”お墨付き”の背景にあるもの。

所管官庁が消費者庁に変わって以降、事業者側には制度面でも運用面でも決して評判の良い法律ではなくなっているのが景表法(不当景品類及び不当表示防止法)である。

特に、不実証広告規制に関しては、課徴金制度が導入された2014年改正(2016年4月施行)に際しても、対象とするのが妥当かどうか、というのが一部で議論されていて、「だって合憲性に疑いがある規定なんだから・・・」という声を耳にしたのもその時のことだったような気がする*1

皮肉なことに、いわゆる不当表示と思しき広告表現は、古典的な新聞雑誌の誇張広告の世界からネットのアフィリエイト広告にまで依然としてはびこっているし、現に悪質な事業者が存在する以上、この制度自体が違憲だ、といったところでなかなか通るものではないだろう、と思っていたのだが、一事業者に対する措置命令をきっかけに、とうとう最高裁で判断が示される時が来てしまった。

結論は当然ながら裁判官全員一致で「合憲」とされており、ほらやっぱり・・・というのは簡単なのだが、現在でも”空間除菌”をはじめとして不実証広告規制による処分を発端とする紛争は起きているさなかだけに、今回の最高裁判決も少し丁寧に見ておくことにしたい。

最三小判令和4年3月8日(令和3年(行ツ)第33号)*2

上告審が判断を示したのは、消費者庁が株式会社だいにち堂に対して行った優良誤認該当を理由とする措置命令(後述)において適用した以下の景表法7条2項の合憲性について、であった。

第7条
2 内閣総理大臣は、前項の規定による命令に関し、事業者がした表示が第5条第1号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。(強調筆者)

判決は、以下のとおり実にあっさりとしている。

「法7条2項は,事業者がした自己の供給する商品等の品質等を示す表示について,当該表示のとおりの品質等が実際の商品等には備わっていないなどの優良誤認表示の要件を満たすことが明らかでないとしても,所定の場合に優良誤認表示とみなして直ちに措置命令をすることができるとすることで,事業者との商品等の取引について自主的かつ合理的な選択を阻害されないという一般消費者の利益をより迅速に保護することを目的とするものであると解されるところ,この目的が公共の福祉に合致することは明らかである。そして,一般消費者は,事業者と商品等の取引を行うに当たり,当該事業者がした表示のとおりの品質等が当該商品等に備わっているものと期待するのが通常であって,実際にこれが備わっていなければ,その自主的かつ合理的な選択を阻害されるおそれがあるといい得るから,法5条1号の規律するところにも照らし,当該商品等の品質等を示す表示をする事業者は,その裏付けとなる合理的な根拠を有していてしかるべきである。また,法7条2項により事業者がした表示が優良誤認表示とみなされるのは,当該事業者が一定の期間内に当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと客観的に評価される資料を提出しない場合に限られると解されるから,同項が適用される範囲は合理的に限定されているということができる。加えて,上記のおそれが生ずることの防止等をするという同項の趣旨に照らせば,同項が適用される場合の措置命令は,当該事業者が裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を備えた上で改めて同様の表示をすることについて,何ら制限するものではないと解される。そうすると,同項に規定する場合において事業者がした表示を措置命令の対象となる優良誤認表示とみなすことは,前記の目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものということができ,そのような取扱いを定めたことが立法府の合理的裁量の範囲を超えるものということはできない。」
「したがって,法7条2項は,憲法21条1項,22条1項に違反するものではない。このことは,当裁判所大法廷判決(最高裁昭和29年(あ)第2861号同36年2月15日大法廷判決・刑集15巻2号347頁,最高裁昭和45年(あ)第23号同47年11月22日大法廷判決・刑集26巻9号586頁)の趣旨に徴して明らかである。論旨は採用することができない。」(以上1~2頁)

本件で上告人の代理人がどのような上告理由を書かれたのかは明らかではないが、判決文を見る限り、営業の自由だけでなく、表現の自由の観点からも主張を展開されたのだろう。

