いつしか時は流れ、2011年3月11日の、あの瞬間から3年が経った。
この前の週末のテレビなどは、震災からしばらくは封印されていた感もあった“検証番組”がこれまで以上に目立ち、その中には、当時、生きるか死ぬかの瀬戸際で運命の悪戯に翻弄されていた人々の肉声で、そこに込められた複雑な感情が、生々しく、だが、どこかで一つの整理が付いているかのように淡々と語られていたものが多かった。
また、今年の震災特集の中で印象に残ったのは、津波被災地等で復興に向けて動き出している自治体でも、避難した当時の住民の人々が必ずしも“戻る”ことだけを念頭に今生活しているわけではない、という事実が多く取り上げられていたことである。
経済的事情で家を建て直すことができないというやむに已まれぬ事情の方もいる一方で、かつてと全く同じ生活環境を取り戻すことはできないから、あるいは、新しい土地での生活に家族が馴染んでいるから、ということで、土地ごと手放した被災世帯も少なくない・・・という話を聞いて、時の流れの重さを、改めて感じさせられることになった人も多かったのではなかろうか。
一般的には、「3年」というのは、様々な出来事の記憶に一つの区切りを付けるのに、ちょうど良い期間だと言えるのかもしれないし、そういうものだ、という感覚が古から存在した、ということは、不法行為の消滅時効が「知った時から3年」に設定されていることからも、何となく察しが付くところではある*1。
震災直後から、「被災地を支援しよう」「復興に向けて頑張ろう」一辺倒の話題が繰り返され、津波被害、原発事故被害に遭った全ての人々が「被災者」と括られることが常だったことを考えると、
「同じような巨大災害に直面しても、その受け止め方、そして、その後の歩き方は、皆一人ひとり違う」
という当たり前のことがようやく報じられるようになった、ということには大きな意味があると思うし、実際にこれまで現地に足しげく通って見てきたものと、東京で紋切り的に繰り返される“同情の声”とのギャップに、もやもやした思いを抱え続けていた自分としても、これでもう少し地に足が付いた議論がしやすくなるのかな・・・という微かな期待を持ちたくもなる。
もちろん、3年前に起きた出来事があまりに大きすぎたゆえに、このタイミングまでに穏やかな形では整理が付けられなかった感情もこの世には多々あふれているわけで、11日付の新聞には、以下のような記事があちこちに登場していた。
「東日本大震災の津波で犠牲になった宮城県石巻市立大川小の児童23人の遺族が10日、宮城県と石巻市を相手取り、計23億円の損害賠償を求めて仙台地裁に提訴した。」(日本経済新聞2014年3月11日付朝刊・第47面)
「東京電力福島第1原発事故で、各地で暮らす福島県からの避難者らが10日、国や東電に損害賠償を求め、東京や山形など8地裁に9件の集団訴訟を起こした。追加提訴は5件、新規は4件。」(日本経済新聞2014年3月11日付朝刊・第46面)*2
「茨城県東海村の東京電力那珂火力発電所で作業中に東日本大震災が発生し、落下事故で死亡したのは安全対策が不十分だったためとして、亡くなった広島県内の作業員3人の遺族が11日までに、東電と三菱重工鉄構エンジニアリング(広島市)に計約3億4千万円の損害賠償を求める訴訟を広島地裁に起こした。提訴は10日付。」(日本経済新聞2014年3月11日付夕刊・第15面)
原告側が積極的に提訴を明らかにして、全国紙で報じられたものだけでもこれだけあるのだから、それ以外に、表に出ていないところで、時効寸前での提訴を余儀なくされた案件も、当然存在することだろう。
そして、既に裁判の場で争われている案件と合わせて、この先、裁判所の判断が報じられるたびに、まだ、この国の震災の傷跡が完全に癒えたわけではないのだ、ということを、多くの人々に知らしめることになるのだろう、と思う。
だが、そういった動きの一方で、3年を待たずに、人生における大きな「選択」をした方々もまた大勢いる、ということ。
そして、終わらないストーリーを抱えて戦っている方々に対して、それにふさわしいケアとサポートがなされるべきなのはもちろんだが、一区切りつけて(あるいはつけようとして)新しいストーリーを紡ぎ始めている方々に対しても、それを支えるための理解とサポートが必要だ、ということ・・・。
そういった意識が、(相対的に)「安全な場所」にいた我々の中に浸透して初めて、真の“復興”への道が開けるように思えてならない。
*1:目下行われている債権法改正で、この期間が変わる可能性も高いので、ここで喩えに出すのは適切ではないのかもしれないが・・・。
*2:原発事故に係る損害賠償については、昨年12月11日に施行された「東日本大震災における原子力発電所の事故により生じた原子力損害に係る早期かつ確実な賠償を実現するための措置及び当該原子力損害に係る賠償請求権の消滅時効等の特例に関する法律」によって消滅時効期間が大幅に延長されているが(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20131227/1388593404参照)、今回集団で提訴した方々は、「田村市内で旧緊急避難準備区域に指定されなかった地区の住民」の方々など、いわゆる原賠審の指針で原発事故と損害との相当因果関係が明示されなかった(=したがって、「原賠法上の損害」が認められない可能性がある)方々だけに、一般不法行為の消滅時効を意識した提訴に踏み切らざるを得なかったのだと思われる。