先週のエントリーで、新司法試験受験者数をめぐる微妙な状況についてご紹介したところだったのだが*1、週が変わって、さらにショッキングな事実に接した。
きっかけは以下のニュースである。
「2015年春の全国の法科大学院の入学者は計2201人となり、過去最低を更新したことが11日、文部科学省のまとめで分かった。全体の受験者数を合格者数で割った競争倍率は、昨年から0.13ポイント減の1.87倍で2倍を切った。」(日本経済新聞2015年5月12日付朝刊・第34面)
ここ1,2年の間に、猛烈な勢いで法科大学院が廃校に追い込まれていることを考えると、「入学者数」が減少することは、当然想定の範囲内だと言える。
また、制度ができた当初、法科大学院の数があまりに多すぎた、というのも間違いない事実だから、それを整理・統合する方向に向かっていること自体は、決して悪い方向ではない*2。
なので、上記の記事のうち、見出しになっている「入学者数過去最低」というところには、自分はさほどの衝撃は受けなかった*3。
だが、自分が気になったのは「競争倍率」のところで、今、どういうことになっているのかな? と、「法科大学院全国統一適性試験」のサイト(https://www.jlf.or.jp/jlsat/index.shtml)で、過去何年かの「入学有資格受験者」の数字*4を見た瞬間に、やはり絶句せざるを得なかった。
DNCとJLFが統合した2011年以降の数字は、ざっと以下のようなところである。
2011年 7,211人
2012年 5,801人
2013年 4,792人
2014年 3,994人
“司法試験バブル”の真っ盛りだった、第1回のDNCの本試験受験者(28,340人)と比較するのはあまりに無謀すぎるが、既に「大幅減少」が指摘されていた2011年と比べても、さらに半分近いレベルにまで落ち込んでしまっている、というのは、もはや目を覆いたくなる惨状、というほかない。
そして、間もなく行われる今年の適性試験を経て「入学有資格」を得る者の数は、おそらくさらに輪をかけて減ることになる・・・。
この現象が、巷でよく言われているような「法曹の魅力低下」等の要因だけを背景に生じているわけではないんじゃないか、と自分は思う。
今も昔も法曹志願者の最有力供給源である「法学部」の定員が、“バブル”期に比べて大幅に減っている、というのも一つの理由だし*5、さらに、今が今世紀最高レベルの好景気真っただ中で、就職適齢期の学生にとっては空前の「売り手市場」になっている(したがって、選ぼうと思えば、より負担が少なくリターンが大きい進路はいくらでも選べる)ということが、要因としてはかなり大きいように思われる*6。
かつての“司法試験バブル”が、21世紀初頭の不景気まっただ中、「普通に就職したくても、するところがない」「何とか入社しても、こんなすさんだ環境ではやってられない」と、悲痛な覚悟をもって飛び込んだ人たちによって支えられていた、ということを考えると*7、減ってかえって健全になった、という見方もできるところだろう。
ただ、やはり、モノには限度、というものがある。
そして、これまでこのブログの中で繰り返し訴えてきているとおり、「裾野をどれだけ広く持てるか」というのは、特定の分野、特定の職業集団を語る上で、やはり決定的な意味を持つことだと思う。
制度導入からしばらく経った頃によく言われた「コストをかけて法科大学院に行ったのに、資格を取るのがこんなに大変だなんて・・・」というネガティブな評価は、あと数年もすれば、ただの昔話に変わってしまう可能性が高い*8し、今でも生き残っているいわゆる「上位校」であれば、試行錯誤を経て、カリキュラムもそれなりに洗練されたものになっているはず。
法曹の資格を取るためのコストが制度創設期と比べてより大きなものになってしまっているのは事実だし、資格を取った後の環境が厳しさを増している、ということも否定はできないから、今すぐに自律的な「裾野」の回復を期待するのは難しいのかもしれない。
だが、弁護士やそれ以外の法曹資格者の仕事の本質的な中身と、その魅力は何ら変わっていない、と思うだけに、どこかで下げ止まって流れが変わる日が来ることを信じて、今は地道に魅力を伝えていくしかないのではないか、そして、その積み重ねの上に、再び緩やかな裾野の広がりが生まれるはずだ*9、と自分は信じてやまない。
*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20150507/1431225608
*2:補助金交付等の政策的な「色」を付ける際に、「司法試験合格率」という教育機関の本質とは一見かかわりが薄いところで選別をしていることについては違和感を抱かざるを得ないのだが、合格率が低い→受験者の人気が下がる→質のいい入学者を確保できない→結果的に良い教育環境が築けない、というのは紛れもない事実のように思えるだけに、やむを得ないところもあるのかもしれない。
*3:実際に今年入学した彼/彼女たちが修了して司法試験に臨む段階で、現在と同レベルの合格者数がまだ維持されていたとしたら、むしろ、制度創設初期の理想(合格率○×%、とかいう数字)に近づくのではないかなぁ・・・とさえ思ったりした。
*4:法科大学院受験者は、必ずこの試験を受ける必要があるため、「法科大学院志願者」の概況を掴む上では最も信頼性が高い数字だと言える。
*5:そもそも、知的労働に従事しうる潜在能力を持った大学生の数自体が大幅に減っているのではないかと思う。たとえ「大学生」という肩書を持っている者の数自体がそんなに変わっていないとしても、である。
*6:法曹に限らず、他の難易度の高い資格においても、時間と労力をかけて取得を目指す人は、今は少なくなっているのではないかと思う。
*7:そして、そうやって司法試験の世界に飛び込んだ人たちの中に、心の底から法曹の仕事に魅力を感じて・・・という人がどれだけいたか、については、何とも言えないところもあるように思う。
*8:今年の入学者数が約2200人。おそらく司法試験受験資格を得る頃には、それが2000人弱くらいにはなっているだろうから、1回〜4回受験に失敗した人に交じって試験を受けたとしても、一昔前に比べると、かなり楽な競争倍率で臨むことができるようになるはずである。
*9:増加に転じるのが法科大学院ルートなのか、予備試験ルートなのか、それとも別の新しいルートができるのか、は分からないけれど・・・。