ただ、その割には、手段審査に関する説示の”あっさり過ぎる”感はなんとなく気になる。

消費者を誇大広告から保護する、という規制目的の意義が疑いようもないものである、ということもあるだろうし、引用された昭和36年大法廷判決(あん摩、はり、きゆうに関する広告規制を合憲とした判決)*3がそうであるように、広告規制に対しては最高裁は比較的寛容に認めている、という傾向も背景にあるのだとしても*4、概して「提出した資料が合理的な根拠資料といえるか?」が争点となるこの規制類型において、「資料を備えさえすれば同一の広告表現ができるのだから必要かつ合理的な規制といえる」といってさっくりと合憲性を認めてしまっているのを見ると、いささか首を傾げたくもなるわけで・・・。

そこで、本件がどういう事案だったか、ということを改めて確認するために、時計の針を少し逆回ししてみることにしたい。

東京地判令和2年3月4日(平成30年(行ウ)345号)*5

本件の発端となったのは、平成29年3月9日に消費者庁が出した以下の措置命令だった。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/fair_labeling_170309_0001.pdf

「「アスタキサンチン アイ&アイ」と称する食品」を対象商品とし、「平成28年6月27日から同月30日までの間、全国に配布された日刊新聞紙に掲載した広告において、(中略) あたかも、対象商品を摂取することにより、ボンヤリ・にごった感じの目の症状を改善する効果が得られるかのように示す表示をしていた。 」ということをもって景表法第5条第1号(優良誤認)に該当する、としたこの措置命令。

そして、このリリースには、

「前記アの表示について、当庁は、景品表示法第7条第2項の規定に基づき、株式会社だいにち堂に対し、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたところ、同社から資料が提出された。しかし、当該資料は当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められなかった。」(2頁、強調筆者)

という記述も添えられている。

リリースの3ページ以降で「別紙」として掲載されている広告は、まぁ確かにいかにも・・・というレトロ感のある広告で、自分も全く好みではないのだが、よく見ると広告で”効能”らしきものが書かれている部分はほぼすべて「体験談」で、それ以外の記述は配合成分の説明、という形になっているから、作る方もそれなりに考えて作ったものであることはよく分かる。

そして、措置命令を争った事業者が取消訴訟の一審で主張したのも、まさにその点であった。

「法7条2項により,事業者は,表示の裏付けとなる合理的根拠資料の提出を求められるが,通常許容される内容の表示について合理的根拠資料の提出を求められる理由はないし,表示の内容が一般的・抽象的なものである場合には,その裏付けとなる合理的根拠資料を提出することができない場合も考えられる。消費者庁長官の判断次第で合理的根拠資料の提出要求をすることができるというのであれば,規制が広範に過ぎ,表現の自由憲法21条1項)及び営業の自由(憲法22条1項,29条)を侵害するものとなる。」
「そこで,消費者庁長官が法7条2項に基づいて合理的根拠資料の提出を求めることができるためには,①当該表示が具体的な効能・効果を訴求するものであることを要し,また,②消費者庁長官において,当該表示が著しく優良であることを示す表示であることを明らかにする必要があると解すべきである。」(原告主張、強調筆者、以下同じ)

この後に続く主張は、「本件記載は,本件商品を摂取することにより「ボンヤリ・にごった感じの目の症状を改善する効果が得られる」ことを訴求するものではなく,本件商品の原材料であるアスタキサンチンが目に良い成分であるという一般的な情報に基づいて,本件商品が含有する原材料の一般的性質として,目に良いということを社会的に許容される範囲で誇張したものにすぎない」、「一般的な消費者は,事業者による広告では商品の特性を強調する表示がされるという広告一般に内在する特徴を認識した上で,本件商品が医薬品ではなく健康食品として販売されているものであることを理解しているから,本件商品の摂取による影響について,医薬品のような効能・効果を有するものではないと認識している。」といったもので、これはさすがにいささか苦しいところはあるのだが、「勝手に資料を求められて出せなかったからといって『みなし』で処分されるのではたまらん」というのはまさにその通りで、処分要件を明らかにしようとする試みには、一定の意義があったといえるだろう。

