果敢な挑戦者か、無謀な侵害者か?

年末も大詰めのこの時期に「自炊の森」なるレンタルスペースが秋葉原に仮オープンした、ということで、ネット上での議論もなかなか盛り上がっているそうである。
http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/hotline/20101228/etc_jisui.html

いわゆる“自炊”用機材(高速スキャナ等)を店内に設置するだけでなく、裁断済み書籍も店内で提供し、対価を取って利用者に“自炊”させるサービス、とくれば、正常な感覚を持ったビジネスパーソンであれば、「著作権大丈夫か?」という危機感を抱くはずだが、今回の「自炊の森」が面白いのは、わざわざ、

知的財産権に詳しい弁護士と相談し、問題ない仕組みと判断した」

と公言して、自らの正当性をアピールしているところ。

しかも、自らのビジネスモデルの正当化根拠として、著作権法30条(私的複製)、同条1項1号に関する附則5条の2(「自動複製機器」の例外規定)と具体的な条文まで示して(いわば手の内を晒して)、あちこちから飛んでくるであろう批判と“打ち合う”姿勢を見せているものだから、またネット住民たちが盛り上がるわけで・・・。

まぁ、それなりの需要があるのは確かだろうし、“聖地”秋葉原に敢えてこのような店を設け、「適法性」を主張して、著作権業界の議論に一石を投じようとする勇気は、一応買ってあげても良いかな、と思う。

だが・・・


自分の感想としては、上記のような事業者側の見解は、極めてリスキーなものだと思う。

この事業者に上記のような「反論」を用意させたのは、おそらく「知的財産権に詳しい」という触れ込みの弁護士なのだろうけど、ここ数年の著作権の侵害主体をめぐる議論とそれに伴うリスクをどこまで織り込んで説明をしたのだろうか?

一連のビジネスモデルを個々の行為に「分解」して論じれば、形式的な条文解釈で「適法」になるように見えるとしても、「『店が管理する著作物を複製させる』ことに主眼を置いたサービスを店舗が積極的に提供する」というビジネス全体の構図*1を考えれば、「私的複製になるから問題ないです」なんてコメントは、自分には絶対に出せない。

かねてから指摘されているとおり、我が国の著作権法をめぐる解釈においては、物理的行為者(本件だとお店の“自炊”サービスを利用する人)の行為が適法であったとしても、サービスを提供する事業者の関与の程度によっては、当該事業者が侵害主体として著作権侵害の責めを負う可能性があるのであって(いわゆるカラオケ法理=間接侵害理論)、今回のケースでもお店を運営する事業者が、利用者のためにお膳立てを整え、自分たちのサービスの魅力を広く宣伝すればするほど、著作物の複製主体と見なされるリスクは高まることになる。

そして、事業者が複製主体とみなされることになれば、そこに著作権法30条を持ち込む余地ももはやなくなってしまうわけで、今回の事業者側の反論はいかにも危うい。


また、ついでに言えば、この事業者が、権利者のプレッシャーに負けて店をたたむくらいの話で済むなら、そんなに世の中へのあたりはないと思うのだけれど、ブチ切れた権利者側が、これを機に附則第5条の2の経過措置を廃止する方向の動きを見せないとは限らないわけで*2、その辺も含めて、よく考えて話を進めた方がいいんじゃないのかな、というのが自分の率直な感想である。

「本格オープン」の時期とされている1月中旬まで、この店のビジネスモデルが生き残れるのかどうか*3
その辺に注目しながら見守っていくことにしたい。

*1:店舗の「開店告知」(http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/hotline/20101228/image/shjs10.html)を見てもそのことは明白だろう。

*2:フェア・ユース規定の導入とバーターで、経過措置の廃止を求める、なんてことも考えられなくはない。

*3:年明け早々、この事業者に対して内容証明郵便が大量に押し寄せる予感もする。