出てくるはずもない。もう少し融通が利きそうな派遣社員にしても、所詮は3年でいなくなる、というのが厳然たるルールとして存在している。


そうなれば、一から鍛えなおすコストを考えても、新卒社員を採用するほうがいいや、とメーカーの担当者が思うのも不思議なことではない。


従来から、非正規雇用に無意味な制限を課さず、現場で仕事をしている方々が長期にわたって現場で仕事ができるような制度設計こそが望ましい、と考えている自分としては、このようなニュースに接してなおさらその思いを強くした次第である*1


処遇の良し悪しが議論されている間はまだマシなのであって、そもそもの就業機会が消滅してしまえばもはやどうにもならない・・・、という当たり前のことに気付くために、これがいいきっかけになればよいのであるが・・・。

*1:もちろん「格差」の解消は重要なことだが、そのための手段として、請負・派遣といった雇用形態そのものを消滅させて、現に製造現場で働いている人間を路頭に迷わせるより、個々の労働条件改善に向けた漸進的政策を導入するほうが、よほど労働者の利益になると思う。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html