日本企業の「社外取締役」に対する受け止め方を象徴するようなコメント。

日経紙の月曜法務面に、「社外取締役『質』の時代」というタイトルで、企業統治のあり方をめぐる記事が掲載されている*1

これまでの日経の記事に比べると、「社外取締役を生かせない会社」の事例等も取り上げられている、という点で、若干冷静な視点に近づいているようにも見えるが、それでも記事の多くを占めているのは「ガバナンス改革が復活に寄与した」とされる日立製作所の事例であり、「社外取締役導入礼賛」という基本的なスタンスに、何ら変わりはない。

そんな中、とっても面白かったのは、「キヤノンも導入」という見出しとともに掲載された、キヤノン御手洗冨士夫会長兼社長のインタビュー記事であった。

「お飾りの社外取締役など無用」

と主張し続けてきた御手洗氏に、「なぜ社外取締役の選任を決断したのか」という問いを投げるところからこの記事は始まっている。

御手洗氏は、

「体裁を整えるために社外取締役を導入しても仕方がない。この点で私の信念は全く変わっていない。」

と従来どおりの主張を繰り返したうえで、「2人の方にお願いするのは具体的な必要性が生じたからだ」として、一人ずつ理由を挙げていくのだが、それが何ともぶっ飛んでいる。

「1つはM&A(合併・買収)への法的対応の強化。これまでの主な成約は国内外で6件だが、今後増えてくる。そこで法務部門の指導や人材育成を、弁護士で元大阪高検検事長の斉田国太郎氏にお願いした。」
「もう一つは移転価格税制への対応。(略)国際税務部門の人材を育て、外国政府との交渉力を高めるために元国税庁長官の加藤治彦・証券保険振替機構社長をお招きする。」

本当にこの目的でご両名を招請して、実際に業務執行部隊の「指導や人材育成」をやらせるのであれば、それはもはや一般的な意味での「社外取締役」ではなく、業務執行取締役に限りなく近い存在、ということになるだろう。そして、この記事を読んで肝を冷やしたキヤノンの担当者も決して少なくないものと推察される(笑)。

これが御手洗氏ご自身のオリジナルの発想なのか、それとも、昨今の会社法改正の動きや、「社外取締役導入」に向けた有形無力の圧力を察して、社外取締役を選任するという判断をした事務方が、“抵抗勢力”を説得するために編み出した理屈なのか、本当のところは中の人に聞いて見ないとわからないのだけれど、いずれにしても、多くの識者が社外取締役に期待している「経営のモニタリング」という役割を、現在の企業経営者があまり深く認識していないことを象徴するようなインタビューだと言える。

この後に続く、「社外取締役の有無という形式だけで(ガバナンスの是非を)判定されるのは納得できない」という御手洗氏の一連のコメントには、自分も共感できるところが多いし、挙げられている例も含めて非常に説得力のある議論になっていると思うだけに、前半のコメントをあえて入れたのは、“社外取締役導入促進に水を差すような議論に説得力を持たせたくない”という悪意もあってのことなのかな・・・などと、変な勘繰りをしてみたくもなるところではあるのだけれど(苦笑)、まずは、今回この会社で選任された社外取締役の方々が、どの程度の間、任期を務められるのか、というところにまず注目してみることにしたい。

*1:日本経済新聞2014年3月10日付朝刊・第16面。

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