“新しいタイプの商標”導入の動きが本格化。

半年くらい前のエントリー*1で紹介していた、“新しいタイプの商標”の導入に向けた動きがいよいよ本格化してきたようだ。

特許庁は9日、テレビ広告などで企業名や商品名に合わせて流れる「音」やインターネット上でみられる企業のロゴマークの「動き」など新しいタイプの商標を導入することを盛り込んだ報告書案をまとめた。」
日本経済新聞2009年1月10日付朝刊・第5面)

「早ければ2010年の通常国会に商標法改正案を提出する考え」だということだから、元々の予定どおり順調に進んでいる、ということのようであるが・・・



産業構造審議会知的財産政策部会のWGでの議論内容について、事務局がまとめたペーパーがアップされているのだが*2、これを見ただけでも、現在の商標法との整合性から出願書類作成、事前調査(類否判断)といった実務プラクティスとの関係に至るまで、課題が山積しているのは明らかであるように思う。


記事の中では、「音」、「動き」の他に、

「見る角度によって色や形が変わる「ホログラム」、企業がユニホームなどに使ってイメージカラーとする「色」、統一的なデザインを製品の特定の場所に施す「位置」」

も新たに商標登録の対象に追加する、とされているのだが*3、「色」や「位置」のように、選択の幅が広いとはお世辞にも言えないようなものについては、よほど慎重に審査しないと実務上重大な弊害が生じることは避けられまい*4


これから制度が導入されるまでの間に、

「当局の審査コストやユーザーの調査コストを大幅に増加させてまで、“新しいタイプの商標”を導入する必要があるのか?」

「現行商標法の下で保護できないような競業者の悪質な模倣に対しては、不正競争防止法で対処すれば良いのではないか?」

「審査運用や権利行使要件が異なる欧米での登録実績を、日本でも同種商標を認めるための理由とするのはいかがなものか?」

といった疑問点に、どれだけ丁寧な回答をなしうるかが、“新しいタイプの商標”が業界に受け入れられるかどうかのカギとなってくるのではないだろうか*5


具体的な改正法案や、それに基づく新・審査基準(案)が世に出てくれば、自分が抱いている疑念も解消されるのかもしれないが、現段階では前回のエントリーと同様、この改正の動きに対しては、懐疑的なスタンスを示しておくことにしたい。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080624/1214522246

*2:http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/new-wg03_shiryou/new-wg_shiryou01.pdf

*3:これまで合わせて議論されてきた「香り・におい」や「トレードドレス」については、見送られる方針となったようである。

*4:通常使用するようなものについては3条1項でばっさり切って、「他に誰も使わないような奇をてらったもの」か「長期間の大量にわたる使用によって識別力を取得した例外的なもの」に限って登録を認める、という運用も予想されるところであるが、そうなると、あえて「商標」の範囲に含めた意義が問われることになりやしないか、懸念されるところである。

*5:もちろん、「立体商標」や「小売商標」の場合と同様に、いざ導入されたらそのツールを使いこなすための最善の途を選択せざるを得ないのであるが・・・。

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