松下PDP訴訟決着。

「規制改革」以降の雇用実態を批判する側の論者にとっては、ある種の“シンボル的事件”になっていた「松下電器PDP子会社に対する地位確認等請求事件」。


特に、大阪高裁が平成20年4月25日に、「1審原告が,1審被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあること」を確認する旨の判決を出した後は、結論の当否のみならず、判決の法律構成の是非も含めて、学界、実務界で大議論が湧きあがっていたところであった*1


そんな状況に、一応の区切りを付けて見せたのが、さる12月18日に出された最高裁第二小法廷の判決である。


以下では、最高裁が「原告をほぼ全面的に救済した」高裁の判断のどこを否定し、どこを認めたのか、という点を中心に、これまでの下級審判決の論旨と比較しながら、今回の判決を俯瞰していくことにしたい。

最二小判平成21年12月18日(H20(受)1240)*2

本件は、

プラズマディスプレイパネル(以下「PDP」という。)の製造を業とする株式会社である上告人の工場で平成16年1月からPDP製造の封着工程に従事し,遅くとも同17年8月以降は上告人に直接雇用されて同月から同18年1月末まで不良PDPのリペア作業(端子に付着した異物を除去して不良PDPを再生利用可能にする作業)に従事していた被上告人が,上告人による被上告人の解雇及びリペア作業への配置転換命令は無効であると主張して,上告人に対し,雇用契約上の権利を有することの確認,賃金の支払,リペア作業に就労する義務のないことの確認,不法行為に基づく損害賠償を請求している」(1頁)

という事案である。


もう少し分かりやすくするために、原審までの認定事実を引いて、本件提訴までの状況を整理すると、

◆平成16年1月20日 
 被上告人(一審原告、以下「原告」という)が、訴外C(請負会社(パスコ))との間で、契約期間を2カ月、賃金を時給1350円、就業場所を上告人(一審被告、以下「被告」という)の茨木工場等とする雇用契約を締結した。原告は同日から、被告従業員の指示を受けて、PDPの製造業務のうちデバイス部門の封着工程に従事した。
  ↓
◆原告と訴外Cとの間の契約は2カ月ごとに更新された(平成17年7月20日までCから原告に給与支給)。
  ↓
◆平成17年4月27日
 原告が、「就業状態が労働者派遣法等に違反している」と主張し、被告に対し直接雇用を申し入れたが回答を得られなかった。
  ↓
◆平成17年5月11日
 原告が訴外D(北摂地域労働組合、以下「本件組合」)に加入。Dより被告に対し団体交渉申し入れ。同月24日被告より応じる旨の回答をした。(6月7日から協議開始)
  ↓
◆平成17年5月26日
 原告が大阪労働局に対し、本件工場における勤務実態が労働者派遣法違反である旨を申告し、6月1日に被告が同局の調査を受ける。
  ↓
◆平成17年7月4日
 被告に対し、大阪労働局から労働者派遣契約に切り替えるように、という是正指導がなされた。
  ↓
◆被告の改善計画に伴い、訴外Cが7月20日限りでデバイス部門から撤退。被告は他社との間で労働者派遣契約を締結し、同月21日から受け入れてPDP製造業務を続けることになった。
  ↓
◆原告は、訴外Cから本件工場の別の部門に移るよう打診されたが、被告の直接雇用下でデバイス部門の作業を続けたいと考え、7月20日限りでCを退職した。
  ↓
◆平成17年8月2日
 被告が、原告との雇用契約の条件として、契約期間を平成17年8月から同18年1月31日までとし、業務内容を「PDPパネル製造‐リペア作業及び準備作業などの諸業務」と記載した労働条件通知書を原告側に交付した。契約更新はしない(ただし、平成18年3月31日を限度としての更新はあり得る)という条件であった。
  ↓
◆平成17年8月19日
 原告と本件組合は、このままでは被告との雇用契約の締結が困難であると考え、原告は代理人弁護士作成の内容証明郵便において、契約期間及び業務内容について異議をとどめて、「当面は、上記通知書記載の業務に就業する旨の通知をした上で、上告人が準備した上記通知書と同旨の雇用契約書(時給1600円、雇用期間の始期は平成17年8月22日)に署名押印し、被告に交付した。
  ↓
◆平成17年8月22日
 原告は被告に直接雇用された従業員として本件工場に出社し、翌日から本件工場内において、不良PDPのリペア作業を一人で担当した。
  ↓
◆平成17年12月28日
 被告が、平成18年1月31日をもって雇用契約が終了する旨を通告し、その翌日以降原告の就業を拒否した。
 (本件組合は、平成17年8月25日以降、雇用契約を期間の定めのないものとし、原告の作業を従前従事していたデバイス部門の封着工程のものとすることを求めて団体交渉を申し入れていたが、被告は応じなかった模様)

