2016年9月18日のメモ

やっぱり仕事が始まって、休みの日も含めていろいろと予定が入ってくると、書きたいことも書けずにどんどんクリッピングしたネタだけがたまってくる、という状態になってくる。
元の木阿弥にならないように、とは思っているのだけれど、所詮は人間のやること。大目に見ていただければ幸い。

JASRAC排除措置命令取消審判の決着

気が付けばあっという間に時が過ぎてしまっていたが、ここ数年、知財、独禁の両業界にまたがって話題を振りまいてきたJASRAC事件が遂に終結した。

「テレビなどで使われる楽曲の著作権料徴収をめぐる日本音楽著作権協会JASRAC)の契約方法を巡り、独占禁止法違反(私的独占)に当たるか再審理していた公正取引委員会は14日、契約の見直しや再発防止を求めた排除措置命令が確定したと発表した。」「JASRACが審判請求を取り下げた。」(日本経済新聞2016年9月15日付朝刊・第38面)

排除措置命令が出された平成21年2月からカウントしただけでも、実に7年半以上*1
最高裁判決(平成27年4月28日)が出されてからも、さらに1年以上続いていた審判が、ようやくここで幕を下ろすことになった。
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120615/1383589570#tb
この件については、これまで度々このブログでも取り上げてきたので*2、改めて詳細を論じるつもりはないが、既に「新しい徴収制度」の合意も成立しているような状況で、審判を継続する意義はない、と双方が判断した上でのことなので*3、まずはメデタシメデタシ、というべきなのだろう。

このまま“競争状態”が続いてこの審判が昔の笑い話として語られる日が来るのか、それとも、“やっぱり寡占時代のままだった”ということになってしまうのかは分からないが、排除措置命令から審決、そして裁判所での判決まで、当事者が精いっぱいの主張を行い、結論を二転三転させたこの戦いが時代の転換点にふさわしいものだった、ということは間違いない事実だと思っている。

御厨教授が語ったシン・ゴジラ

この休みの間眺めた読み物の中で一番面白かったのが、御厨貴青山学院大学特任教授(東大名誉教授)が、読売新聞に2ページにわたって掲載したコラムだった。

公開からだいぶ日が経ったからか、中身はネタバレ満載なので、「これから見に行きたい」と思っている方にはお勧めできないが(笑)、内容的にはさすが、と唸らされるところが多い。

特にツボだったのは、

「人材は育てられるものではない。その社会がどれだけ異端者を抱え込むゆとりを持っているか否か、そのノリシロの大きさこそが必要なのだと分かる。」(読売新聞2016年9月18日付・第1面)

のくだりで、日頃“人材育成”と呪文のように唱えている連中に、この部分だけでもコピーを貼り付けてやりたい衝動に思わず駆られた(苦笑)。

それはともかく、矢口蘭堂赤坂秀樹、といった官邸周りの登場人物の視点だけで描かれているのがこの映画だから、政治学者や行政学者がそこに関心を持つ、というのはごく自然なことだし、分析が的確、かつ好意的なものになるのも至極当然といえば当然なのだろうと思う*4

自分は、これまで、ああいう場面*5で常に“機能しない官”を補完する役回りを果たして生きた「民」が、映画の中であまりに描かれなさ過ぎていたことにひどく失望したし、最後のシーンで、「法律作ったから、化学プラントも無人列車もガンガン徴用できるようになったんだ凄いだろ俺たち」的な、“上から目線”を強く感じたことで、かの映画に対する印象が非常に悪くなってしまっているのであるが*6、見方を変えればもう少し楽しめたかもしれない。

「共謀」罪法案、扱いに苦慮するくらいなら・・・

民法(債権法)、商法(運送法制)と滞留した基本法の改正をどう進めるか、という状況の中で、刑法改正を伴う「共謀罪」法案の提出が話題になってしまうのは、個人的にはいかがなものかと思う。

