「裁量型課徴金制度導入」のアドバルーンがもたらす影響

年末に、「独占禁止法審査手続に関する指針」を出して、揺るがないスタンスを改めて明らかにした*1公正取引委員会から、年明け早々、さらに新しいアドバルーンが打ち上げられた。

公正取引委員会独占禁止法に違反した企業への課徴金制度を見直す。カルテル(略)などの調査に協力すれば金額を減らす裁量型の仕組みにする。課徴金の減額は現在、公取委の調査開始前に企業が申し出た場合に原則限られる。企業の協力を促し、早期の事件解明につなげる。企業活動の国際化に対応し、欧米の制度に合わせる狙いもある。」(日本経済新聞2016年1月6日付・朝刊第1面)

公取委のHPを見ても、これに関連するリリースは掲載されていないので、一種の“観測気球”だろうとは思うのだが、わが国で「裁量型課徴金」を導入する、というのは、単に諸外国の制度に合わせる、ということ以上に、大きなインパクトをもたらす可能性がある施策である。

例えば、ちょうど1年前に出された「独占禁止法審査手続についての懇談会報告書」*2には、

「本懇談会においては、秘匿特権や供述聴取時の弁護士の立会いなどの防御権について、公正取引委員会の実態解明機能への影響が懸念されることを主な理由として、これらを認めるべきとの結論には至らなかった。しかしながら、裁量型課徴金制度等により、事業者が公正取引委員会の調査に協力するインセンティブや、非協力・妨害へのディスインセンティブを確保する仕組みが導入された場合には、事業者による協力が促進されることにより、現状の仕組みの下で懸念されるような実態解明機能が損なわれる事態は生じにくくなると考えられる。」
「このため、今後、本懇談会において現状の仕組みの下で実施すべきとしているもの以外の防御権の強化を検討するのであれば、このような仕組みの導入について併せて検討を進めていくことが適当であるとの結論に至った。」(39頁)

という整理が示されている。

この整理と同時に出された委員の個別意見*3には、「上限方式の裁量型課徴金制度の導入は喫緊の課題である」と主張し、

独占禁止法違反事件の行政調査については、裁量型課徴金制度および供述録取時の弁護士立会いを実現することによって、刑事捜査をまねた供述調書偏重の現行行政調査から、事業者に対する報告命令を中心とする大陸法系(欧州型)の行政調査に移行すべき」

とする村上政博委員の意見や、

「報告書では、裁量型課徴金制度等の導入について検討されているが、本来の懇談会が審議して検討するべき事件関係人の防御権の保護を図る制度の検討を先送りにして、その理由としてこれらの制度の導入と同時に検討しなければならないという点には反対である。」

と主張する矢吹公敏委員の意見などが掲載されているのだが、いずれにしても、「裁量型課徴金制度」が、「事業者による協力を促進する仕組み」として意識されていることは間違いない、といえるだろう。

昨年の「指針」公表時にも、産業界等の要望を退ける理由として、「事業者による調査協力のインセンティブ等を確保する仕組み」が現行制度に存在しない、ということを再三強調していた公取委が、“バーター”としての被疑事業者の防御権強化も含めた新しい制度に向けて足を踏み出していくことになるのか、それとも、あくまで「別の議論」として裁量型課徴金制度の導入を目指していくことになるのか。

前者であるとすれば、2〜3年前の議論が再び燃え上がることにもなりかねないが、一方で、「裁量型課徴金制度」だけが先行導入されるようなことになると、ますます被疑事業者側が争って白黒を付けられる余地が狭まるのではないか、という懸念もあるところで、今後の動向が気になるところである。

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