これに対しては、地裁判決が以下のように応答している。

「本件措置命令は,法7条2項によって本件記載による表示が優良誤認表示とみなされるとして行われたものであり,当該表示が優良誤認表示に該当すると判断して行われたものではない。そうすると,本件措置命令が適法であるためには,法7条2項が規定する処分要件を充足すれば足り,本件においては,消費者庁長官が,本件記載による表示が優良誤認表示に該当するか否かを判断するため本件資料提出要求をする必要があると認めたことが相当であるか否か②原告の提出した本件資料が本件記載による表示の裏付けとなる合理的根拠資料に該当しないと認められるか否かが審理の対象となるものと解される。」
「法7条2項の文言上,法が原告の主張する各要件を合理的根拠資料の提出要求の要件として規定していると解すべき理由は見当たらない。また,同項の趣旨に照らして検討しても,事業者が行う表示において商品等の効能・効果につき数値等を用いた具体的な記載まではされていない場合であっても,当該表示が優良誤認表示に該当する疑いが認められる限り,消費者庁長官において,当該表示が優良誤認表示であることを立証するために,当該商品等が当該表示に沿った効能・効果を備えているか否かについて審査しなければならないのであるから,消費者庁長官が迅速かつ適正な審査を行い,速やかに所要の措置命令を行うことを可能にして,一般消費者の利益を保護しようとする同項の趣旨は同様に妥当するということができる。」
「また,事業者は,その供給する商品等に係る情報の収集等を行うことが容易な立場にあり,当該商品等の品質,規格等に関する表示をする場合には,あらかじめその裏付けとなる合理的根拠資料を収集した上で表示を行うべきものである。そして,当該表示の裏付けとなる合理的根拠資料の提出を求められた事業者が提出すべき資料は,当該表示の内容に対応する限りで,その合理的な根拠を示すものであれば足りると解されるから,合理的根拠資料の提出要求を受けた事業者は,当該提出要求に対応する際や,措置命令に先立って付与される弁明の機会(行政手続法13条1項2号参照)等において,当該表示の内容について自身の見解を主張するとともに,その主張に沿う資料を提出するなどして,実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であるとの疑いを晴らすことが可能である。この点は,事業者が行う表示において商品等の有する効能・効果について数値等を用いた具体的な記載まではされていない場合であっても同様である。さらに,措置命令の内容は,「その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項」を命ずること(法7条1項)であり,当該表示の抑止に必要な範囲を超える内容を命ずることはできない。」
「以上のことからすれば,法7条2項が規定する処分要件について,その文言に即して上記(2)①及び②のとおり解することは,一般消費者の保護という正当な目的のために必要かつ合理的な範囲で規制を行うものであり,事業者の表現の自由及び営業の自由を不当に侵害するものとはいえない。」

結果的には、この①について、以下のとおり原告側の意に反する判断がなされたことから措置命令も維持される結果となったが、②の合理的根拠資料該当性だけでなく、①の資料提出要求の必要性についても審査対象となる、とされた点には一定の意義があると思われるところだし、この2点をもって自由権への制約の合理的根拠とする、という論旨も理解できるところではあった。

「一般的に広告中においてある程度の誇張がされることがあるとしても,本件記載について,その文言及び内容全体から一般消費者が受ける印象・認識を踏まえるならば,本件記載による表示は,単に本件商品に含まれるアスタキサンチンが目に良い成分であるという一般的な内容にとどまらず,上記のとおり,視覚の不良感が改善されるという効能・効果を有する本件商品の優良性を強調するものでありその裏付けとなる合理的根拠資料の提出を求めるまでもなく優良誤認表示に該当しないことが明らかなものとは認められない。」

東京高判令和2年10月28日(令和2年(行コ)96号)*6

このような地裁判決に対し、控訴した原告は①の争点をさらに深堀りした。

「法7条2項によって,具体的な効能・効果の訴求を伴わない表示に対してまで合理的根拠資料の提出を要求されると,事業者としては,予測可能性が担保されず,社会的に許容される範囲の誇張と認識していた表示が不意打ちで優良誤認表示と認定され,重大な不利益を受けることになる。これは,表現行為を過度に規制し,萎縮させるもので,表現の自由憲法21条1項)を侵害するから,法7条2項を憲法に適合するように運用するためには,明文はないものの,当然の前提要件として,具体的な効能・効果を訴求する表示がされている場合に限られると解するべきであり,かかる限定的解釈をとらなければ,表現の自由及び営業の自由を侵害する憲法違反の規定となる。」(原告主張)

