“歴史的瞬間”の陰に隠れてしまったもの。

台風が直撃した日本列島、試合前から中止になるんじゃないか・・・という観測も強かった神宮球場阪神vsヤクルト戦で、とうとうバレンティン選手が日本のプロ野球史に残る56号本塁打、そして、“アジア新”*1の57号本塁打を放った。

これまで名立たるホームランバッターが挑みながらも、ずっと塗り替えられずに残っていた「55」という忌まわしい数字が、ここで塗り替えられたことは、素直に喜ぶべきことだろうと思う。

チーム自体が低迷する中で、数少ない希望、となっていたであろう自チームの主砲が歴史に名を刻む瞬間を、ホームスタジアムで目撃することができたスワローズのファンにも、心からおめでとう、と言いたい*2(かつて縦縞虎軍団の暗黒時代を長らくファンとして味わった者としては、早々とペナント争いから脱落したチームのファンにとって、何が心の支えになっているか・・・ということが、痛いほど理解できるので)。

ただ、ここ何試合か続いた「56号」を待望する狂騒的な報道の中で、セ・リーグの優勝争いへの関心がどこかに吹き飛んでしまったこと、そして、ゲーム差の開きが大きいとはいえ、まがりなりにもまだ“優勝”の可能性が残っているタイガース(と神宮に足を運んでいたファン)までが、「日本新記録」のお祭り騒ぎに巻き込まれてしまったように見えてしまったことは、すごく残念だった。

今から11年前、暗黒時代からあと少しで抜け出せそうだったときの、神宮球場ですら黄色一色に塗りつぶしてしまう勢いを持ったチーム&虎ファンだったら、敵方の主砲が撃ち込んだホームランボールなど、有無を言わせずにグラウンドに投げ返していただろう・・・。

潤沢な資金力を背景に、充実した戦力を揃え、毎年のように上位争いに加わってくる。
そして、リーグ構成チームの半分は出場できるクライマックス・シリーズのおかげで、どんなグダグダのシーズンでも、最後にはもう一度見せ場を作ることができる。

甲子園はともかく、それ以外の球場では、“それゆえ”の、弛緩した空気が流れてはいないか・・・

昼間ジャイアンツが敗れ、僅かにでもゲーム差を縮められるチャンスだった試合で、0-9という一方的な大敗を喫してしまった事実、そして、そこで敗れたチームが、まだ“優勝争い”を一応しているチームだった、ということを、ほとんどのメディアがスルーしたまま、「新記録」の慶祝ムードの報道だけが盛り上がっていることに、自分は違和感を抱かざるをえなかった、ということを、ここに書き残しておきたい。

*1:ここは、(笑)を付けるべきかどうか迷ったところではあったのだが、隣国の英雄に敬意を表して、一応淡々と書いておくことにする。

*2:ルーキーのライアン小川投手があれだけの勝ち星を挙げ、バレンティン選手が三冠王を取る勢いで打ち続けているのに、なぜこんな順位なのだ・・・という素朴な疑問はあるのだけれど。

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