7年後の五輪開催決定に浮かれるのも良いが、目の前に来年のソチ五輪が迫ってきている・・・ということで、カーリングの五輪代表決定戦を見ながら、いち早く冬季五輪モードに入ってしまった。
特に熱戦になっているのが、女子の代表決定戦である。
前回五輪以降、国内では盤石の地位を固めた、と思われていた中部電力チームが予選リーグからまさかの大苦戦。
かつてチーム青森で五輪を経験した小笠原歩、船山弓枝の両選手*1が現役復帰して引っ張る北海道銀行フォルティウスが堂々の予選1位通過を果たし、トリノ、バンクーバーと長らく日本女子カーリングの看板だった本橋麻里選手をスキップに擁し、地元・(旧)常呂町を拠点に戦うロコ・ソラーレが、最後のプレーオフまで中部電力を苦しめる・・・*2。
中電が日本チャンピオンの意地を見せ、何とかプレーオフを突破して始まった決勝の4番勝負(予選リーグでの1勝1敗の戦績はそのまま持越し)でも、15日の第1戦で道銀が先勝した後に、16日の第一試合で再び中部電力が取り返す、という全く互角の展開となり、2勝2敗となったところで見たのが、今日のBSの中継であった。
元々クレバーな印象のあった金村(旧姓・目黒)萌絵さんが、淡々と、だが要を押さえた解説をしている、ということもあって、久しぶりのテレビ観戦でも面白さは十分に伝わってくる。
そして、20代前半の勢いのある選手たちで構成されている中部電力と、「シムソンズ」出身の小笠原、船山、そして、チーム岩手出身のリード苫米地、と経験豊富な選手たちが先発メンバーに名を連ねる道銀フォルティウス、というあまりに好対照なチームの対戦となったことが、この日の試合の面白さをさらに増していたような気がする。
勝てば代表決定に王手がかかる、という極めて重要な試合で、解説者の指摘通りに、次々と定石に沿ったショットを決めてくる道銀のベテラン選手たちの落ち着きはさすが、の一言に尽きた。
特に先制した直後の第2エンドで、絶好のポジションにピタリと決めて、中部電力スキップのミスショットを誘発した小笠原選手の最終投(結果、道銀が1点追加)は、明らかに出だしの中電のリズムを崩したし、同点に追いつかれた直後の第4エンドで、相手のガードストーンの裏にピタリと止めた船山選手の2投目は、このエンド、3点の大量点をチームにもたらした。
さらに圧巻だったのは、第5エンド、中電側が、この日の道銀のメンバー唯一の若手、セカンド・小野寺佳歩選手のランプ付け忘れ(?)のミスを指摘し、一投無効という有利なジャッジを引き出したにもかかわらず、一片の精神的な動揺を感じさせることなく、船山、小笠原の両選手が自分の仕事に徹して、見事に2点スチール。この時点でこの試合の勝負は決した、といっても過言ではなかっただろう。
元々有利なホームリンクでの試合で、しかも若さを露呈して微妙なミスを繰り返す相手チームの不調に助けられている面もあるとはいえ、この試合のような戦いぶりをコンスタントに見せてくれるのであれば、フォルティウスが「日本代表」を名乗ったとしても、誰も文句を言う者はいないはずだ*3。
今から2年前、まだ震災から間もない頃に見かけたNumber誌の記事がある。
http://number.bunshun.jp/articles/-/120962
チームワークが何よりも重要、とされるカーリングにおいて、あくまで「長期的な展望」の下に結成された「フォルティウス」というチームは、この時点では、「簡単にオリンピックとは口にしたくありません」と小笠原選手が語るレベルの立ち位置にいたに過ぎないはずだった。
だが、経験豊富なベテラン(いや、まだまだ皆若いけど、子どもの頃からカーリングに親しんでいる人たちだけに、経験年数はスゴイ・・・)と若手が融合したチームは急成長を遂げ、あと1つで「日本代表」の座に名乗りを上げようとしている。
そもそも、いったん結婚、出産を経て、五輪に復帰する、ということ自体、まだまだハードルが高い今の日本スポーツ界において*4、かつて“カーリング娘”と呼ばれた選手たちが、一時、第一線を離れた時の誓いそのままに*5、トリノから8年越しで五輪に再び足跡を刻むことができるなら、これを快挙と言わずして何と言おう。
今回は“ヒール”に回ってしまいそうな中部電力チームにしても、スキップの藤澤五月選手は常呂町出身だし、他のメンバーは、もう一つのカーリングのメッカ、軽井沢町の出身*6。
おそらく、今回五輪の切符をつかもうが掴むまいが、北海道の地でまだまだ地道に活動を続けていくことになるであろうフォルティウスとは異なり、母体の経営環境がチーム発足時とはだいぶ変わってしまったがゆえに、これで五輪切符を逃すようなことになれば、チーム自体が・・・という思いが頭をよぎらないでもない。
それゆえ、どっちを応援するかが悩ましい、というところではあるのだけれど、ひとつだけ言えることは、この勝負を今見ないでいつ見るのか、ということ*7。
観戦者にこれだけの知的刺激を与え、競技者の心理にも迫りながら観戦できる(しかも攻撃と防御がエンドごとに、そして一投ごとに入れ替わる、というわかりやすさと“間”も、観戦向き)、極上の競技を、オリンピックの時だけの鑑賞物にしてしまうのは、正直もったいない・・・
そんな気持ちで、明日在宅で時間に余裕のある皆様は、是非NHKのBSで、彼女たちの戦いを最後まで見守っていただければ・・・と思う。
*1:結婚を経て苗字は変わったが、言わずと知れたトリノのヒロイン、小野寺&林のコンビである。
*2:個人的には、いったん青森に出て五輪代表の栄光も、プレッシャーの下での苦悩も味わった本橋選手が、敢えて地元に戻ってチーム結成に加わった、というところに、「あまちゃん」に通じるドラマ性を感じるだけに、もう一つ勝たせてあげたかったなぁ・・・という思いが残ったのだけど。
*3:そもそも、中部電力チームは、日本代表として戦ってきたこの2シーズン、決して満足できる戦績を残せなかった、という現実もある。
*4:最近ではあの女子バレーですら大友愛選手のような例があるから、だいぶ事情は変わってきた、と言えるのかもしれないが、それでもレアであることに変わりはない。
*5:Numberのhttp://number.bunshun.jp/articles/-/56130の記事も参照のこと。
*6:男子の方は、軽井沢クラブが圧倒的な力を見せて日本代表に名乗りを上げた。
*7:残念ながら、自分は仕事なので、明日は録画するしかないけど。