奇跡は起きるべくして起きた。

たぶん、多くのメディア関係者が、朝一のトップニュースに、

「なでしこ善戦、よくやった銀メダル!」

的な見出しを付けることをイメージしながら、放送の始まりを待っていたことだろう。
そして、試合が始まってから、最初の10分間くらいの展開を見て、「泣くな、なでしこ」的な見出しの方がいいかなぁ・・・と思った人も大勢いたことだろう。

それっくらい、アメリカ女子チームの出足は鋭く、ドリブル突破にもシュートにも強烈さがあった。

だが、いつもながらの徹底した寄せで相手の決定的な場面でのミスを誘い、ゴールポスト、ゴールバーの助けも借りながら守り切った最初の45分で、徐々に流れは、イーブンな方向に向かっていったような気がする。

後半21分に交代カードを2枚同時に使い、澤選手もいい感じで攻撃参加するようになってきた時間帯にカウンター一閃で失点を喫してしまったり*1、宮間選手の奇跡のポジショニング&左足でようやく同点に追い付き*2、流れ自体は悪くなかったはずの延長戦でも、一番警戒すべき前半終了間際に相手エースのワンバックに致命的なピンポイントヘッドを喫してしまったり・・・と、これでもかこれでもか、というくらいの試練を与えられ、普通のチームならあきらめて意気消沈しても不思議ではないような展開になっても、ここぞというところで澤選手が、延長後半ギリギリのところで、漫画のような空中足技を決めて同点に追いついてしまう・・・*3

自分も含め、大事な試合で“善戦”止まりな代表チームに慣らされて、「こんなところで勝てるはずが・・・」と思ってしまった多くの弱気な日本人の予想を根底から覆すように、2度も神業的なシュートが相手ゴールに突き刺さった時点で、そして、最後に訪れたピンチを岩清水選手が一発退場の代償と引き換えに防いだ時点で*4、最後の展開は十分予想できた。

もちろん、アメリカ選手のPKを3連続で止めて(うち2本は枠内シュート阻止の偉業)、5人目まで回すことなく勝負を決めてしまった、というのは、あまりに出来すぎだったけど・・・。


男子に比べれば歴史の浅い女子とはいえ、FIFA主催の国際大会、しかもフル代表のW杯で優勝というのだから、日本のこれまでの立ち位置、そして今の国内女子リーグが置かれている地位*5を考えると、これを奇跡と言わず何と言おう。

でも、今大会何度も見せてくれた代表歴の長い選手たちの息の合ったコンビネーションや*6、控え選手の層の厚さ*7、最後に登場した若いPKキッカー達の集中力と確実性*8、そして、PK戦直前、まさかの同点劇に茫然自失となっている米国代表を横目に、笑みすら浮かべて最後の勝負に挑んでいったその姿を見ていたら、決して順風とは言えない環境を乗り越えて歴史を作ってきた彼女たちの体とハートの強さが、この奇跡を起こすべくして起こしたのだ・・・と感じざるを得ない。


忘れっぽい日本人のことだから、この感動も、新しいスポンサーが名乗りを上げる前にいつのまにか冷めてしまい、彼女たちは引き続き、恵まれない環境に身を置き続けないといけなくなるのかもしれないし*9、逆に、これを機に女子サッカーが一気に脚光を浴びることによって、かえって失われてしまうものが出てきてしまうこともあるのかもしれない。

だけど、男子フル代表の2度の“ベスト16”や、世代別の代表チームが何度か辿りついてきた“準優勝”といったポジションとは異なり、今大会の結果は、名実ともに、サッカー界の歴史に「JAPAN」の名を刻むものになったわけで、それは、国民の熱が冷め、なでしこの輝きが色あせても必ず残る。

そんな重みのある瞬間に目撃者として立ち会えたことに、ささやかな誇りを感じつつ・・・*10、ちっぽけな自分の今日一日の過ごし方を考えることにしたい。

*1:しかも、交替したばかりの永里選手がポストプレーでもたついて奪われたボールから・・・というなかなかシュールな失点だった。

*2:澤選手のスーパーゴールばかりが脚光を浴びているが、宮間選手の“逆足”で打ったあのゴールも、相当な高等技術。

*3:何度VTRを見返しても、どうやってボールのコースをゴールに向けたのか、普通の頭脳じゃ理解できない(笑)。

*4:満を持して投入したはずの岩渕真奈選手の軽率なパスから、一気にカウンターを食らってのピンチだっただけに、体を投げ出してでもあそこで失点を防いだことには大きな意味があった。

*5:プロ契約している選手もいるとはいえ、多くの選手は試合給だけでは生活できない、日本で言えばJリーグ開幕前夜のような環境である。

*6:その最たるものが、最後の澤選手の一点なんだが、これを称えるのはもうくどいからやめておこう。

*7:特に、準決勝のスウェーデン戦が初の先発で、今大会フル出場した経験がなかった川澄奈穂美選手が、120分フル出場して、かつ終盤まで足を止めることなく前線から効果的なプレッシャーをかけ続けていたのには、驚かされた。

*8:特に20歳の熊谷紗希選手が、あんなに思いっきりの良いゴールを堂々と蹴り込むなんて、想像もできなかった。

*9:せめてマリーゼの受け皿チームくらいは、さっさとどこかが手を上げて作って欲しい。

*10:早起きには三文以上の得があったw。