公取委の微妙なQ&A

数日前、本ブログで取り上げていた「輪番操業が独占禁止法違反になるか?」という問題に対し*1公正取引委員会が一つの見解を示した。

公正取引委員会の山本和史事務総長は6日の記者会見で、産業界が夏の電力不足に対応し、業界ごとに操業日をずらす「輪番操業」を検討していることについて「参加や順守を強制しなければ独占禁止法上、問題にはならない」との認識を示した」(日本経済新聞2011年4月7日付け朝刊・第5面)

上記の記事は、隅っこの方に掲載された小さな記事に過ぎないし、「問題ない」という見出しだけ見たら、思わず読み飛ばしてしまいそうになるのだが、良く見ると、ぎょっとすることが書かれている。

参加や順守を強制しなければ

ですと・・・?

誰しも好き好んで、会社間の事前調整や現場のラインの操配等々、手間のかかる「輪番操業」なんてやりたいはずもないのであって、できることなら自分たちのやりたいようにやらせてくれ、と思っている会社は多いだろう(特に絶対的な電力使用量が大きくない中小企業であれば、なおさらそう思うだろう)。

だけど、“電力使用抑制”“ブラックアウト回避”という絶対的な命題を達成しなければいけないからこそ、一種の“非常時体制”として「輪番操業」をやろうとしているわけで、明示的なものかどうかはともかく、そこに参加や順守の(事実上の)「強制」がなければ、取り組み自体に全く意味がなくなってしまうではないか・・・

しかも、「参加や順守の強制」というフレーズが、そもそも独禁法上のいかなる違反要件を意識しているのか分からない・・・(元々カルテルの話をしていたんじゃなかったのか・・・?)

そう思って、公取委の真意を確かめるべく、委員会のHPを覗いてみたところ、以下のようなQ&Aが追加されていた。

問6(4月7日追加)
この夏に向けて一層の節電が求められているところ,業界団体や商店街において自主行動計画を策定することを考えています。独占禁止法上問題とならない取組には,どのようなものがありますか。
(答)
業界団体や商店街が,大規模停電を回避するという社会公共目的のために,例えば,以下のような使用電力のピークカットの取組を行うことは,商品・サービスの価格・数量や営業方法等の競争に直接影響する事項を制限するものではないと考えられます。したがって,参加や遵守を強制せず,また,差別的なものでない限り独占禁止法上問題になるものではありません。
(1)各事業者の既存の定休日の曜日をずらす調整を行う。
(2)各事業者が独自に増やした分の休業日をずらす調整を行う。
(3)照明や音量を落とすことを申し合わせる。
(4)冷房の設定温度を申し合わせる。

http://www.jftc.go.jp/info/23jishinqa.html

謎は解けたようで解けない。

答えの一文目については、自分も先日の記事の中で書いたとおり、「輪番操業」等が、独禁法2条6項(不当な取引制限)の違反要件を満たさず、同項に該当しないことを明記したもの、と解釈して差し支えないように思われる*2

ところが、分からないのは二文目以降だ。

「参加や遵守を強制せず」とか、「差別的なものでない」という表現が、どのような違反要件を意識したものなのか、“分かりやすさ”を重視してか(あるいは、突き詰めた議論をかわすためか?)、上記Q&Aには条文等が全く引用されていないため、俄かには分からない。

善意で解釈するなら、独禁法2条9項6号イ、一般指定5項による事業者団体等による差別的取扱いや、独禁法8条4号による事業者団体による事業者の活動の不当な制限、あるいは、場合によっては、独禁法2条5号の私的独占の規定などを意識したのかな・・・などということになるのかもしれない。

だが、だとしても、「差別的取扱い」はともかく、「参加や順守の(事実上の)強制」については、「正当化理由あり」として許容される余地はあるのではなかろうか*3

事業者性善説に立った、

「事業者団体が紳士協定を定めておけば、事業者の皆さんが空気を読んで遵守してくれるでしょ。」

という発想なのか、それとも、

「この時代に、抜け駆けで輪番破りをして停電を引き起こそうものなら世論が黙っていないだろうから、どの事業者も大人しく従うでしょ。」

という発想なのかは分からないが、ここで「参加や順守の強制」なんてフレーズを入れてしまったばっかりに、後々、「独禁法違反」を主張する事業者が現れて、泥沼の争いにならなければいいのだがなぁ・・・と思うところである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110404/1301937675

*2:日経紙の紙面でどこまで厳密に「カルテル」という用語を用いているのかは知らないが、「不当な取引制限」=「カルテル」という通常の理解に従うなら、この点において「カルテルに該当しない」という表現は正しいということになりそうである。

*3:この辺は、夏場の電力供給の逼迫度合いにもよるし、違反した場合の(事実上の)制裁の軽重にもよるだろうが・・・。

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