知財分野における制度間競争の行方

ついこの前、ジュリストで知財特集が組まれた、と思っていたら、今度はNBLに場を移して、またしても「新たなデザイン保護体系を目指して」というタイトルの知財関係の特集が掲載されている。

知財法体系における「デザイン保護」といえば、ここ最近ホットに盛り上がっていた「画像デザインの保護拡充」という論点もあり*1、その議論の過程では、「意匠権により保護する」ことに対して、激しい批判の声も上がっていただけに、冒頭に掲載された中山信弘名誉教授の論稿で、

「本特集においては、主として法制上の問題点、なかんづく他の法制度(著作権法、商標法、不正競争防止法)との関わりを中心に、意匠制度の問題点を探ることとした」(中山信弘「特集に当たって」NBL1020号14頁)

と書かれていたこともあって、個人的には期待するところが多かった。

実際、読み進めてみると、「画像デザイン」だけにとどまらず、「デザイン」全般について、著作権法(市村直也弁護士)、商標法(金子敏哉専任講師)、不正競争防止法青木大也准教授)それぞれの視点からこれまでの議論状況がかなり詳細にまとめられており、資料的価値も高いものとなっている。

当然ながら、紙幅の制限もあるし、研究自体がまだまだ緒に付いたばかり、ということもあってか、これまでの議論を踏まえた掘り下げや横断的分析については、まだまだこれから、という感が強い状況になってはいるものの、冒頭で中山名誉教授が投げかけられた問題意識に添って検討が進められていくのであれば、非常に価値のある研究になるだろう、と個人的には思うところである。

そんな中、今回の特集に掲載された論稿の中で、異彩を放っていたのが、杉光一成教授による「「規制立法」としての知的財産法‐デザイン保護における意匠法の役割に関する試論」(NBL1020号37頁)という論文だった。

元々、「規制立法」と呼ぶことがためらわれる知財諸法について、あえてこのタイトルを用いる大胆さも凄いと思うし、知財法=規制立法という前提に立って、

「知的財産のような無形の情報を対象として人の行動を制約する人工的な特権は、いわばその規制を許容または正当化する要件として本来的かつ可及的に権利の存否を外形的に明らかにして認識可能ならしめることが要求されている」

と、「可及的公示の原理」なる仮説を立てたり、それを元に制度設計の検討にまで分析を進めたりしているところにも、他に類を見ない面白さがある。

この論文では、私人の予測可能性を担保する、という見地から権利調査が可能な「TYPE1」(審査して登録する制度)を原則とすべき、とし、無審査登録制度の「TYPE2」や、無審査で登録しない「TYPE3」の制度はあくまで例外としてのみ許容し得る規制態様、と位置付けた上で、

・「TYPE1」の制度である意匠法は、「デザイン」をなるべく保護対象として広く取り込むべき。
・しかし、現行法においては、「TYPE3」の制度である不正競争防止法著作権法の方に一種の「強み」があり、「TYPE1」の補完という位置づけを超えた「逆転」現象が起きてしまう可能性もある。

と「意匠法の危機」に警鐘を鳴らしており、意匠権の出願件数低迷に苦しむ特許庁にとっては、まさに“救世主”的な論文が現れた、と言えるだろう。

個人的には、「知財権」=「規制」=「明確性が必要」=「審査登録制を原則とするのが望ましい」という流れには、やや論旨に強引さがみられるのではないか、と考えているし、そもそも「登録審査制」だからといって「予測可能性」が常に立つとは言えないのではないか、とも考えている。

著作権法のような「依拠」要件がなく、登録された権利の内容に抵触すれば知・不知に関わらず常に違法となりうる産業財産権による保護は、事業者側の萎縮効果を招く可能性が極めて高いことも既にあちこちで指摘されているところだけに、この結論をそのまま丸のみするわけにはいかないだろう。

ただ、今後も、保護領域が交錯する分野において、それぞれの立場からの制度選択をめぐる主張や解釈論、立法論が飛び出してきそうな気配があるだけに、議論を行うための一つの視座として、今回のような分析は活用できるように思われる。
将来的に、それぞれの制度が仲良く共存し続けるのか、それとも、権利公示型/非公示型のいずれかが積極的に選択される方向に舵を切っていくのか。今がその分かれ目ではないか・・・という気もしているだけに、こういったアプローチからの今後の展開も期待したいところである。

*1:直近の記事としては、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20140106/1389025087参照。

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