蘇ったフレッドペリー判決の規範〜「ハック済みWii」商標法違反被告事件をめぐって

最高裁HPが日々判決文をアップしてくれるおかげで、こと民事事件に関しては、知財事件の判決をリアルタイムで見ることができるようになって久しい。

だが、刑事事件、となると、(一般の方が思っているよりは)係属している事件数が多いにもかかわらず(特に商標権侵害事件)、知財専門部が扱っていないこともあって、判決の中身が公になる機会は稀である。

そんな中、「下級審裁判例」として、名古屋高裁における興味深い商標法違反被告事件がアップされた。

かつて「フレッドペリー並行輸入事件」(最一小判平成15年2月27日)*1で一応の結論が出た、とされる“商標機能論”が、刑事事件で争点とされた、という点で、一ひねりある事件のように思われるだけに、ここでご紹介しておくことにしたい。

名古屋高判平成25年1月29日(H24(う)第125号)*2

名古屋地裁での原審判決(H23(わ)第2197号)に接していないため、公訴事実を正確に知ることはできないのだが、控訴審判決に記されているところによると、

「被告人が,任天堂株式会社が商標登録を受けている「Wii」及び「Nintendo」の各商標を付した家庭用テレビゲーム機Wiiについて,Wii専用アプリケーション以外の各種アプリケーションのインストール及び実行も可能になるように内蔵プログラム(後出の「ファームウエア」)等を改変した上で,上記各商標を付したまま前後3回にわたり計3名に販売して譲渡した行為(原判示第1)が,任天堂の商標権を侵害する行為として商標法78条の罪に該当し,また,自宅においてそのように内蔵プログラムの改変をしたWii4台を譲渡のために所持した行為(原判示第2)が,同法37条2号の商標権侵害とみなされる行為として同法78条の2の罪に該当する旨の判断を示して,被告人に有罪を言い渡した。」(1頁)

というのが原審の判断の要旨のようである。

これに対し、弁護人は、

(1)「本件Wiiは,商標権の出所表示機能を損なうような同一性の欠如は来していない。」
(2)「被告人は,本件Wiiを初期化することにより改変前の状態に復元できると認識していたから,同一性を損なうような改変をしたという認識を欠き,商標権侵害の故意が存在しない。」
(3)「被告人は,原判示第1の行為当時,MODチップなどの部品を付加する改造をしたWiiの出品は禁止されていて違法であると認識していたが,本件Wiiのような内蔵プログラムだけを改変したものについてはそのような制限がなく,その後,インターネット上の質問サイトにおいても,出品は適法であるとの回答が寄せられていたから,違法性の意識の可能性はな」い。
(1〜2頁)

といった法令解釈適用の誤り及び事実誤認がある、とし、被告人の無罪を主張して争った。

前記のようなファームウェアの改変(「ハック」)の手法は、かつてネット上でも紹介されていたようであり、今でも検索するとその痕跡を見ることができるし、同時に、本件を含む「真正なゲーム機を“ハック”して有償譲渡する行為」に対して、ある時期から警察の取り締まりが厳しくなり、続々と逮捕報道がなされていた状況も検索結果からは浮かび上がってくるのだが、検索で出てくるのは、いずれも、この種の報道にありがちな「逮捕まで」の報道に終わっているものばかりで、“被疑事実”であった商標権侵害罪が本当に成立するかどうか、ということを突き詰めて検討したような記事は見当たらない*3

そして、ここで争点となっている「商標権侵害の実質的違法性」をめぐる問題については、並行輸入に関する前記フレッドペリー事件の最高裁判決が存在するものの、本件のようなゲーム機の(外形上判別できない)改変、しかも刑事的観点からのその違法性に焦点を充てたような最高裁レベルの規範は存在しなかったため、弁護人としても、あえて、上記のような議論(特に(1))を提起し、争ったのだろう*4

不正競争防止法に基づく「技術的制限手段の回避」を問題とするのであればともかく*5、「商標権侵害」というのは、この手の問題に対する規制の手段としては、“搦め手的手法”のようにも思われるだけに、「実質的違法性」を争う、という弁護人の主張は、興味深いものではあった。

