震災と原発事故の影響で、夏場の電力不足が懸念される今日この頃。
そんな中、日経紙の1面に「節電促進へ規制緩和」という見出しの記事が掲載された。
中身は「企業が節電策を実施しやすいよう競争、環境、労働に関する規制を特例的に緩和する調整に入った」という趣旨のものであり、環境関連の「緑地規制緩和」や、労働法規関連の「休日・夜間操業を可能とする就業規則改定の支援」*1、「労働安全衛生法上の温度・照度規制の弾力運用」*2といった内容については、なるほど、と思ったのであるが、引っかかったのは次のくだり。
「ピーク時の使用電力を抑えるため複数企業が調整して操業日をずらす輪番操業は、独禁法上は企業間で生産量を調整するカルテルにあたる可能性がある。公正取引委員会はカルテル事件の担当部署に、節電目的の輪番操業は違法なカルテルと認定しないよう徹底する」(日本経済新聞2011年4月4日付け朝刊・第1面)
まぁ、確かに、悪意をもって解釈すれば、一種の“生産調整”といえなくもないが、常識的に考えれば、単に操業日の調整をするだけなら、(正当化事由の有無を議論するまでもなく)独禁法違反とはいえない、という解釈になるのではないかと思う。
生産活動に関してヨコの“拘束”がかかっているのは事実だとしても、それは、あくまで中立的な内容の“拘束”に過ぎず、決められた操業日にどの程度生産するかは各社の自由に委ねられているわけだし、市場での取引をコントロールしうるような価格、販売数量、販売先等については、情報連絡さえ行われることは想定されていないはず。
組織増強戦略に転じて以降の公取委のスタンスからすれば、
「そもそも、同業者同士で、具体的な生産活動について話し合いをすること自体けしからん」
というのがベースにあって、それゆえ、「カルテルと認定しないよう徹底する」という違和感のある方針をわざわざ打ち出しているのかもしれないが、もし仮に、節電策としての「輪番操業」をカルテルとして摘発するようなマインドが「担当部署」に存在するのであれば、それはもはや「市場の番犬」を逸脱した“狂犬”に近いマインド、というほかない。
震災直後に出された「被災地への救援物資配送に関する業界での調整について」(http://www.jftc.go.jp/info/110318busshi.html)というリリースにも、個人的にはぎょっとさせられたところはあり*3、公取委の有事におけるセンスの欠如に若干辟易したのだが、今回の記事に書かれている内容も限りなくそれに近いのではないかと思う。
平時とは異なり、今は公取委のような規制官庁が存在感を発揮しづらい状況ではあるのだが、だからといって、わざわざ「カルテル成立の可能性」をちらつかせる、というのはいかがなものかと思うのである。