ここから始まるミラクルストーリー。

いつもなら、同じネタで2日連続引っ張る、というようなことは、あまりしないのだが、やはり、このネタに関しては書かずにはいられない。

カーリングのソチ冬季五輪世界最終予選(12月・ドイツ)代表決定戦最終日は17日、札幌市のどうぎんカーリングスタジアムで女子決勝(4戦先勝方式)第4戦を行い、北海道銀行中部電力に8-5で勝ち、1次リーグ2試合の対戦成績を含めて4勝2敗とし、代表に決まった」(日本経済新聞2013年9月17日付け夕刊・第13面)

何とか結果を見ずに我慢して家まで帰り、真夜中にVTRで見た試合は、それなりにドラマチックなものだった。

前日の2戦目でほとんどいいところなく敗れた中部電力だが、さすがに後がないこの日の試合では、各選手が序盤から力の入ったショットを連発。肝心のスキップ・藤澤選手が今一つ乗り切れない状況で、相手にリードこそ許したものの、対するフォルティウスのスキップ・小笠原選手にミスが目立ったこともあって、前半は互角かそれ以上の展開。

そして、第6エンドで藤澤選手のドローショットが決まり、同点に追いついた時は、いよいよ中部電力本領発揮か・・・と思えたものだった。

ところが、流れが傾きかけた第7エンドで、フォルティウスのサード・船山選手のドローショットが見事に2投連続で決まり、一方、長い作戦タイムをとって狙いにいった藤澤選手がミスショットを連発したことで、フォルティウスに大量3点。

さらに続く第8エンドでも、気が付けばサークル内に絶妙の配置でストーンを並べたフォルティウスの前に、後攻ながら、中部電力はなすすべなくさらに追加点を許す。これで事実上勝負は決し、残り2エンド、一人ひとりが着実に仕事をこなした道銀フォルティウスが、見事に世界最終予選代表の座を勝ち取った。


国内でここ数年、不動の地位を築きかけていた中部電力が、なぜ勝てなかったのか。
追われるものとしての精神的重圧に加え、氷との相性や、調子を上げてきた相手チームと相手のホームリンクで対決しなければならなかった、ということなど、素人が思いつくだけでも結構出てくるし、今後、様々な分析がなされることだろう。

バンクーバーでの日本女子代表不本意な成績を横目に見ながら、世界で勝てるチームを目指してここまでチーム作りを進め、少なくともアジアでは上位に食い込めるレベルに近づいてきた・・・という中電のチーム藤澤が、世界に挑む機会すら与えられないまま、ここで散ってしまったことを惜しむ関係者も多いだろうと思われる。

だが、試合を積み重ねるたびに進化した、と言われる道銀フォルティウスの安定感や、相手のもろさを利用した戦術の巧みさは、少なくともプレーオフの最後の数試合を見る限りでは、間違いなく世界に通用するレベルだったはず。

そして、トリノで、マイナー競技だったカーリングを一躍“主役”に押し上げ、今回もまた、五輪予選の代表決定戦、という大事な場面で、一世一代のジャイアントキリングをやってのけた小笠原、船山という選手たちは、間違いなく何かを“持っている”。

勝てば初めての五輪チャレンジになるはずだった中電チームよりも、世界を知るベテラン選手がけん引する道銀フォルティウスの方が世界に近い、という見方もできるだけに、この先の楽しみはむしろ広がったのではなかろうか。

おそらく、今後の報道は、トリノ以降の小笠原、船山両選手の結婚、出産、復帰というサイドストーリーにばかりスポットが当たる展開になってしまうことが大いに予想されるところだが、ここから始まる五輪に向けての快進撃の中で、脇道の話題がいつの間にか忘れられてしまう・・・そんな展開を個人的には期待している。

それから、もう一つ。


この日敗れたことで、中部電力チームの五輪への挑戦は一頓挫することになってしまったのだけれど、この敗北によって得られる何か、も、きっとあるはずで、軽井沢のリンクで臥薪嘗胆を誓い一回り成長した彼女たちが、4年後、あるいは8年後、もう一度世界への切符をつかむことができたならば、それももう一つのミラクルストーリー、と言えるはず。

そして、今回、代表決定戦で敗れた他のチームともども、毎年、宿命のライバル対決に一喜一憂できるような充実した年が続くならば、4年に一度しか盛り上がらない典型的な競技、と言われるカーリングの地位もずいぶんと変わってくることだろう。

この熱すぎたプレーオフの4試合が、この国におけるこの競技の位置づけを180度変えるきっかけになった・・・

テレビの向こう側でほんの少しだけ、ドラマチックな瞬間を味わった者としては、そういわれる日が来ることを、心から願う次第である。

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