追う者と追われる者。

今年の全日本フィギュアの女子フリーは、なかなか見応えがあった。


上位のスコアだけ見ると、例年に比べてレベルが低かったの?という印象も抱かれかねないのだが、採点が厳しくなった、ということもあるし、それ以上に最終滑走グループの中の勝負の厳しさを如実に示した、という意味で、例年以上に価値の高い大会になったのではないかと思う。



おそらく、残された結果だけ見れば、「浅田真央選手が順当に3連覇した大会」ということになるのだろう。


だが、この大会でもっとも称えられるべきは、最終グループ第2滑走者として力を出し切った村主章枝選手であるのは間違いない。


SP5位という(上位の顔ぶれを考えると)絶望的なポジションから、FS1位で大逆転の2位。


「五輪前年」といっても本番に影響するのは世界選手権の結果で決まる出場選手枠くらいで、今年の結果がバンクーバーに直結するわけではない、というのは以前にも書いたとおりだと思っているが、村主選手の場合、ちょっと事情が違う。


代々木公園での“聖夜の奇跡”、そして五輪4位、世界選手権銀メダル、という堂々の成績を残したシーズンも今は昔で、ここのところ2年連続で世界選手権の切符を逃していた彼女が、今回不甲斐ない成績に終わるようだと(しかも彼女を差し置いて上位に次代を担える選手たちが食い込んでくるようだと)、来年五輪に挑戦するチャンスすら失われる可能性があったのではないかと思う。


それだけに、後進に追われ続け、世代交代の波に飲み込まれかけていた村主選手が、土壇場で演じた“追う立場からの逆転劇”には価値がある。


今年のグランプリシリーズの結果等を見る限り、今の村主選手のポジションは、安藤選手とどっこいどっこいの日本の4〜5番手で、世界選手権でも結果を出せる保証は全くないから、変わらずこの先の道は厳しいと言わざるを得ないのだが、それでも

「3大会連続、そして3度目の正直で初メダル」

という奇跡に向けて首の皮一枚つながった感のある、この夜の快挙を称えずして何を称えようか・・・*1


今年の全日本が開催された長野と言えば、村主選手が全日本に初優勝(なんと12年前!)し、世界選手権でも銅メダルをとったゲンの良い土地だけに*2、彼女の真摯さが再び地の精を呼び覚ましたのかもしれない。



もうひとつ印象的だったのは、最終グループ第1滑走者として素晴らしい演技を見せた鈴木明子選手と、第3滑走者としてまさかの波乱を演出してしまった中野友加里選手の“明と暗”。


ジュニア時代から嘱望されながらも、ブランクもあってシニアの第一線の舞台で活躍する機会に恵まれなかった鈴木選手と、ほぼ同じ世代ながら、トリノ五輪前年に一気にブレイクしてバンクーバーに向けた「シンデレラ・ストーリー」を歩んでいたはずの中野選手。


奇しくも、ジュニア時代に彼女たちの一歩先を歩いていた太田由希奈選手が引退したシーズンに*3、彼女たちの運命まで交錯してしまうのだとしたら、神様は何と悪戯好きなことか・・・。


SP1位という慣れないポジション。これまでの追いかける立場から「追われる立場」で演じなければならなくなった中野選手には気の毒な状況だったのも確かだけに、来季の巻き返しが注目されるところだろう。



いずれにせよ、今年の大会はバンクーバーに向けて日本フィギュアスケート陣の層の厚さを知らしめた*4、という意味で記憶に残る大会となった。


ついこの前、トリノの選考会をやっていたと思ったら、1年後はもうバンクーバー直前。


月日の経つのは早いものだとしみじみ思う。

*1:6分間練習での安藤選手との衝突事件でミソを付けた感があるが、ぶつかった村主選手にしても転倒したことに変わりはないし、そもそも今季の安藤選手のフリーの出来で、この日の村主選手を上回る成績が出せたとは到底思えないから、非難の矛先を村主選手に向けるのはお門違いというものだろう。願わくば、この一件が後に尾を引かないことを・・・。

*2:もっとも、全日本初優勝時のリンクは、今は無きホワイトリングスケートリンク長野五輪会場)だし、世界選手権の会場はエムウェーブだったから場所は違うが。ちなみにビッグハットでも00-01年シーズンの全日本で優勝している。

*3:スポーツ選手にケガは付き物とはいえ・・・・。ちょっとショッキングな出来事ではあった。http://iceblue.cocolog-nifty.com/figure/2008/11/post-8f20.html

*4:女子では上にあげた他にも武田奈也選手が年の最後に結果を残せたのが大きいし、男子は2位・小塚選手、3位・無良選手と、3人枠をもらうに相応しいだけのメンバーが揃いつつある。

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