ソチ五輪の時に弱冠15歳で銀メダリストとなった平野歩夢選手が、更に進化して挑んできた、ということで、大会前から注目されていたスノボの男子ハーフパイプ。
実際、平野選手の試技は、その期待に違わぬスゴ技連発だったのだが・・・。
「男子の決勝が行われ、平野歩夢(木下グループ)が前回ソチ五輪に続いて銀メダルを獲得した。2006年トリノ、10年バンクーバー連覇のショーン・ホワイト(米国)が2大会ぶり3度目の優勝を果たした。平野は2回目に95.25点をマークしてトップに立ったが、最終滑走のホワイトが3回目に97.75点を出して逆転した。」(日本経済新聞2018年2月15日付朝刊・第36面、強調筆者、以下同じ。)
その当時は凄い、かっこいい!と思えた、ソルトレイクやトリノの頃の映像が、今や“牧歌的”なものに見えてしまうくらい早い進化を遂げているのがこの競技で、かつては決めの大技だった「ダブルコーク10(1080)」は、今や繋ぎ技になった感すらある。
そして、今大会で金銀のメダルを争った選手たちの共通項は、
「ダブルコーク1440」、それも連続で・・・
という、現実離れしたまさに「少年ジャンプ」の世界。
他のフリースタイル系競技と同じく、ザクッとした採点方式が取られているのが、この競技の良いところでも悪いところでもある*1。
そして、2本目にほぼ完璧といってよい高難度トリックを連発したにもかかわらず「95.25点」という(今思えば)控えめな得点に留まった平野選手への評価と、3本目、最後の最後に「97.75点」という高得点をもらったショーン・ホワイト選手への評価が、果たして公平なものだったのか、という疑問も投げかけられている。
「負け惜しみではなく、ホワイトが優勝をたぐり寄せた決勝3本目のラン(演技)よりも、平野歩夢が2本目に決めたルーティンの方がスキルは高いと思っている。95.25点の採点は低すぎる。ホワイトの3本目をスロー映像で見返すと、4回転技の2発目でボードをつかむ「グラブ」が完璧でなく、手がボードにまで届かずブーツしかつかめていない。体をコンパクトにたたんで回れていないからで、これはスノボ界では“イケていない”ミス。平野は4回転連続技でもグラブが長く、完成度は高かった。カチカチの雪面と強風のなかでも高難度の技に挑み、平野は100%を出したといえる。惜しむらくは採点で運がなかった。ルーティンを決めた2本目の時点ではまだ14人も演技を控えている。その時点で、1月末に99点と評価された構成にも「99点」は付けにくい。採点を伸ばす余地が考慮され、満点から4.75点引かれた形とされたのだろう。同じルーティンを3本目に出したなら、得点はもっと伸びたはず。というのも五輪では6人の審判員が採点、最高と最低を切り捨てた4人の平均で得点が決まる。しかし基準は「オーバーオールインプレッション」、いわゆる主観だ。序盤で得点が出過ぎ、その後の本来なら高得点の技が100点に収まりきらず“目減り”する、という現象もこの採点法による大会では起きている。」(コラム透視線 野上大介「主観ジャッジの難しさ」より。日本経済新聞2018年2月15日付朝刊・第36面)
プロの目で見てそう言うなら、おそらくそういうことなのだろう。
ただ、それでもあえて今回の結果を支持する材料があるとすれば、トリノ五輪を19歳で制覇したショーン・ホワイト選手が、31歳になってもまだ五輪に出続け、そして、12年分の進化を遂げた姿を観客に見せつけたことの重み、なのかもしれない。
この先、回転技がさらに進化を遂げることになるのか(次の五輪の頃には「1620」とか「1800」という数字が付いた技を飛ぶ選手が現れることになるのか)、そしても別の方向に技が進化を遂げていくことになるのか、今の時点では予想もつかないのだけれど、できることならまだ「19歳」の平野選手には、天性に経験をミックスした演技で、次も、そしてその次も、熟成を重ねて第一線で活躍し続けてくれることを、今は願うのみである。
*1:フィギュアスケートのように、満場スタンディングオベーションでも細かい採点で減点されて順位がひっくり返る、ということには比較的なりにくいのが良いところだが、一方で成功した者同士の比較では、「格」や「雰囲気」で順位が動いてしまう、というデメリットもある。