ということになる。


そして、原告はこのような状況を前提に、

(1)原告と被告の間には、(平成16年の就労開始当初から)黙示の雇用契約が成立している。
(2)被告の原告に対する解雇の意思表示(平成17年12月28日付)は権利の濫用であって無効である(雇い止めとみるとしても信義則に反し許されない)。よって、被告には平成18年2月以降、原告に対し賃金を支払う義務がある。
(3)被告が平成17年8月22日以降、リペア作業に従事するよう命じたことは配転命令にあたり、不当な目的、動機に基づくものであって無効である。
(4)本件解雇ないし雇い止めはそれ自体不法行為にあたる。またリペア作業に際して原告が隔離される等、不当な取扱いを受けたことも不法行為にあたる。(よって被告は慰謝料計600万の支払義務を負う)

と主張し、

1 原告が,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は,原告に対し,平成18年3月から,毎月25日限り,24万0773円及びこれに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
3 原告が,被告に対し,PDPパネル製造- リペア作業及び準備作業などの諸業務に就労する義務のないことを確認する。
4 被告は,原告に対し,600万円及びうち300万円に対する平成17年11月23日から支払済みまで,うち300万円に対する平成18年3月9日から支払済みまで各年5%の割合による金員を支払え。

という請求を立てたのが本件訴訟の始まりであった。


そして、第一審(大阪地判平成19年4月26日)*3が慰謝料請求を一部認容したにとどまったのに対し、控訴審(大阪高判平成20年4月25日)*4が、

(1)1審原告が,1審被告に対し,別紙3の内容の雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2)1審被告は,1審原告に対し,平成18年3月以降,毎月25日限り,24万0773円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3)1審原告が,1審被告に対し,リペア作業に就労する義務のないことを確認する。
(4)1審被告は,1審原告に対し,90万円及び内45万円に対する平成17年11月23日から,内45万円に対する平成18年3月9日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

と、原告の主張をほぼ網羅的に認める判決を出したことで、最高裁判決の行方が俄然注目されることになったのである。

原告・被告間の雇用契約の成否について

本件において、被告がいわゆる「偽装請負」を行っていたこと、そして、それを是正しようとする過程で原告と本格的なトラブルに発展した、という事案であることは争いようもない事実だろう。


そして、原告・被告間に原告の就労当初からの雇用契約成立を認めた高裁判決は、一部の研究者や組合関係者等が提唱している「請負会社を介した違法な労働者派遣が行われている場合に、派遣先と労働者の間に直接の雇用関係を認めてしまうことによって労働者を救済する」という議論とも親和的であり*5、この高裁判決がそのまま確定することに大きな期待を抱いていた人々も多かったと思われる。


だが、そんな期待空しく、最高裁は高裁の判断を覆し、原告・被告間の雇用契約の成立を否定した。

「上告人と被上告人との法律関係についてみると,前記事実関係等によれば,上告人はCによる被上告人の採用に関与していたとは認められないというのであり,被上告人がCから支給を受けていた給与等の額を上告人が事実上決定していたといえるような事情もうかがわれず,かえって,Cは,被上告人に本件工場のデバイス部門から他の部門に移るよう打診するなど,配置を含む被上告人の具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったものと認められるのであって,前記事実関係等に現れたその他の事情を総合しても,平成17年7月20日までの間に上告人と被上告人との間において雇用契約関係が黙示的に成立していたものと評価することはできない。」
「したがって,上告人と被上告人との間の雇用契約は,本件契約書が取り交わされた同年8月19日以降に成立したものと認めるほかはない。」
(8-9頁、強調筆者、以下同じ。)

