制度改革20年の到達点。

昨年の合格発表後に書いた↓のエントリーが届いた、というわけでは決してないのだろうが、今年の司法試験に関し、ここ数年のトレンドが大きく変わった、ということが報じられている。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

法務省は8日、2023年司法試験に1781人が合格したと発表した。8年ぶりに前年を上回り、政府目標1500人も4年ぶりに達成した。今回から受験が認められた法科大学院在学中の合格者が637人となり、全体を押し上げた。数字上は「法曹離れ」に歯止めがかかった形だが、司法制度改革が目指した多様な人材輩出につながるか未知数との指摘も根強い。」(日本経済新聞2023年11月9日付朝刊・第43面、強調筆者、以下同じ)

元々自分が受けていた試験ではない上に、最近では試験制度に関する議論等にかかわる機会もほとんどないので、この世界に関してはすっかり疎くなってしまっていたのであるが、記事を見て、「そういえば、そんな話もあったな」ということを思い出すと同時に、昔、自分が修習に入っていた時の実感も踏まえて書いたエントリー*1で呟いた世界(法科大学院生が在学中にブランクなく試験を受けて次の進路を考えることができる世界)がようやく実現した、ということにちょっとだけ安堵したところはある。

法務省のサイト*2を見ると、昨年との比較で、

受験者数 3,082人→3,928人
合格者数 1,403人→1,781人

ということになっているのだが、受験者数の方は「前年よりは増えた」といっても、ピーク時、2011年の8,765人には程遠いのはもちろん、実質的な「第1回」だった2007年の4,607人にも遠く及ばない。

これに対し、合格者数の方は、2015年(1,850人)以来の水準に戻り、先ほど比較対象とした2007年(1,851人)とも大差はない。

そのため、合格率は45.3%、と前年からは僅かに下がったものの引き続き高い水準をキープしているし、「1回目合格者数」に至っては昨年の1,046名から1,584名へと大幅にアップしている*3

合格者の平均年齢が28.3歳→26.6歳、と大幅に低下したことと合わせて考えると、司法試験、という存在が、「学部から進学した法科大学院生が在学中にスマートに合格できる試験」に近づいたことは間違いないわけで、(それをどう受け止めるかどうかは人それぞれだとしても)客観的に見れば旧司法試験制度の頃から法務省最高裁が目指してきた「改革」がここにきてようやく完遂された、と言っても大げさではない結果となっている。

合格者数が来年以降も今年と同レベルで推移するかどうかは分からないが、今年の結果を見た来年以降の受験生が、人生にブランクを作ってまで2回目、3回目に挑む可能性はこれまで以上に低くなると思われるし、そうなると受験者数も予備試験組を含めて、今年の1回目受験者数(2,710名)+500~600名くらいの水準で落ち着くのではないかな、という気がする。そして、そんな中で、合格者数の数字も1,500~1,700名くらいで推移するなら、合格率はほぼ50%くらい、という、まぁ順当な試験として世に定着していくことになる・・・。


在学中合格者(既修者法学部卒)を含め、予備試験組を除く今年の合格者の9割以上が「法学部卒」である、という事実は「多様な人材輩出」という観点からすれば、決して歓迎される方向とは言えないのかもしれない。

ただ、こと司法試験の世界に関して言えば、「多様性の確保」という観点から行われてきたこれまでの種々の取り組みは、決して本質的に物事を良くする方には働いていなかったように思うし*4、仮にこれまでやろうとしてきたことに何らかの意義があったのだとしても、既に20年近く行ってきて結果が出なかったものにこれ以上固執する、ということが合理的だとも到底思えない。

そして何よりも、今は、「法曹になるまでのバックグラウンド」ではなく、「法曹になってからのそれぞれの生き様」によって「法曹としての多様性」が培われていく時代である。

そう考えると、入り口のところであれこれ制度をいじるよりは、シンプルに、正しい努力をした者が短期間でスマートに合格できる制度にした上で、その後の各人の選択肢を増やす方がよほど世のため人のため・・・

ということで、15年経って、カレンダーが何となく昔を彷彿させるものに戻ったんだなぁ、ということに、あまり意味のない感慨を抱きつつ、これからの前向きな変化に思いを馳せているところである。

*1:k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

*2:https://www.moj.go.jp/content/001405789.pdf

*3:逆に受験回数2回目以上の合格者の数はこぞって低下している。

*4:そもそも受験資格を法科大学院に一本化する、という試み自体が「多様性」の観点からすれば、真逆の取り組みだった、ということはこれまで散々指摘してきたとおりである。

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