根拠なき「自由貿易」礼賛の陰で・・・。

長きにわたる議論と交渉の果てにようやく日の目を見たTPPが12月30日に発効する、ということで、今朝の日経新聞は「巨大な自由貿易圏」礼賛一色だった。

その一方で、ひっそりと掲載されていたのが知財ルール米離脱で凍結」という見出しの記事*1
TPPの交渉経緯を考えれば、米国が入らない以上、知財関係のテキスト部分は全てなかったことにしても良いくらいだし、少なくとも関係国の合意で「凍結」された事実くらいは尊重する、というのが本来取るべき態度だと思うのだが、記事の中にはなぜか、「日本は独自に著作権の保護期間をこれまでより20年長い70年に延長。特許申請ルールを整備するなど、凍結分野の一部を自主的に実施する方針だ。」という奇妙な一文も登場する。

前者(保護期間の延長)に関しては、福井健策弁護士をはじめ、これまで議論を呼びかけて来られていた方々から様々な反応が示されているが、単純に「期間が延びる」ことに関しては、自分はそこまでセンシティブには受け止めていない。

世界を見渡せば、著作権の保護期間を「70年」に設定している国・地域は随分と多くなっているし、そもそも「50年」が「70年」になることによって(バプリックドメインになることが20年遅れることによって)何かが変わるのは、ほんの一握りのコンテンツだけ。

保護期間が延びることで、孤児著作物が増加することを懸念する声もあるが、時が経てばたつほど権利に関心を持つ関係者の数も減ってくる、という現実を考慮すると、使う側で過度に抑制しなければ*2、むしろ「事後許諾」の運用定着&「実質報酬請求権化」の契機となる可能性すらある。

なので、今の時点でそんなに悲観的にならなくても、というのが総論的な感想。
ただ、常識的に考えれば来年1月1日に施行される改正著作権法に合わせて改正すべき「保護期間」の規定を、なぜか今や無関係となった「TPP発効」の日付に合わせたことに対しては、全くもって釈然としない。

元々「TPP12」に合わせて改正する予定だった5項目を一体で議論してきたから、「12」が「11」になって一部項目が凍結されても全部セットで・・・というのが文化庁サイドの言い分なのだろうが*3、元の協定で全締結国が受け入れる条件にならなかった以上、ここは分けて議論した上で施行するのが本来の筋だろう。*4。。
そしてそういった考慮もなく、淡々と施行した結果、あと数日で権利保護期間を終えるはずだった1968年没の著作者の作品が"救済”されることになった、というのは、それが単なる偶然だったとしても何とも気持ちが悪い話。

まぁ、全ては自国内で長年積み重ねられてきた議論をスルーして、「結論ありき」で話を進めてきた結果が一連の妙ちくりんな改正(12月30日施行)だから、改めて全国の農家と一緒に「全部TPPのせいだ!」と叫んでも良いのだけれど、”根拠なき礼賛"で湧き立つ今の日本の国内では、そんな声も届きそうにないのが何とも残念なところである*5

*1:日本経済新聞2018年12月30日付朝刊・第3面。

*2:今の「過剰コンプライアンス」時代にはこれが一番難しいところなのかもしれないが、ここは法務・知財担当者の心構え一つでどうにでもなる話なので、今後どんなに時間がかかっても、マインドが変わっていくことを信じたい。

*3:保護期間の延長と技術的保護手段を除けば、TPP11でも「凍結」されてはいないから、12月30日に改正法を施行する義務が生じる、ということになりそうである。

*4:http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/kantaiheiyo_hokaisei/では、その辺の経緯の説明がなく淡々と「TPP11に合わせて施行します」と書かれているのだが、それはちょっとどうかな、と思うところはある。

*5:個人的には、高度成長期やその貯金が残っていた時代ならともかく、日本の従来の基幹産業の足腰が弱った今、地域単位でオープンな経済圏を構築しても、他の東南アジア諸国にシェアを持って行かれるだけで、日本国内の産業の衰退を加速するだけだと思っていて、何年か経った後に、あれが終わりの始まりだった、と言われなければよいな・・・と心から願っているのだけど、日頃聡明な人でも自国の産業の話になると途端に根拠なき強気論に走りがちになるのはなぜなのだろうか・・・。