W杯の期間中は、大抵、暇さえあれば(&部屋にテレビがあれば(苦笑))テレビにかじりつく生活になる自分だが、決勝戦の試合との巡りあわせはなぜか悪く、リアルタイムで最初から最後まで見られた、ということは、実はほとんどない*1。
だから、8年前のジダンの頭突きも、痺れるような消耗戦の末、イニエスタが歓喜のゴールを決めた4年前のシーンも、結果を知った後に、ちょっとだけ醒めた気持ちで眺めていた。
そして今回も、リアルタイムで見られなかった、という点では、これまでと同じ。
だが、各局のスポーツニュースで、ドイツ代表が歓喜に湧き立つ映像を散々眺めた後に見た深夜の再放送には、これまでに感じなかったような凄味があった。
「ドイツ 1-0 アルゼンチン」というスコアと、断片的なダイジェストの映像だけでは分からない、アルゼンチンの圧倒的なゲーム支配力。
ドイツから来たサポーターはもちろん、長年この国をライバル視してやまない地元サポーター*2のブーイングまで浴びながらも、最初から最後まで、ドイツに自分たちのサッカーをほとんどさせなかったアルゼンチン代表の選手たちの姿は、ほとんど神がかって見えた。
ドイツにしてみれば、決勝トーナメントに入ってから調子を上げ、攻守の要として活躍していたケディラ選手を試合前の負傷で失った、というアクシデントの影響は決して小さくなかったのだろう*3。
だが、ブラジルから7点を奪って圧勝したチームが、ボールをどんなに上手につないでも、回しても、相手ゴール近くまで行くと絶妙のタイミングで寄せられ、コースもきっちりとカバーされ、ゴールを脅かすようなシュートを全く打たせてもらえないような状況に陥るとは、さすがに選手たち自身も予想していなかったのではないか、と思わずにはいられない。
それくらい、マスケラーノ選手を中心に、ガライ、ロホ、サバレタ、といった選手たちが食らいつく守備は素晴らしかった*4。
基本を忠実に実行したお手本のようなアルゼンチン守備陣を前に、どんなに攻めても攻めても、結果に結びつかない、という状況を繰り返していくうちに、準決勝までは確かな輝きを放っていたクロース選手やエジル選手のテクニックも、FWの得点王コンビ(ミュラー&クローゼ)の前線への飛び出しも、いつの間にか影を潜め、逆にフンメルス選手、ヘベテス選手の守備、というDF陣が抱えるの唯一の弱点の方が、顔を出すようになってきていた*5。
アルゼンチンが何度となく繰り出したカウンター攻撃の一つでも早い時間帯に得点に結びついていれば、ドイツが歓喜する瞬間は、決して訪れなかった試合だと思う。
オフサイドを取られてしまったイグアインの“幻のゴール”や、1対1になりかけた決定的シーンでのメッシ選手ほか、の微妙なミス、そして顔色一つ変えずに、難しいボールを淡々と捌いていたノイアー選手の超人的な力が、ドイツを辛うじて生き延びさせていた、と言っても過言ではない。
最後は、「プランA」が崩れても、めげずに次の手を打ち続ける名将レーヴ監督の冷静さと*6、「選手を何人交代させても、交代前の選手以上のクオリティを示せる」ドイツ代表の層の厚さが実を結び、交代出場したシュールレ選手の突破から、これまた交代出場のゲッツェ選手にボールがつながり、美しいトラップシュートで、この試合唯一の得点につなげた。
ドイツ代表にとっては、これが10本放ったシュートのうち、唯一、得点の香りを漂わせていたシュート。
それをきっちり決めるのだから、やはり世界一になるチームは何かが違っている、というほかないのだろう。
でも、この試合の真の勝者は、それまでの両チームの勝ち上がりプロセスからして、「痺れるような面白い試合」をほとんどあきらめていたリオの観衆とテレビの前の視聴者を、試合が終わるギリギリのところまで酔わせた、アルゼンチンの選手たちの魂だったように思うし、いろんなところからブーイングを浴びながらも、大会最優秀選手の座をメッシ選手が持ち帰ったのも、アルゼンチンというチームを選考者たちがリスペクトしたがゆえのことだ、と思いたい*7。
ラーム選手やシュバインシュタイガー選手は、さすがにベテランの域に差し掛かっているものの、ミュラー選手をはじめ、クロース選手やシュールレ選手はまだ20代前半*8、逸材と称されて久しいゲッツェ選手に至っては、まだ22歳、と、4年後も十分今のメンバーで上位進出を狙えるドイツ代表とは異なり、4年後を20代で迎えられる選手がほとんど残っていないアルゼンチン代表が、次に決勝までたどり着けるのがいつになるのか全く想像もつかないのだけれど、それだけに、勝ち進めば勝ち進むほど、“一戦必勝、一人一殺”というオーラが、選手たちからにじみ出ていたのが、何とも不思議で、素敵な光景だった。
この先、ドイツとアルゼンチンが、何度W杯の舞台で対戦しようと、今回ほどの熱を感じることはもうないのかもしれないけれど、とにかくよいものが見れた・・・そんな気持ちに今は浸っているところである。
*1:自分の記憶の限りでは、当然の如く日本人のゴールデンタイムに合わせて行われた、2002年のブラジル対ドイツ戦くらいである。
*2:かの開催国出身の方によると、その感覚は、日本人が隣の国に対して抱く複雑な感情すら超えており、むしろその北の国に対する感情に近い、ということである(もちろん、個人差はあるだろうが)。
*3:代わりに入ったクラマー選手も悪くなかったとはいえ、3位決定戦で代役出場して大活躍したデグズマン選手(スナイデル選手の代役だったが、“それ以上に”よかった、という評価が多い)ほどではなかったし、しかも前半、アルゼンチン選手との交錯で脳震盪を起こし、早々と交代を余儀なくされてしまった。
*4:以前にも書いた通り、クラブチームで控えのGKにとどまっているGKロメロ選手の守備は、お世辞にもうまいとは言えない。それだけに、DF陣がギリギリまで体を張って、シュートらしいシュートを打たせる暇を与えなかったことには、大きな価値があった。
*5:シュバインシュタイガー選手なども、闘志を前面に出して食らいついていたが、試合の終盤になればなるほど、それまでの試合でも露呈していたフィジカルコンディションの悪さを隠せなくなっていた。
*6:クラマー選手が脳震盪でまさかの交替を余儀なくされた時に、安易に守備的ポジションの選手交代をするのではなく、思い切って今大会絶好調のシュールレ選手を投入して攻撃的スタンスを崩さなかったのが、最後に生きた。
*7:個人的には、今大会のMVPは、ノイアー選手をおいてほかになく、あえてフィールドプレーヤーの中から選ぶのであれば、マスケラーノ選手かロッベン選手だろう、と思う。少なくとも「メッシ」はない。ありえない(苦笑)。