戦うべき時と場所。

「カネカ」のプレスリリースに関する前日付けのエントリー*1には、多くの方が目を通してくださっているようで、本当にありがたいな、と思っている。

で、自分は、あの記事を、あくまで法的観点からの分析をベースに書いたつもりだったのだが、若干”おまけ”的に言及した「プレスリリースのスタンス」に関して、その後、プロフェッショナルなブロガーの方が書かれた記事に接したので、ご紹介しつつ、前日のエントリーでは言及できなかったことを少し補足しておくことにしたい。

ご紹介する記事はこちら。↓

news.yahoo.co.jp

執筆されているのは、「ネットコミュニケーションの視点」というテーマで興味深い記事を提供しておられるアジャイルメディア・ネットワーク取締役CMOの徳力基彦氏なのだが、一連の騒動の流れを時系列で分かりやすく解説した上で、

「今回の炎上については、カネカ側の一つ一つの対応が、かえって騒動を大きくしてしまっているのは明白です。」

とコメントされ、さらに、

「個人的には、今回の騒動においては、カネカ側が炎上の初動から「弁護士的対応」に特化してしまったことが、騒動が拡大するような燃料投下を次々に行う結果を生んでしまっていると感じています。」

として、「なぜ弁護士的対応に特化すると、炎上対応を間違えてしまうことが多いのか」という点について、以下のポイント3点を挙げた上で、それぞれについて詳細に解説しておられる。

■社会的な適切さではなく、法律的に適法かどうかの基準を重視してしまった。
■世間とではなく、退職した社員とカネカとの戦いだと思ってしまった。
■対応方針が決まるまで、推定無罪で対応してしまった。

「裁判所での裁判を想定して法的基準を軸に対応をする」ことを指すものとして徳力氏が定義した「弁護士的対応」という表現に対しては、日頃から多角的な視点を踏まえてアドバイスを行っている弁護士の方々から「違う表現にしてくれ~」というぼやきが出てきそうな気もするし、本件の対応には、「法律的に適法かどうか」という基準に照らしても疑義があるのは、昨日のエントリーで書いたとおり。

なので、どちらかと言えば、徳力氏の分析を踏まえて今回のプレスリリースを定義するなら、「弁護士的対応」という表現よりは、

「裁判での主張」的対応

といった方が、法務界隈の方々にはニュアンスが伝わるかな、と思うところである*2

もちろん、解説されている内容に関しては、プレスリリースの内容、スタンスから、広報部門の対応のまずさに至るまで、まさにそうだよね、と膝を打つ指摘ばかりで、大いに共感させていただけるところが多かったのはいうまでもない。

そして、最後に書かれている「二つの選択肢」(6日のコメントを最後のコメントとして口を閉ざすか、それとも、これまでの常識を根本から見直し、世間にもう一度説明するか)についても*3、感じ入るところは多かった。


なお、徳力氏は、本件の特徴の一つとして、

「カネカは、いわゆる消費者を相手にしているB2Cの企業ではなく、B2Bの企業だからこそ、より世間の印象よりも取引先や社員の印象を重視しているという面が、悪い方向に出ているとは言えるかもしれません。」

という指摘もされている。

また、(徳力氏の指摘とは逆方向の話になるが)関連して、「B2Bの企業にとって、SNSでの風評なんて何の影響もない」という趣旨のつぶやきをされているケースもよく見かける。

これは確かにそのとおりで、BtoC企業ですら、一定の規模以上の会社になってくると、商品・サービスそのものに関係するものでない限り、SNSで悪評が立っても、業績にはほぼ誤差の範囲内の影響しか生じないし、株価へのインパクトすら大したことのないレベルで終わってしまうのだから、BtoB企業でそんなダイレクトな影響が出るわけないだろう、というのはよく理解できるところ。

ただ、前日のエントリーでも書いたとおり、自分の会社も取引先も、それを構成しているのは生身の人間。
そして、一見すれば一枚岩のように見える「共同体」の中にも、価値観の異なる様々な人間が混在しているし、今の時代、「会社の一員」という尺度とは別に、「世間」の尺度で冷静に周りやカウンターパートを見つめている人も増えてきているわけで・・・。

それゆえ、「世間」の共感を得られないような戦いを挑み続けるような会社は、仮に、SNSでの瞬間的な風は防げたとしても、じわじわと土台から蝕まれていくことは避けられない、と思うのである。

この先、会社が何十年も存続していくことを願うのであれば、戦う相手を間違えてはいけない。
そして、仮に戦うべきでない相手*4と戦わないといけなくなったとしても、それは裁判上の書面、というクローズな世界の中だけに留めておくのが賢い会社のやり方。

自分はそう思っている。

*1:戦う相手を間違えるな。 - 企業法務戦士の雑感

*2:訴訟代理人の流儀にもよるが、裁判になった時の当事者の主張が、後々舌をかまないギリギリまで過激なものになるケースは時々あるし、特に労働事件に関しては、双方の「針小棒大」的な主張の応酬になることも稀ではない。

*3:おそらく本件では前者の道をたどることになるのだろうけど。

*4:個人的な意見としては、本件の当事会社は、「世間」はもちろん、「当該社員」とも正面から戦うべきではないと思っている。