上記時系列を見ればわかるように、平成17年8月19日まで、原告と被告の間で雇用契約の類が明確に交わされたことはなかったし、平成17年7月20日に退社するまで、原告がC(パスコ)に雇用され、給料をもらっていたことも明らかである。


にもかかわらず、原告側が「(黙示の)雇用関係の成立」を主張するよりどころになっていたのは、高裁判決に現れていた、

「原告・C間の契約は,「脱法的な労働者供給契約として,職業安定法44条及び中間搾取を禁じた労働基準法6条に違反し,強度の違法性を有し,公の秩序に反するものとして民法90条により契約当初から無効」(高裁判決30-31頁参照)とされるべきものである。」
「原告・被告間には使用従属関係(被告従業員と混在して業務に従事し、作業について直接指揮命令を受けていた)、賃金支払関係(請負代金の実質は労務受領対価である)がある。そして、無効である前記各契約にもかかわらず継続した原告・被告間の上記実体関係を法的に根拠づけ得るのは,両者の使用従属関係,賃金支払関係,労務提供関係等の関係から客観的に推認される原告・被告間の労働契約のほかなく,両者の間には黙示の労働契約の成立が認められる」(高裁判決31-32頁参照)

という論理であった。


これに対し、最高裁は、上記判断の前提として、

「前記事実関係等によれば,被上告人は,平成16年1月20日から同17年7月20日までの間,Cと雇用契約を締結し,これを前提としてCから本件工場に派遣され,上告人の従業員から具体的な指揮命令を受けて封着工程における作業に従事していたというのであるから,Cによって上告人に派遣されていた派遣労働者の地位にあったということができる。そして,上告人は,上記派遣が労働者派遣として適法であることを何ら具体的に主張立証しないというのであるから,これは労働者派遣法の規定に違反していたといわざるを得ない。しかしながら,労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質,さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば,仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても,特段の事情のない限り,そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである。そして,被上告人とCとの間の雇用契約を無効と解すべき特段の事情はうかがわれないから,上記の間,両者間の雇用契約は有効に存在していたものと解すべきである。」(8頁)

と述べて、原告とCとの間の契約を「生かした」。


Cとの関係で契約の成立が認められてしまうのであれば、あえて無理をして「黙示の雇用契約」なるものの成立を認める必要もない。


派遣労働者を保護する必要性」云々のくだりについては、後々叩かれる可能性もあるだろうが*6、そもそも一般的な契約の解釈のやり方として、明示的に存在している契約を、まったく別のものに“塗り替える”ことについて裁判所は謙抑的であるべき、というのがこれまでの伝統的な考え方であることからすれば、最高裁の結論も十分に予測できたことだと思う。


なお、最高裁が上記判断の中で、

「上告人はCによる被上告人の採用に関与していたとは認められないというのであり,被上告人がCから支給を受けていた給与等の額を上告人が事実上決定していたといえるような事情もうかがわれず」

というのを原告・C間の契約成立を認める要素として挙げている点は、実務サイドには若干引っかかるところだろう。


少なくとも地裁段階では、

雇用契約の本質は,労働を提供し,その対価として賃金を得る関係にあるが,労働の提供の場において,原告と被告との間に指揮命令関係があるといっても,その間に,賃金の支払関係がない場合は,両者の間に雇用契約関係があるとはいえない。」
「本件では,原告はパスコとの間で雇用契約を締結し,パスコから賃金を支給されていた(前提となる事実(1),弁論の全趣旨)。一方,被告とパスコとの間に資本関係などは認められず,被告とパスコが実質的に一体であると認めるに足りる証拠もない。」
「なお,原告は,原告の賃金額を,実際上被告が決定していたことを黙示の雇用契約の成立の理由として主張する。たしかに,金銭の流れは,請負契約(その実質は派遣契約)に基づき,被告からパスコに対して代金が支払われ,さらにパスコから原告に対して賃金が支払われており,その関係からすると,上記請負代金額が,パスコと原告との間の賃金額の決定に与える影響は大きいということがいえる。しかし,そのことから,原告と被告との関係を雇用契約関係ということはできず,派遣先と派遣労働者の関係にあるという上記認定を何ら左右するものではない。」(地裁判決28-29頁)