だが、名古屋高裁は、この争点(1)に対し、以下のように述べ、弁護人の主張を結論として退けている。

「商標法は,商標権者が指定商品について登録商標の使用をする権利の専有を認め(同法25条),かつ,商標の「使用」の概念については,同法2条3項が形式的にこれに属する行為を定めているから,商標権者以外の者が,指定商品に登録商標を付したものをその許諾を得ずに譲渡するなど,「使用」に当たる行為をすれば,商標権の侵害を構成することはいうまでもない。しかしながら,商標権者又はその許諾を得た者により,適法に商標が付され,かつ,流通に置かれた商品(真正商品)が,転々と譲渡等される場合は,商標の機能である出所表示機能及び品質保証機能は害されないから,このような場合における各譲渡等による商標使用は,実質的な違法性を欠き(最高裁平成15年2月27日第一小法廷判決・民集57巻2号125頁参照),商標権侵害の罪は成立しないものと解すべきである。所論(当審弁論を含む。以下同じ。)は,同様の結論を導く根拠を,当該商品について商標権者により一度は商標権が行使され,これが用い尽くされていることにより消滅しているという,いわゆる消尽論に求めているが,上記判例及び現在の商標権に関する裁判実務は,そのような解釈を採用していないから,これにくみすることはできない。そして,上述の観点からすれば,当初は,商標権者又はその許諾を得た者により,適法に商標が付され,かつ,流通に置かれた真正商品であっても,それら以外の者によって改変が加えられ,かつ,その改変の程度が上記出所表示機能及び品質保証機能を損なう程度に至っているときには,これを転売等して付されている商標を使用することにつき,実質的違法性を欠くといえる根拠が失われていることも自明である。したがって,本件において,原審の主要な争点であり,また,所論も問題としている本件Wiiと真正品との同一性は,その改変の程度が,実質的に出所表示機能及び品質保証機能を損なう程度に至っているかどうかという観点から判断されるべきものと解される。 」(3〜4頁)

「以上の事実関係によれば,本件Wiiは,ハードウエアそのものに何ら変更は加えられていないが,被告人が行ったハックによりファームウエアが書き換えられたため,真正品が本来備えていたゲーム機としての機能が大幅に変更されていることが明らかである。ところで,ファームウエアは,あくまでソフトウエアであり,ハードウエアであるWiiとは別個の存在と観念できる。しかし,ファームウエアは,前記(2)ア(a)及び(b)のとおり,ゲーム機としてのWiiの機能及び個性を規定するもので,かつ,Wiiにおいて,ファームウエアが担う機能について,性質上,メーカーが提供するプログラム以外のものをユーザーが任意に用いることが予定されていないことも明らかである(このような関係は,多くの電子機器商品において公知に属する。)から,ファームウエアは,ハードウエアとしてのWiiと不可分一体かつ不可欠の構成要素であると認められる。そうすると,その改変は,それ自体において,商品としてのWiiの本質的部分の改変に外ならないというべきである。そして,このようなファームウエアが改変された本件Wiiの品質の提供主体は,もはやいかなる意味においても,付された商標の商標権者である任天堂であると識別し得ないことは明らかである。また,商標権者である任天堂が配布したものではない非正規のファームウエアによっては,ゲーム機としての動作を保証できないことも明らかであるから,需要者の同一商標の付された商品に対する同一品質の期待に応える作用をいう商標の品質保証機能が損なわれていることも疑いを入れない。したがって,いずれの意味においても,前記(1)の法理における実質的違法性が阻却される根拠はないといわざるを得ず,被告人の原判示第1及び第2の各行為が任天堂の商標権を侵害するものであることは明らかである。」
原判決の判断は,同一性を論じる意味合いの点を含め,必ずしも整理されたものとはいい難いが,被告人のハックにより加えられた改変の内容,程度が,商品としての同一性を失わせるものであり,商標の持つ出所表示機能及び品質保証機能を害する程度に至っているとして,本件各行為につき商標権侵害を肯定したことは,正当であるから,そこに判決に影響するような経験則違背による事実の誤認及び法令の解釈適用の誤りは認められない。 」(6〜7頁)

