しばらくフォローしていないうちに話がずいぶん進んでいた商標の「類似商品・役務審査基準」改正。
日経紙に↓のような記事が出るに至って、ようやくフォローするに至った。
「特許庁は企業などから商標登録を受け付ける際の商品の分類を見直す。分類を定める審査基準を見直すのは、1960年の制度導入後初めて。CDとDVDを同じ分類に統合したり、薬剤から農薬を分離したりするのが一例。似通った商品の重複登録が起きないようにするのが狙いだ。」(日本経済新聞2009年11月7日付朝刊・第5面)
「1960年の制度導入後初めて」というフレーズを見た時点で、玄人なら記事のクオリティを疑ってかかるべきだろうが*1、案の定、実際に特許庁のページに飛んでみると、記事のニュアンスとのギャップに驚かされる。
↓が、現在、パブリックコメント募集中の特許庁のページ。
http://www.jpo.go.jp/iken/iken_ruijihin_kaisei.htm
そのページでリンクされている「改正案の主な内容(別紙1)」というPDFファイルを見ると、今回予定されている改正内容の概要が分かる*2。
http://www.jpo.go.jp/iken/pdf/iken_ruijihin_kaisei/bessi1.pdf
確かに、記事になっている
「24E02」とする商品(レコード インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル)と、第9類「インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル 録画済みビデオディスク及びビデオテープ」(現行類似群コード「26D01」)との間に類似の関係を設ける。具体的には、以下のとおり、現行「26D01」に係る商品について、当該類似群コードのほか、「24E02」(新規)を付与し、相互に類似のものとする。」
をはじめ、「飲料用野菜ジュース」の「果実飲料」タンザクへの統合、41F01〜05の「スポーツの興行の企画・運営又は開催」への統合など、重複登録防止のための方策も講じられているのは事実。
だがその一方で、
「複数の類に及ぶ類似関係については、特に、現在も類似関係にあるか詳細に見直しを図り、類似関係や取引実態が希薄なものと判断される場合は例示から削除する等により、複数の類に及ぶ類似関係の縮小を図る。」
という方針の下、類似関係が解消されたり、新たにタンザクが新設されたものもかなりあって、しかも、その多くは、元々区分が大雑把過ぎる、と言われていた役務区分の方ではなく、商品区分の、しかも特定の業界にかかわるところに集中しているように見えてしまう。
また、
「類似基準の見直しによって、これまで登録できていたものが、他人の権利と類似することとなり登録できなくなるような見直しについては、企業のブランド戦略に支障が生じないよう、業界の意向や審判決の動向を踏まえ、必要最小限の範囲にとどめる。」
という配慮もあってか、商品区分の重複解消自体、中途半端な感があるのは否めない。
声が大きい業界に、制度改正の動きが引っ張られる形になるのは、やむを得ない面もあるのだとしても、あまり露骨すぎると、誰のための商標制度なのかな・・・ということにもなりかねないわけで、これからの制度設計を考える上で、もう一度考え直すべきところは多いのではないかと思う。
(補足)
なお、補足すると、審査基準改正によってどういう影響が出るかは、会社の規模や商標への力の入れ具合によって変わってくる。
類似関係を広くとる方向で改正すれば、少ないコストで効果的に権利確保できる反面、既存の登録商標に登録を阻まれるリスクも増えるわけで、商標に多大なコストをかける余力のある会社であれば、タンザクを細分化して、類似範囲を狭くする方が好都合、ということになるし、反対にに少ない予算で回している場合はその逆、ということになろう。
同じ会社の中でも、新商品・役務のジャンルやその時々の状況によって、利害得失は変わってくるだけに、どういう方向での制度改正を求めるかは難しいところ。
個人的には、会社の損得を離れて、客観的視点から、もっとも取引実態を反映した「基準」が選択されるのがベストだと思っているのだが、なかなか、そうはいかないようである。