ということで、「上告人による採用の関与がないこと」は契約の存否の判断要素としては挙げられていなかった。


「採用の関与」がどの程度の関与を意味するのか、上記判旨を読んだだけでは判然としないが、事務職、専門職派遣であれば、派遣される予定の労働者の事前面接が恒常的に行われているわけで、その程度の「関与」でも、派遣先との直接的な雇用関係の成立を裏付ける要素になり得るのだとすれば、実務上のハレーションは結構大きいのではないだろうか。

解雇及び配転命令の有効性

本件の原告が訴訟を提起した最大の目的が、「社員として元の業務(封着工程)に復帰すること」にあったことは間違いないだろう。それは本人のブログや支援者等の言動からもうかがうことができる。


それゆえ、この点に関する原告の主張を認めて解雇無効と判断した高裁判決のインパクトは絶大なものがあったし、最高裁判決を控えて一番盛り上がっていたのも、この点についてであった。


だが、高裁判決の解雇無効の判断は、既に紹介したような、「原告・被告間の黙示の雇用契約成立」という“フィクション”の上に、

「両者間の雇用契約は,平成17年8月22日の本件契約書による合意以降期間2か月毎に更新され,同年12月22日から同様に期間2か月として更新されていたから,1審被告が同月28日,平成18年1月31日の満了をもって1審原告との雇用契約が終了する旨通告し,その後その就業を拒否していることは,解雇の意思表示にあたる。」
「1審被告は,PDPリユース計画において必要となるテストサンプル数確保の目処が付いたなどとして上記意思表示をしたところ,前提となるリペア作業への配置転換は無効であり,上記封着工程の業務作業が終了したなどの事情は見当たらないから,上記解雇の意思表示は解雇権の濫用に該当し無効というべきである。」
「仮に解雇の意思表示でなく,雇止めの意思表示としても,上記契約は,期間2か月,かつ更新できるものであり,平成16年1月以降多数回に渡って更新されていた上,1審原告の従事していた封着工程は現在も継続されており明らかに臨時的業務でなく,その雇用関係はある程度の継続が期待されていたところ,上記のとおり,雇止めの意思表示は,解雇の場合には解雇権の濫用に該当するものであり,更新拒絶の濫用として許されないというべきである。」
(高裁判決36-37頁)

とさらなるフィクションを重ねて導かれたもので*7、運動論としてはともかく、法解釈論としてはあまりに無理があり過ぎると言わざるを得ないものであった。


結果として、最高裁は、

「期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合,又は,労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には,当該雇用契約の雇止めは,客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときには許されない。」

という有名な法理*8を引いた上で、

「前記事実関係等によれば,上告人と被上告人との間の雇用契約は一度も更新されていない上,上記契約の更新を拒絶する旨の上告人の意図はその締結前から被上告人及び本件組合に対しても客観的に明らかにされていたということができる。そうすると,上記契約はあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとはいえないことはもとより,被上告人においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合にも当たらないものというべきである。」
「したがって,上告人による雇止めが許されないと解することはできず,上告人と被上告人との間の雇用契約は,平成18年1月31日をもって終了したものといわざるを得ない。」
(9-10頁)

という極めて自然な判断を下している。


背景事情として多少なりとも原告に同情する余地があり、かつ、被告の提案内容に原告が異議をとどめていた、という事情があったとしても、現に、原告・被告間で明示的な契約が交わされ、それに従って双方の義務が履行されていた、という実態があった以上、従来の判例法理の下で「雇止め無効」という結論を導くことはできない、という最高裁の現実的な発想がここに現れているといえるのではなかろうか。

