毎年、新聞で大きく取り上げられる新司法試験*1の合格発表。
細々と終末期の裏街道試験を受けていた人間としては羨ましい限りなのだが、報じられる中身の方は、相変わらず芳しくない。
「法務省は11日、法科大学院修了者が対象となる2012年の司法試験で過去最多の2102人が合格したと発表した。昨年より39人増えたものの「年間合格者数3千人程度」との政府目標を7年連続で下回った。合格率は25.0%(前年比1.5%増)で、初めて前年を上回ったがなお低水準。合格者は都市部の法科大学院修了者に集中するなど二極化が進んだ。」(日本経済新聞2012年9月12日付け朝刊・第38面)
合格率が上がったのは、旧試験の廃止に伴い新司法試験の合格者数が50名程度増加したのと、受験者が昨年より約400人も減少したためで、試験自体のハードルの高さが本質的に変わった、というわけではない。
そして、昨年のエントリー*2でも危惧していた上位校集中問題は、昨年に比べれば若干緩和したものの、
・上位15校が合格者の全体の7割を占める。
・9校が合格者3人以下(昨年は12校)
・合格率1割以下が20校(昨年は28校)
相変わらず、の状態である*3。
・・・ということで、記事のトーンは、ここ数年と同様、「政府目標は事実上破綻。法科大学院を含め法曹養成制度の見直しが急務となっている」というところに落ち着いてしまっているのだが・・・。
個人的には、「法科大学院生が全員司法試験に受からないから、法科大学院制度は失敗」とか、「司法修習を終えても弁護士登録しない人が400人もいるから法曹養成制度の見直しが必要」とかいった安直な議論は、そろそろいい加減にやめた方がいいんじゃないかと思っている。
今年も受験予定者(11,100人)と実際の受験者数との間には3,000人近いギャップがあるが、彼/彼女達が引きこもって悶々と“受け控え”をしているかといえば大間違いで、「法科大学院修了」という「学部卒」と比べれば圧倒的に有利な肩書を生かしてさっさと新しい仕事に就き、即戦力として、学んだ知識を活用している人も相当数いる*4。
今回の試験をもって、受験回数制限の上限に達してしまった1,000人以上の修了者にしても、「旧試験を10年、20年受け続けてしまった」かつての受験生に比べれば、相当恵まれた人生を歩けるわけで。
また、修習後の未登録者の「問題」にしても、単に修習修了者と登録者の数字の差を拾っているだけでは、何も見えてこない。
決して安くはない弁護士会費をわざわざ支払わなくても、企業なり自治体なりに就職すれば、自らの知識・能力にふさわしい働きの場はいくらでもあるわけで、見方を変えれば、これまで「修習が終わったら何となく法律事務所に所属する」という流れに否応なく巻き込まれていた修習生が*5、異なる進路を選びやすくなっているのが今の実態、とも言えるだろう*6。
日弁連会長が、どんなに「遺憾」の意を表明しようと、当面の間は、現在の人数規模で司法試験の合格者が世に送り出されるのが確実な状況の中で、いつまでも後ろ向きなことを言っていてもしょうがない。
まぁ、自分たちで合格者の「定員」を設定しておきながら、
「就職難などが若者の法曹離れを引き起こした結果、優秀な学生が集まりにくくなり、合格率の低迷を招く悪循環に陥っている」
などという、「受験者側の問題」に責任転嫁するかのような、意味不明なコメントを出す「法務省幹部」は糾弾しても良いと思うのだけど(苦笑)*7。
*1:既に“従来型司法試験”が終了したため、法務省のHPでも、もう「新」の表記はとられているのだが、読者の便宜上、今年は従来どおりの表記を使ってみる。
*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110909/1315781615
*3:辛うじて明るいニュースといえば、第1回予備試験組の大半が新司法試験を突破した、ということくらいだろう。
*4:これまで主力を占めていた法学部卒に代えて法科大学院修了者を法務枠採用の中核に据える会社は、相当増えてきているというのが実感である。
*5:かつては、「弁護士資格を取ったのに何で企業なんかに就職するんだ」と真顔で弁護教官に説教されていた時代もあったそうだけど・・・
*6:もちろん、「本当は法律事務所に就職して、“普通の弁護士“の仕事をしたいのに、その就職の機会に恵まれないから、なくなく未登録のまま待機している」という人もいるのは知っているが、未登録者全体から見たら少数派だと思う。少なくとも自分は、「死に物狂いで事務所への就職活動をして就職できなかった修習生」というものを知らない。何となくネットでエントリーして履歴書を出して、それではねられて「就職先ない」なんて言っている修習生は、たくさんいるのかもしれないけれど、そんな人々のために制度を変える必要はないと思う。残念ながら。
*7:一応、法務省の建前としては、司法試験は「競争試験」ではなく、一定の基準を満たせば全員が合格しうる「資格試験」ということなのだろうけど、そんな説明に何の意味もない、ということは、これまでの歴史が十分過ぎるほど証明してしまっている。