景表法改正案の行方〜高まる懸念に打つ手はあるか?

以前、消費者委員会傘下の専門委員会が答申を出した際に、「新時代への突入」というフレーズとともに、このブログで取り上げたのが、景品表示法改正の動きだったのだが*1、日経紙の法務面に、現在の関係者の戸惑いぶりを上手にまとめた署名記事(渋谷高弘記者ご担当)が掲載されているので、ご紹介しておくことにしたい。

「うっかり表示ミスでも課徴金?/景表法改正論 企業が懸念」という見出しで掲載されたこの記事*2

その中では、以下のような企業側の声が紹介されている。

「信頼する業者から新潟県魚沼産コシヒカリと聞いて仕入れ、広告したコメが実は他県産だったとする。こんな過失も含めて、すべての事業者を対象にするのはやり過ぎ」
「故意や重い過失があったと消費者庁が判断した業者だけを対象にしてほしい」
経団連・阿部泰久常務理事)

「どんな表示が行き過ぎなのかという判断は行政側の感覚に委ねられている」
「一般的な指針を作るのも難しい。企業側の表示・広告を必要以上に委縮させる」
新経済連盟・関聡司事務局長)

経団連の声として上がっているコメントは、先述した先月のブログ記事の中で自分も指摘したところで、特に小売業界の関係者としては、気が気でないところだろう。

もちろん、「虚偽表示を見抜くところまでが、小売業者の(仕入担当者の)責任」と言ってしまえば一言で片づけられてしまう話ではあるのだが、元々利幅が極めて薄い業界で、大して人手もかけられずに多種多量の品を捌いている状況の元では、ある程度は取引先を信頼して取引をしないと、なかなか店頭に品物を供給することもできない、というのが現実なわけで、措置命令だけならともかく、「課徴金」というダメージまで小売レベルに押し付けられるとなれば、正直言って苦しい、という事業者もたくさん出てくるに違いない。

一方、新経連の方のコメントは、今回の「課徴金制度導入」の話とは直接関係しない、景表法のエンフォースメントそのものに対する批判であるようにも見える。
そして、それだけ読むと、今さらそんなことを言っても仕方ない・・・という印象を抱いてしまうのだが、一方で、「そんな曖昧な法律に、「課徴金」という現実的、金銭的な制裁を課すのはおかしいのでは」という切り口からの批判だと解釈するならば、それはそれで筋は通っているように思う。

意図してのことか否かにかかわらず、結果的に“スレスレ”な広告や表示が世に多く出てしまっている現実がある中で、景表法というのは極めてアバウトに、だが、時流に合わせてキャッチーに、「けしからん表示」を排除命令、措置命令、といった武器を使って世間から排除してきた。

同業者のタレこみや、消費者の苦情、さらには、たまたま調査官が目にしただけ(?)、といった、様々なきっかけはともかくとして、いわば“一罰百戒”的にペナルティを課して、残りは“表示は慎重にね”という各事業者の啓発効果に委ねて来た、というのが、これまでの景表法のエンフォースメントの実態だった、ということは、誰もが完全に否定することはできないはず*3

だがそこに、「課徴金」という“現ナマペナルティ”がかかってくるとなると、そう簡単に「運が悪かった」ということでは済まされない*4

それゆえ、長澤哲也弁護士のコメントとして紹介されている、

「課徴金導入で、実は消費者庁側にも萎縮効果が生じる」

という分析には、非常に興味深いものがあった。

措置命令を出して「景表法上違法」という事実を認定した場合、改正後の景表法の元では、当然に「課徴金納付命令」というステップにも踏み込んでいくことになる。
そして、そこで、死にもの狂いで争ってくる事業者、というのは、必ず存在する。

だとすれば、「後々処分の適法性を争われて敗訴するリスクを負うくらいなら、最初から処分を差し控える」という発想に当局が流れていってしまっても、全く不思議ではないのである・・・


これから、改正法案の作成に向けて、今、あちこちで囁かれているような問題点が解消されるのかどうか、とても気になるところではあるのだが、ここはひとつ、中の人々のお手並み拝見、ということで、ことの推移を見守りたいと考えているところである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20140611/1403027301

*2:日本経済新聞2014年7月14日付朝刊・第15面。

*3:さらに言えば、「そういうものだから仕方ない」という共通理解があったからこそ、これまで、ほとんどの事例において、事業者側に本気で争われることなく、命令が確定してきた、という実態もある。

*4:なぜなら、この場合、会社の業績に直接影響を与えるリスクが生じるのはもちろんのこと、仮に業績に与える影響は軽微だったとしても、「課徴金」という会社にとってのダメージが明確なペナルティを受けることで、取締役の責任に直結する恐れもあるからである。

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