この中で意義があると思われるのは、言うまでもなく、フレッドペリー最高裁判決を引用して、「出所表示機能及び品質保証機能を損なう程度に至っているかどうか」を、「流通過程における改変の商標権侵害罪の違法性阻却事由の成否」のメルクマールとした点であり*6、さらに、その当てはめにおいて、「ファームウェアの改変」を「出所の同一性を損なう」のみならず「品質保証機能を損なう」者としても位置付けた、ということであろう。

そして、「改変と真正品の同一性」の問題を、必ずしも明確に商標機能論に絡めて論じていなかったとも思われる原審判決とは異なり、「商標権違反罪における違法性阻却事由をめぐる判断基準を、民事事件におけるそれと整合させようとした」という点で、この高裁判決の価値が認められるように思われる。

もちろん、「フレッドペリー最高裁判決」が挙げた規範に対しては、当時から様々な指摘があったところで、特に、「品質保証機能を害することがな(いこと)」を実質的違法性判断のメルクマークとした点については、

「品質保証機能というものは出所識別機能に従属するものであって独立の保護法益とはされていない」

という立場から、調査官解説等とは異なる解釈の余地を指摘する見解も多く示されていた*7し、その後の裁判例(「BODY GLOVE」事件)で「最高裁がいっている品質保証機能を限定しようとする意図が窺」える、という指摘(前掲・田村131頁)もなされていたところだっただけに、最高裁判決の文言どおりに「出所表示機能」と「品質保証機能」を並べ、それぞれ独立した保護法益であるかのごとく事実の当てはめを行った本高裁判決には、一定の批判も考えられるところだろう。

そもそも出所表示機能に関する、

「このようなファームウェアが改変された本件Wiiの品質の提供主体は、もはやいかなる意味においても、付された商標の商標権者である任天堂であると識別し得ないことは明らかである」(7頁)

という判旨の中に、既に「品質」の差異を取り込んだ評価が含まれているのだから、それと重ねて「品質保証機能」まで持ち出す必要はなかったともいえる*8

だが、ともすれば「(メーカーの意向に反する)不正改造」という一言で、「悪いものは悪い」と片づけられがちなこの種の事案について、商標法の保護法益から丁寧に理屈が整理されたことの意義は大きい、と自分は考えている。


なお、争点(2)、(3)(故意の有無)について、裁判所は、

「本件Wiiは,いずれも被告人が前記3(2)ウのようにして自らハックしたものであり,被告人は,これによりファームウエア等が書き換えられ,真正品ではなし得ない不正規アプリケーションのインストールや実行,外部記憶装置に複製されたアプリケーションの実行等が可能になるなど,ゲーム機としての個性及び機能が真正品とは大きく変わっていることを認識していたことは明らかであるその上で,被告人は,真正品と同じ商標を付したままの本件Wiiを,販売して譲渡し,又は,譲渡する目的で所持したものであり,これら各行為についての認識にも欠けるところはない。そうである以上,被告人の商標権侵害に当たる事実の認識に何ら欠けるところはなく,同罪の故意が優に認められる。 」(9-10頁)

と極めて冷淡に、弁護人の主張を退けた。

一般的に、ベースにある事実関係にほとんど争いがなく、その法的評価が専ら争われるような事案では、被告人の「認識」に対する裁判官の表かは厳しいように思われるし、商標法違反罪においても、そこは変わらない、ということなのだろう。

自分も、本件の被告人が、「ハック済み」をうたって、ネットオークション等で大々的に売り出していた以上、上記のような判断になるのはやむを得ないところではないか、と思う*9

むしろ、(結論は変わらないにしても)

「原判決は,本件事案において,商標権侵害罪の故意が成立するためには,真正品と改造品の同一性の喪失を根拠づける事実の認識が必要である,とする所論と同旨の原審弁護人の主張に対し,他人の登録商標であると認識して商標を使用することをもって足りると説示し,商標が登録されたものであることの認識が認められることを根拠に商標権侵害の故意を認めている。しかし,本件のような登録
商標の付された真正品を改変して譲渡等する場合における商標権侵害の事実の認識として,真正品の本質的部分に改変が加えられていることの認識が必要であることは当然であるから,これを認定することなく故意を認めた原判断は,誤った法令解釈の下,必要な事実の認定を欠く誤りを犯しており,所論が指摘する事実誤認及び法令適用の誤りがあるといわざるを得ない
。」(10頁)