9月14日付の日経紙の記事によれば、

2020年の東京五輪に向け、テロ対策の取り組みをアピールするため共謀罪を早期に創設したい考えだが、与党に慎重論がある。」(日本経済新聞2016年9月14日付朝刊・第4面、強調筆者)

ということだが、「テロ対策」という観点から策を講じようと考えるのであれば、射程の広い「共謀」罪を持ち出さなくても、現行法の規定だけで何とかなるわけで、なぜわざわざこのタイミングで対決法案を上げようとしているのか、理解に苦しむところ。

常に引き合いに出される「国際組織犯罪防止条約*7との関係でも、本当に外務、法務官僚が唱える“不整合”があるのかどうか、もう少ししっかり検討した方が良いのではないか、と思わずにはいられない*8

本来は、「条約に調印した責任」を問うのか、それとも・・・という話なのではないか思うし、日本という小国には、この先も未来永劫付いて回る問題だけに・・・。

イギリス国民の寛容さに感謝。

英国のEU離脱に関し、日本政府のタスクフォースが「要望書」を出したことが、英国内で話題になっている、とのこと。
おそらく「英国及びEUへの日本からのメッセージ」ということで、官邸のホームページにも掲載されている(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/euridatsu_taskforce/pdf/message.pdf)ものを指しているのだろうが・・・。

確かに経済活動において「不確実性」が脅威となることは否定できないし、

「英・EU関係に空白や停滞が生じないように,英・EUが共同して,必要に応じ英・EU間の暫定取決めを適用する延長可能な暫定期間の設定を含め離脱に向けた継ぎ目の無いプロセスを構築し,既に英国・EU域内に投資を行っている企業への悪影響を排除する措置を早期に明らかにするなど,その全貌を可能な限り早期に世界に向けて示すことを強く望む。」

というメッセージの骨子の中身については、そんなに問題視するような部分はないと思うのだが、民間の有識者団体ならともかく、政府の公式なタスクフォースから一国の政策に対してこういう声明を出す、というのが、相手国の立場で歓迎されるべきことなのか、しかも、状況としてはかなり落ち着いてきたタイミングだけに、いろいろと考えさせられるところはある。

おそらく一部の“自由貿易至上主義者”(及び一部の業界団体)の影響が色濃く反映されているのだろうが、英国民が今ここで「EU離脱」という判断をした背景には当地が抱える様々な事情があるわけで、そこにわざわざ首を突っ込んでいく必要があるのか、そして首を突っ込むに当たって、相手国の事情をどれだけ緻密に考慮しているのか、大いに疑問を抱くところである。

自分がイギリス国民だったら、“国論を二分する問題に土足で踏み込むなんて何てけしからん連中だ”と不満たらたらになるだろうけど、そこは歴史と伝統のある国だけに、賛否両論の枠の中に収めていただけているようなのが唯一の救いといえようか。その寛容さに感謝するほかない。

*1:実際にはその前段から調査は行われているし、事実認定の対象となっていたのは平成18年の話だから、まさに“10年戦争”というべき状況だった。

*2:一番詳細な検討をしたのは、審決の時のエントリーだろうか(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120615/1383589570)。その後の逆転判決についても、いろいろと問題提起したいところはあったのだが、結局、尻切れトンボ的な感じで終わってしまったような気がする。

*3:公取委の発表によると、JASRACの取下げに先立ち、イーライセンスも手続への参加を取り下げていたことが分かる(http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/sep/160914_2.html)。

*4:その前提の下でも、御厨先生ほどの切れる評論が書ける方はなかなかいらっしゃらないとは思うが。

*5:といっても、我々は未だかつてゴジラほどの災厄に直面したことがあるわけではないので、あくまで他の大災害との比較なのだが・・・。

*6:もう一つ、ゴジラがいるのは「東京」というピンポイントの地点に過ぎないのに、首都圏以外の都市の表情がほとんど描かれていない、という重大な問題もある。

*7:正式名称は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約

*8:政府の見解については、http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji34.htmlに掲載されているのだけれど、何だかなぁ、という感じである。

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