セブン・イレブン排除勧告にみるコンビニ業界の未来

あちこちで話題になっているので、いまさら紹介するまでもないような気もするのだが、株式会社セブン‐イレブン・ジャパンに対する排除措置命令(平成21年6月22日付)について。


公取委のプレスリリースによると、命令主文は以下のようになっている。

1 株式会社セブン−イレブン・ジャパンは,見切り販売(株式会社セブン−イレブン・ジャパンが加盟者(株式会社セブン−イレブン・ジャパンのフランチャイズ・チェーンに加盟する事業者をいう。以下主文において同じ。)の経営するコンビニエンスストアで販売することを推奨する商品のうちデイリー商品(品質が劣化しやすい食品及び飲料であって,原則として毎日店舗に納品されるものをいう。以下主文において同じ。)に係る別紙1記載の行為をいう。以下主文において同じ。)を行おうとし,又は行っている加盟者に対し,見切り販売の取りやめを余儀なくさせ,もって,加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせている行為を取りやめなければならない。
2 株式会社セブン−イレブン・ジャパンは,前項の行為を取りやめる旨及び今後,前項の行為と同様の行為を行わない旨を,取締役会において決議しなければならない。
3 株式会社セブン−イレブン・ジャパンは,前2項に基づいて採った措置を加盟者に周知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの周知及び周知徹底の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
4 株式会社セブン−イレブン・ジャパンは,今後,第1項の行為と同様の行為を行ってはならない。
5 株式会社セブン−イレブン・ジャパンは,今後,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。これらの措置の内容については,第1項の行為と同様の行為を行うことのないようにするために十分なものでなければならず,かつ,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
(1) 加盟者との取引に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の改定
(2) 加盟者が行う見切り販売の方法等についての加盟者向け及び従業員向けの資料の作成
(3) 加盟者との取引に関する独占禁止法の遵守についての,役員及び従業員に対する定期的な研修並びに法務担当者
による定期的な監査
6 (1) 株式会社セブン−イレブン・ジャパンは,第1項から第3項まで及び前項に基づいて採った措置を速やかに
公正取引委員会に報告しなければならない。
(2) 株式会社セブン−イレブン・ジャパンは,前項の(3)に基づいて講じた措置の実施内容を,今後3年間,毎年,
公正取引委員会に報告しなければならない。
(以上、http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.june/09062201.pdfより。)


最大手に対するペナルティ、ということもあって、社会的なインパクトは相当強かったように思われるが、公取委が平成14年度の時点で既に「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(改訂版)*1において、

(見切り販売の制限)
○ 廃棄ロス原価を含む売上総利益がロイヤルティの算定の基準となる場合において,本部が加盟者に対して,正当な理由がないのに,品質が急速に低下する商品等の見切り販売を制限し,売れ残りとして廃棄することを余儀なくさせること(注4)。
(注4)コンビニエンスストアフランチャイズ契約においては,売上総利益をロイヤルティの算定の基準としていることが多く,その大半は,廃棄ロス原価を売上原価に算入せず,その結果,廃棄ロス原価が売上総利益に含まれる方式を採用している。この方式の下では,加盟者が商品を廃棄する場合には,加盟者は,廃棄ロス原価を負担するほか,廃棄ロス原価を含む売上総利益に基づくロイヤルティも負担することとなり,廃棄ロス原価が売上原価に算入され,売上総利益に含まれない方式に比べて,不利益が大きくなりやすい。

として、今回対象となったような行為を、「(正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には)一般指定の第14項(優越的地位の濫用)に該当する」ものと位置づけていたことを考えるなら、むしろ今回の排除措置命令は遅きに失したくらいで、これ自体驚くには当たらない*2


もちろん、公取委の判断が常に正しいか、と言えばそんなことはないのであって、(1)FC本部と加盟店の関係を「優越的地位の濫用」類型で規制するのが果たして妥当なのか?という問題はあるし*3、(2)「正当化理由」の有無についても検討が不十分だ*4、という見方も出てこよう。


ゆえに、こういう重要な問題については、納得がいくまでとことん争ってほしいものだと思うのであるが、仮に、今回の命令に沿って実務を動かさざるを得なくなった場合にどうなるか、というのを考えてみるのも、それはそれで面白いわけで・・・。




個人的な読みとしては、これからのコンビニ業界では、直営店の比率が高まっていくんじゃないか、と思っている。


元々フランチャイズビジネスは、「新しい伸び盛りの事業を急速に展開する」際には適しているが、「市場が飽和状態になって細かいところで勝負しなければ差別化できない」という状況には向いていないし、パイが拡大している間には表面化しない加盟店との契約上の軋轢も、市場が停滞すると如実に噴き出してくる。