不法行為の成否

さて、「原告実質敗訴」という評価が強い最高裁判決の中で、唯一原告の請求が認められたのが、不法行為の成立に関するくだりである。


最高裁は、

「前記事実関係等によれば,上告人は平成14年3月以降は行っていなかったリペア作業をあえて被上告人のみに行わせたものであり,このことからすれば,大阪労働局への申告に対する報復等の動機によって被上告人にこれを命じたものと推認するのが相当であるとした原審の判断は正当として是認することができる。これに加えて,前記事実関係等に照らすと,被上告人の雇止めに至る上告人の行為も,上記申告以降の事態の推移を全体としてみれば上記申告に起因する不利益な取扱いと評価せざるを得ないから,上記行為が被上告人に対する不法行為に当たるとした原審の判断も,結論において是認することができる。」(10頁)

と述べ、90万円の損害賠償請求を認容(一部認容)した原審の判断を是認した。


この点については、専ら事実認定に係る部分であるので、最高裁が踏み込んで原審判決をひっくり返さなかったことも一応理解することができる。


特に「リペア作業をあえて被上告人に行わせた」という点については、第一審から一貫して不法行為の成立が認められているので、上告審の段階に至って、原告の請求を全面的に棄却する、という選択肢はもとよりほとんどなかった、というほかない。


しばらく行われていなかった「リペア作業」をわざわざ3年ぶりに復活させ、しかもトラブルの末、直接雇用せざるを得なくなったという状況の下で、原告にのみそれを割り当てる、という行為は、やはり、“被告の何らかの悪意”を背後に推認させると言わざるを得ないだろう。


一方、もうひとつの不法行為とされている「雇止めに至る上告人の行為」については、雇止め自体を有効とした以上は、「雇止めに至る上告人の行為」についても不法行為は成立しない、とする方が一貫した態度のようにも思えるのだが*9、「リペア作業を命じたこと」が不法行為を構成することについては充実した解説を加えている今井功判事(裁判官出身)の補足意見も、「雇止め」については、「これに至る事実関係を全体として見れば・・・不利益取扱いといわざるを得ない」(12頁)と述べるのみである。


これだけ社会的関心の高い事件で、労働者側の評判が良かった高裁判決を全面的に破棄することを躊躇したのか*10、根拠如何にかかわらず被告に対する損害賠償は90万円位が妥当だと判断したのか、それとも本件が、雇用関係の解消自体は肯定されても、一定の金銭賠償は行われなければならない類型の紛争である、と判断したのか・・・



いずれにしても、本判決をめぐって、今後様々な議論が展開されることだろう。


結論ほど被告有利一辺倒な判決でもないだけに、労働側としても使用者側としても、使いどころの有る判決であることは間違いないだけに、冷静な実務家、研究者は、変なところで判旨を独り歩きさせないように、今後の本判決の射程の広がり具合をしっかり見極めていく必要があるのではないか、と思っている。

*1:本ブログでも高裁判決直後に簡単なコメントを掲載している。http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080426/1209231791参照。

*2:中川了滋裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091218155652.pdf

*3:第5民事部・山田陽三裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091218155652.pdf

*4:第8民事部・若林諒裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090707153405.pdf

*5:これはその先にある「解雇無効」の主張とも密接にリンクしている。また、これは場合によっては違法な派遣のみならず、適法な派遣が行われていた場合にも応用しうる論理である。

*6:少なくとも本件については、無効とした方が派遣労働者の保護につながるようにも思われるし(もちろん、契約が有効であったことを前提に原告が受領した利得関係を何らかの形で整理する必要は生じるだろうが。)、一般論としてもどっちが保護につながるか、という判断はなかなか難しいように思う。

*7:平成17年8月22日以降、期間の定めのある雇用契約が原告・被告間で締結されていたという事実があまりに看過され過ぎている。

*8:判決で引用された判例は、最一小判昭和49年7月22日・民集28巻5号927頁,最一小判昭和61年12月4日第一小法廷判決・裁判集民事149号209頁。

*9:この点については、「雇止めを信義則違反ということができない以上,雇止めによる不法行為も成立することはないというべきである。」(地裁判決35頁)の方が明快である。

*10:結果的には、今回の判決は轟々たる非難を浴びることになってしまったのだが・・・。

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