必然の勝利。

戦前から、おそらく今大会の最大のヤマ場になるだろう、と感じていたこともあって予定を調整した結果*1、女子W杯準決勝、歴史に残る日本対イングランドの戦いを最後まで見届けることができた。

女子の大会は、男子のそれに比べると戦術的な振り返りや検証をする番組が多いとは言えないし、試合結果の報道自体もどちらかと言えば控えめで、試合内容とは関係ない話題の方に割かれる時間も多い。だから、「後半ロスタイムのオウンゴールによる決着」という表面的な報道だけを見て、“なでしこは運がいい”的な受けとめ方をした人も、決して少なくはなかっただろう。

だが、試合を最初から最後までちゃんと見ていた人には、この勝利が、周到な計算に基づく必然的な結果だった、ということは容易に理解できたはずで、この試合を評して、「幸運に恵まれた」という表現をすることは*2)、的確ではないな、と思うところである。


もちろん、決して楽な試合だったわけではない。

何と言っても、相手は、激戦のグループFをしぶとく勝ちあがり*3、ドイツと引き分けたノルウェー、そして、地元の期待を一心に受けたカナダを連破する、というアップセットを繰り返し、過去の対戦成績でも日本を圧倒しているイングランド代表である。

そして、試合が始まってからも、序盤の立ち上がりから有吉選手のサイド突破でPKを取ったあたりまでは比較的良いリズムだったものの、その後、早々にPKで同点に追いつかれ、後半に入ってからは運動量豊富なイングランド代表にむしろ押し込まれる展開になった。

ブロンズ選手、ダガン選手といった、どこからでもシュートを打ってくる選手たちに、体格で圧倒するジル・スコット選手(181?)らが絡む攻撃はかなりの迫力。
そして、守備に回ってもDFラインの戻りが早く、統率もきっちり取れていて、日本の攻撃陣になかなか付け入る隙を与えてくれない*4

シュートの本数は終始イングランドの方が日本を上回っていて(最終的には15本と7本)、相手の前線の選手たちのシュート精度がもう少しまともなら、2,3点奪われても不思議ではない展開だったし、日本が優位に立てるはずのボール保持率ですら、途中くらいまではイングランドの方が上回っていたくらいで、しばらくはハラハラしっぱなし、という時間帯が続いたのも確かだ。

ただ、サッカーの試合はあくまで90分(+extra30分)の中で評価されるべきもの。

後半の中盤から終盤に差し掛かる頃、イングランドの選手たちに疲労の色が濃くなり、足を攣る選手の姿もチラホラみられるようになる。
そして、延長戦もにらまないといけないような拮抗した展開の中で、名将・サンプソン監督は、後半41分までに3枚全ての交代カードを切らざるを得なかった*5

そんな中で、右サイドから攻め上がった川澄選手が放った精度の高いロングクロス。

目の肥えたメディアは記事の中でもちゃんと紹介していたが、決定力のある大儀見、岩渕という攻撃陣がしっかり走り込んでいて、背走する相手DFよりも事実上優位に立っているような状況だったから、仮にバセット選手が自軍ゴールに蹴りこまなかったとしても、数秒後には日本にとっての歓喜の瞬間が訪れた可能性は高い*6

また、万が一、あのプレーの流れの中で日本の得点が生まれなかったとしても、日本にはまだまだ多くの戦術的なオプションが残っていたわけで、例えば、延長戦に入って澤選手を投入すれば、イングランドをもはや手も足も出ない状況に追い込むこともできただろう*7

それゆえ、自分は「2−1」という決着が「必然」のものだった、と感じたのである。


前のエントリーでも書いたが、大会前、期待を裏切って早期に敗退する気配も漂わせていた日本女子代表が、「2大会連続決勝進出」(五輪も含めれば3大会連続)というところまでたどり着くとは夢にも思っていなかった。

グループリーグが始まってからもまだ煮え切らない戦いを続けていたチームは、トーナメントに入ってから日替わりで新しいヒロインを生みながら、確実に成長を続けている*8

前回W杯、五輪のメンバーに宇津木選手が加わって円熟の境地に達しつつある守備陣はもちろんのこと、大会序盤は精彩を欠いていた攻撃陣も、川澄選手が準決勝でのあの「一本」で覚醒すれば、ピースは揃う*9

復活を遂げてもまだピーク時の8割くらい、という印象のチームが、これまで危なげなく勝ちあがってきた米国相手に勝利を挙げるのは、決してたやすいことではないと思うのだけれど、泣いても笑っても、これが世界で覇権を争い続けてきたライバル対決の最終章。

明日につながる戦いになることを、心から願っている。

*1:早い話が仕事をさぼった結果・・・。

*2:「幸運に恵まれた」という点では、間違いではないとしても・・・

*3:フランス、コロンビアとの三つ巴の戦いを、2位で勝ち上がった。

*4:元々、前回のW杯やロンドン五輪に比べると、今大会の日本代表のパスの精度やスピードは相対的に他のチームを圧倒できるようなものではなくなっているから、この日も、あっさりとカットされてピンチを招くパターンも多かった。岩渕選手が投入されてからは、さすがにリズムが少し変わって、何度かペナルティエリア内に突っかける場面を演出できるようになったものの、それでもチャンスは限られていた。

*5:逆に、日本代表の選手交代は、後半25分の大野→岩渕の戦術的交代のみだった。

*6:逆にバセット選手があの態勢で川澄選手のボールをクリアしていたら、歴史に残る好プレーになっただろう。それくらいイングランドにとっては難しい状況だった。

*7:怖い要素があるとしたら、86分に投入されたカーニー選手の個人技による一発を食らうことと、1‐1のままPK合戦に行くことくらいで、相手の疲労度と日本代表の守備陣の安定感を考えれば、組織的に崩されるリスクはほぼ皆無、という状況だったように思う。あくまで結果論ではあるが。

*8:POMも、グループリーグは3試合連続で宮間選手だったが、決勝トーナメントに入ってからは、阪口選手、宇津木選手、そして準決勝の有吉選手、と日替わりになっている。

*9:大会前の川澄選手は元々先発に入れるかどうか微妙、という状況が報じられていたし、準決勝の試合でも十分な存在感を発揮していたとはお世辞にも言えないのだけど、最後の最後で決定的な役割を果たした、というのはやはり大きかったと思う。ボールをもってカットインすれば得点の香りがした全盛期の姿を知る者としては寂しさもあるが、勝手知ったる米国相手に、もう一花咲かせる余地は十分にある。

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