“瀬戸際でキャッチフレーズを考える法務”ではダメなのか。

BtoCのサービスを展開する会社にとって、近年日々存在感を増しているのが「景表法」。

今日の日経法務面でも、「企業、景表法対策に奔走」という見出しの下、景表法対応に追われる企業の様子のレポートが大きく掲載されていた。

景品表示法に基づき、消費者庁が企業に不当表示の再発防止を求める措置命令が相次いでいる。景表法では昨年12月に表示管理体制の整備を義務付ける改正があり、来春には課徴金も導入される見通しだ。」(日本経済新聞2015年4月13日付朝刊・第15面)(強調筆者、以下同じ)

昨年秋に同じ法務面で特集が組まれた際は、課徴金制度導入の話が専ら取り上げられていて、目前に迫った「管理体制義務付け」の方は、脇に置かれてしまった感もあったのだが*1、今回は、各社の「管理体制」の中身が比較的細かく描かれていることもあって、読んでいてなかなか興味深いものがあった。

特に、おぉ、と思ったのは、TOTOの状況を紹介した以下のようなくだり。

「2012年度から全国の支社に表示の管理担当者として『キーマン』を任命し、100カ所のショールームが独自に毎週つくるチラシなどの表示をチェックする体制をつくった。だが当初は、できあがったチラシの問題点を指摘するような事後的な水際対応が中心になり、『問い合わせに応じる法務部員がチラシの文句を考える事態に陥ってしまった』。」(同上)

これぞまさに、法務部あるある・・・

自分も、「明日が広告入稿の締切日なんです〜」と青ざめた顔でやってきた事業部門の担当者に、過去に弁護士に相談に行ったときのコメントだとか、消費者庁への匿名相談の結果だとかを伝えた上で、ああでもない、こうでもない、と言いながら、ギリギリの線でクリアできる宣伝文句を、一緒になって考えた経験は数えきれないほどある。

幸か不幸か、そういう経緯で生み出されたフレーズがそのまま採用になってしまったケースもあるが*2、持ち帰った担当者が上司に突き返されてそのままお蔵入りになることの方が、やっぱり多い。
場合によっては、二転三転した結果、出来上がりを見て、「元の案からほとんど変わってないじゃねーか」と腰を抜かすようなケースすらあり、徹夜モードで苦労する割には、報われないことが多い仕事なのだが、いずれにしても、瀬戸際の丁丁発止の攻防を経てドタバタで決まる、というのが、この手の話にはよくあることであった。

記事で取り上げられているTOTOは、

「『本部がつくる商品カタログに弱さがある』と気づき、広告・宣伝の検討会議に景表法対応の検討過程を組み込んだ。」

と対応をシステム化することに成功し、「キーマン」への教育も進めて「一定の仕組みができた」ということになっているから、「実に模範的な対応を行った」ということができるだろう。

だが、このような進んだ会社がある反面、広告・宣伝を検討する部署が一元化されておらず、会議体での決定すら行われていない、という会社は決して少なくなく、体制を構築しようと思っても、どこから手を付ければ良いのやら・・・とため息をつきたくなる状況に(今まさに)陥っている法務の人間は、決して少なくないのではなかろうか。
また、広告・宣伝を検討する部署が、各事業部門や地域ごとの販社等にまで分散している場合に、法務的視点からチェックする担当者がすべからく検討過程に加わろうとすれば、それだけ人的なリソースを割かなければならない。

法務以外の人間を教育して育てれば良い、というのは簡単だが、このような場面では、景表法の観点からのチェックだけでなく、業種特有の様々な規制や、商標、著作権といった知財的観点からのチェックも必要になるから、人の異動等もある中で、必要な知識を浸透させるには、並大抵の取り組みでは足りない・・・


おそらく、昨年12月の体制整備義務の導入と、施行されるまでそんなに間がないと思われる課徴金制度の導入を前にして、頭を抱えている法務部門の責任者は多いと思うのだけれど、個人的には、「体制構築」という観点からできるところまでやってみる、でも、おそらく完璧な体制を構築するのは無理だから、後は、「転落に向けた最後の一歩」を踏み外そうとするまさにその瞬間に、危機を察知して逃げを打つ、そんな法務部門やセンスの良い宣伝担当者の「個人技」に賭けてみる・・・というのが、一番良い落ち着きどころのように思えてならない。

“瀬戸際でキャッチフレーズを考える法務”というのも、(やっている側からしたら)悪くないし、その結果、リスクを回避できる可能性が高まるのであれば、皆ハッピーになれるはず・・・というのが、今、自分が抱いている、率直な感想である。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20140915/1411277438参照。

*2:元々、こういう話は、事業部門の宣伝担当が「これは大丈夫だろう」と余裕かまして社内に説明に回った時に、感度の高いお偉方に「リーガルチェックは受けたのか?」と突っ込まれ、本来であれば到底間に合わないタイミングで、無理を言って法務に相談を押し込んできた、というパターンが多いものだから、依頼する側には多少の負い目もあるし、何より、目の前の仕事を回すためには藁でも掴みたい、という思いがある。なので、「言われた通りにやります」的な展開になってしまうことも珍しくない。

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