ここまで原告がこだわった背景には、それまでは何となく見逃されていた”誇張”や”雰囲気広告”への規制が、近年やけに厳しくなってきている*7という
ことへの反発心もあったのかもしれない。

だが高裁は、

「法5条1号は,商品等の効果や性能について,数値等を用いた具体的な記載を含む表示のみを規制するものではなく,具体的な数値等を表示していなくても,商品の効能・効果が実際のものよりも著しく優良であることを示す疑いのある表示については,事業者において合理的な根拠を有するべきであり,不当な表示により一般消費者に被害が拡大することを防止するため,内閣総理大臣の権限の委任を受けた消費者庁長官が,迅速かつ適正な審査を行い,速やかに所要の措置命令を行うこととして,一般消費者の利益を保護しようとする法7条2項の趣旨が妥当するから,優良誤認表示に該当するか否かを判断するための合理的根拠資料の提出要求の対象を,控訴人の主張する具体的な効能・効果を訴求する表示に限定すべきものとは解されない。」

と述べて上記追加主張もバッサリと否定した。

一般論としては、数値等を出さなくても優良誤認させるような広告はいくらでも作れるから、ここは原告(控訴人)の主張に無理があったというしかないが、ここでも、

「なお,そもそも,一般消費者が著しい優良性を認識しないような表示であれば,合理的根拠資料の提出の対象とはならず,仮に,かかる表示について合理的根拠資料の提出要求がされても,優良誤認表示に該当するとみなすことはできないと解されるのであって,事業者は,合理的根拠資料の提出要求の対象とされた表示が,社会的に許容される範囲の誇張であって,一般消費者が著しい優良性を認識するものではないと考えるのであれば,措置命令に至る手続及び措置命令に対する不服申立ての手続において,その旨を主張して争うことが可能であるから,合理的根拠資料の提出要求の対象について上記のように解することが,表現の自由及び営業の自由を侵害するものとはいえない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。」

と、地裁に続き、「優良誤認性自体を争う余地」を認めさせた、という点では意義があったのではないか、と自分は思っている。

上告審判決から消えたもの

さて、このように第一審、控訴審の判決から追ってくると、上告審判決の違和感の原因もおぼろげながら見えてくる。

そう、原告が指摘し続け、地裁、高裁も「不実証広告規制の合憲性」を認める根拠の一つとしてきた、「資料を出せなくても『優良誤認』性自体を争えるのだから問題ない」(その意味で「みなし」は確定的なものではない)という旨の説示が、最高裁判決からはすっかり消えてしまっているのである。

これが原告(上告人)が上告審で設定した議論の土俵による帰結、あるいは、処分庁による優良誤認表示該当性の認定を司法審査で争えるのは当然のこと、という裁判所の認識が反映された結果なのか、それとも、最高裁がより踏み込んで景表法7条2項に強力な権能を与えた、と理解すべきなのかは、調査官解説が出てくるまではちょっと判断しづらいところもあるのだが、実証しづらい雰囲気的な広告表現に「実証せよ」の刃を突き付けられた(悪意なき)事業者の立場に置かれたとしたら、(表現の自由まで持ち出すかどうかはともかく)そもそも提出要求の必要性、合理性から争う余地が残されている、という前提で戦える世の中のままであってほしい、ということは、ここで強調しておきたいと思っているところである。

*1:結果的に課徴金制度にも不実証広告規制は導入されたが、「経済的不利益を賦課するという行政処分」であることを考慮して、8条3項は「みなし」ではなく「推定」規定とされている。

*2:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/989/090989_hanrei.pdf

*3:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/353/051353_hanrei.pdf

*4:もっとも昭和36年大法廷判決には4名の裁判官の少数意見が付されている。

*5:民事3部・古田孝夫裁判長

*6:第1民事部・深見敏正裁判長

*7:それでいて全ての事業者に対して完全に規制が及んでいるわけでもないので、措置命令のターゲットとなった事業者にしてみれば、どうしても不公平感を抱くことになる。

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