日経新聞夕刊の「ニュースの理由(わけ)」というコラムで、セブンイレブンに対する公取委の排除命令の話題が取り上げられている*1。
内容としては、
「加盟店が売れ残り弁当を値引きして見切り販売することを同社が制限したことについて、公取委がこうしたことでは使ってこなかった「優越的地位の濫用」を初適用した」
ために今回の排除措置命令が法曹関係者の間で話題になっている、と切り出した上で、今回の命令の伝統的な独禁法解釈の中での位置づけや命令が出された背景を分析していく、といったものである。
記事には若干正確性を欠くように思われるところがあって、
「独禁法の条文にある「優越的地位の乱用」には、価格に関する文言がない」
という指摘は、「現実には独禁法の解釈上そんなに重要な意味をもつ話ではないんじゃないの?」という反論が出てくるように思うし*2、本ブログでも紹介したように、公取委は今から5年も前に「見切り販売制限」が「優越的地位の濫用」類型にあたりうる、という見解を表明しているのであるから*3、この話が今になって唐突に出てきたかのような前提で記事全体が構成されている点にもちょっと首を傾げたくなる。
また、
「欧米の独禁法解釈では「FC契約によって本部が統一的な手法で加盟店側を統制することは商標などブランドを守るため当然なこと」(甲南大学法科大学院の根岸哲教授)とされている。それを承知で公取委が解釈の幅を広げてきたことが憶測を呼ぶ理由でもある。」
と書かれているが、これも先日のエントリーで紹介したように、日本の独禁当局も“ブランド・イメージ維持のために必要な範囲内での”統制は許容しているのであって、今回は本部の行為が“必要な範囲”を超えた、と判断したから排除措置命令に至った、と考えるべきだろう*4。そして、ブランド保持のための統制にこのような限界があるのは、日本であっても欧米であっても変わりはないんじゃないだろうか、と思う*5。
ただ、記事の中には、今回の公取委の動きの背景を知る上で興味深いコメントも出てきているのも確かだ。たとえば、
「価格に関する独禁法違反問題は「再販売価格の拘束」や「拘束条件付取引」という2つの不公正な取引方法に照らして判断するのが一般的。公取委はセブンイレブン本部と加盟店を調査したが、この2つに該当する証拠を見つけることができなかった。公取委幹部も「(伝統的手法では)本部の行為を不当とはいえなかった」と語る。」
というくだり、そして、「公取委の胸の内をおしはかる興味深い発言」として取り上げられている、
「世の中にインパクトのある事件を採り上げていきたい。」
記事の中では、「官の世界で消費者重視への姿勢転換が求められる」という動きとリンクさせた解説が試みられている。
だが、そういう“表向きの話”の裏に“肥大化した公取委という組織を防衛する”という思惑が透けて見えてきてしまうのは筆者だけだろうか?
これまで何度も書いてきたことではあるが、公務員の定数圧縮が至上命題になっている中で、組織拡大が許されている数少ないお役所*6だけに、“成果”を出し続けないと自らの存在の正当性を証明できない、そんな切迫感が、最近の、時に“やりすぎ”と思えるような措置につながっていることは否めないのではないかと思う。
もちろん、「公取委が組織を防衛すること」と市民や企業の利益とが常に相反するわけではないから、人々の利益になるのであれば、多少は強権を発動させてもいいじゃないか、という見方はあるのかもしれないが、やはり、今回のセブンイレブンに対する排除措置命令については、法解釈上すっきりしないところも多いわけで・・・。
個人的には、セブンイレブン社には、是非とも審決取消訴訟(高裁→最高裁)まで徹底的に争っていただきたいものだと思うのであるが果たしてどうなるか、今後の動きが引き続き気になるところである。
*1:日本経済新聞2009年7月3日付夕刊・第2面、田中陽編集委員担当。
*2:いわゆる独禁法、一般指定上の規制行為類型と世の中で実際に行われる行為が「1対1対応」ではない(したがって「拘束条件付取引」の類型にあたりうるからといって「優越的地位の濫用」類型で規制できなくなるわけではない)、というのは常識的事項とされているのではないかと思う。
*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090626/1246071248
*4:その割には、ご多分にもれず「正当化理由」の有無を検討した道筋についてきちんと命令書に書かれていないのは確かだが。
*5:筆者は決して欧米の独禁法ルールを熟知しているわけではないので、あくまで憶測の域を出ないのだが・・・。
*6:一応「独立行政委員会」というポジションにある組織ではあるが、実態としては・・・。