これまで、強力な「ブランド」と引き換えに加盟店側に転嫁していたリスクを一部ないし全部引き受けなければいけなくなる上に、基本的な販売方針の統一さえままならないことになってしまうのだとすれば、あえて今、厄介なフランチャイズ・ビジネスというモデルを堅持し続けるという選択をとる必要は乏しいんじゃないか・・・と思うところである*5


長い目で見れば、一部の加盟店オーナーの意向をくんだ、公取委の“横やり”が、将来的に既存の加盟店の利益を損なうことになる可能性もあるわけで*6、この問題を議論する際には、そういった視点からの検討も欠かせないのではないか、と思うのである*7

*1:http://www.jftc.go.jp/pressrelease/02.april/02042402.pdf

*2:平成14年のガイドライン改訂は、それまでなんとなく緩さのあった旧ガイドラインをより細かく、より厳しくしたもので、当時から業界には“脅威”として受け止められていたものであった。

*3:公取委は、「フランチャイズ・システムにおける本部と加盟者との取引において,本部が取引上優越した地位にある場合」を、「加盟者にとって本部との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,本部の要請が自己にとって著しく不利益なものであっても,これを受け入れざるを得ないような場合であり,その判断に当たっては,加盟者の本部に対する取引依存度(本部による経営指導等への依存度,商品及び原材料等の本部又は本部推奨先からの仕入割合等),本部の市場における地位,加盟者の取引先の変更可能性(初期投資の額,中途解約権の有無及びその内容,違約金の有無及びその金額,契約期間等),本部及び加盟者間の事業規模の格差等を総合的に考慮する。」という基準で判断し、このような場合に「加盟者に対して,フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施する限度を超えて,正常な商慣習に照らして不当に加盟者に不利益となるように取引条件を設定し,又は取引の条件若しくは実施について加盟者に不利益を与えている」場合には、本部の行為が優越的地位の濫用にあたるとする(ガイドライン6頁)。そして、命令書においては、「前記アからエまでの事情等により、加盟者にとっては,セブン−イレブン・ジャパンとの取引を継続することができなくなれば事業経営上大きな支障を来すこととなり,このため,加盟者は,セブン−イレブン・ジャパンからの要請に従わざるを得ない立場にある。したがって,セブン−イレブン・ジャパンの取引上の地位は,加盟者に対し優越している」(4頁)、「前記(1)の行為によって,セブン−イレブン・ジャパンは,加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせている」(5頁)ことから、優越的地位の濫用あり、と判断している。しかし、FC契約中に加盟店の本部に対する取引依存度が高いのは当たり前の話であって(そうでなければFC契約を締結する意味がない)、ここで考慮されるべきは、むしろ「取引先の変更可能性」という要素の方であろう。そして、セブンイレブン本部との契約が終了しても独自に店舗を運営していくことが可能かどうか、や、他のコンビニチェーンとの契約への乗り換えを見込めるかどうか、といった点は、各加盟店によって異なるわけだから、一律に「優越している」とくくってしまうことには疑問がある(世の中にはチェーン展開しているコンビニが数多存在するし、店舗物件自体を所有している加盟店オーナーであればどういう形で小売店舗を運営するか、という選択肢は無数にあるのだから)。また後者にしても、「原価ロスの負担が生じる」という一事をもって「不利益あり」とするのは疑問で、“タイムサービス”の乱発で利益率の低下や無駄な人件費増を招いているスーパーマーケットの状況を鑑みれば、加盟店側に「一律価格を徹底することによるメリット」があることも忘れてはならないだろう。個人的には、本件のようなケースについては、「優越的地位の濫用」類型該当性よりも「拘束条件付取引」類型該当性を検討する方が、筋が良いのではないかと思っている。

*4:ガイドラインにおいても「取扱商品の制限,販売方法の制限については,本部の統一ブランド・イメージを維持するために必要な範囲を超えて,一律に(細部に至るまで)統制を加えていないか」(7頁)と、FCチェーンの「統一ブランドイメージの維持」には一応配慮する姿勢を見せている。「販売期限切れ寸前の商品をたたき売りしない」というのは、他の競合事業者との差別化戦略上、重要な販売方針の一つといえるのではないか、と自分なんかは思ってしまうのであるが・・・。

*5:もちろん、酒、たばこ等の販売利権をはじめとする様々な利権が絡んでいる店舗は存在するから、直ちに全ての店舗を直営化する、ということにはならないと思うが。

*6:フランチャイズ契約終了後に更新が見送られることになれば、困る加盟店は多数出てくることだろう。

*7:だからといって公取委が排除措置命令を出すのが悪い、ということにはならないが、法的見地からの正義、社会的正義に叶うかどうか、ということと、現実的な当事者の利害得失は別問題だ、ということを前提として頭の中に入れておかないと、ビジネスに対する規制の是非を正しく議論することはできない、というのもまた事実であろう(これはビジネスに限った話ではないのかもしれないが)。

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