と、原判決の“明確な誤り”を糺したところに、高裁判決の良識を見ることができる、ともいえるわけで・・・。

いずれにせよ、議論の素材としては興味深い事例だけに、今回の高裁判決が、地裁判決と合わせて、早期に判例雑誌等に掲載されることを待ち望むことにしたい*10

*1:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120726818352.pdf参照。

*2:刑事第2部・柴田秀樹裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130213115447.pdf

*3:ネット上の質問コーナーで、「法的責任」の有無について論じられたものも散見されたが、これまたありがちな抽象的な議論に終始しているものが多かったように思う。

*4:なお、本件控訴審判決に名前が挙がっている主任弁護人は、大学院の電気工学系、ITプロフェッショナルコースを修了した新進気鋭の弁護士(新62期)のようであり、本件を扱うにふさわしい方だったのではないかと思う。

*5:もっとも、本件の行為が行われた時点では、まだ不正競争防止法改正はなされておらず、従前の要件に該当する、と考えるのは難しかったのかもしれないが。

*6:ちなみに同種の民事事件として、ファミコン本体及びコントローラーの不正改造に対し、改造者(被告)の商標権侵害が認められた東京地判平成4年5月27日(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/D63DB439D250667E49256A7600272B1F.pdf)という古い裁判例があり、その中では、「原告商品の内部構造に改造を加えた上で被告商品を販売しているのであるから、改造後の原告商品である被告商品に原告の本件登録商標が付されていると、改造後の商品が原告により販売されたとの誤認を生ずるおそれがあり、これによって、原告の本件登録商標の持つ出所表示機能が害されるおそれがあると認められる。さらに、改造後の商品については、原告がその品質につき責任を負うことができないところ、それにもかかわらずこれに原告の本件登録商標が付されていると、当該商標の持つ品質表示機能が害されるおそれがあるとも認められる。したがって、被告が、原告商品を改造した後も本件登録商標を付したままにして被告商品を販売する行為は、原告の本件商標権を侵害するものというべきである。」と述べられていた。一見、今回の高裁判決と同じような規範に見えるが、ここでいう「品質表示機能」は改造後の品質を商標権者が「管理できない」点に着目したものであり(その意味では今の分類では「出所表示機能」に吸収されるものだと思われる)、品質の優劣を問題とする「品質保証機能」とは異なる、という点に留意する必要がある。

*7:代表的なものとして、田村善之『ライブ講義 知的財産法』126〜131頁(弘文堂、2012年)。また、本判決を契機に、商標機能論について詳細に論じた、立花市子「FRED PERRY最高裁判決にみる商標機能論」知的財産法政策学研究9号71頁以下(2005年)(http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/43460/1/9_71-95.pdf)においても、保護法益をめぐる議論の動向とその当てはめの帰結等について紹介されている(80〜82頁)。

*8:「品質保証」という話をしだすと、「改造品の品質が真正性よりも優れているかどうか」というあまり本質的ではない議論を惹起することにもなりかねないような気がする。弁護人側にとっては争うポイントが増える分、やりやすくなる、という見方もできるのかもしれないが・・・。

*9:「インターネット上の質問サイトにおいても出品は適法であるとの回答が寄せられていた」といった弁護人の主張に対し「適法性について権威ある機関の見解に従ったなど、適法性についての誤信がやむを得なかったと認めるに足りる事情は、何ら含まれておらず・・・失当」(11頁)と判示されているくだりなどは、ついつい安易に質問サイトの“もっともらしい回答”に飛びつきがちなネット住民にとって、教訓的なものだともいえる。

*10:刑事事件の判決(特に高裁以降で上訴が棄却された判決は、地裁段階の判決文からちゃんと読んでいかないと、なかなか全体像が見えないので・・・。

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