「ブックガイド」が出る前に。

いよいよ年末進行モードということで、Twitter上では、毎年恒例のBLJブックガイドの登場を待ち望む(?)つぶやきもチラホラ見かけるのだが、今日の時点ではまだ書店には並んでおらず・・・。

ということで、自分の中では”もう一つのブックガイド”となっている先月発売の法律時報(2019年12月号)の特集(2019年学会回顧)より。

法律時報 2019年 12 月号 [雑誌]

法律時報 2019年 12 月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2019/11/27
  • メディア: 雑誌

自分がこの特集が好きなのは、毎月法律時報の巻末に載っている大量の「文献月報」の中から主だった書籍、論文を取り上げて網羅的に論評する、という仕事の細やかさゆえで*1、某高名な先生のように毎月目を通してピックアップする、という作業を自らしたくてもできない自分のようながさつな人間にとっては、本当にありがたい企画なのだ。

そして、主に企業サイドの実務家が論評するBLJ誌とは異なり、こちらは研究者の視点で分析、紹介がなされている、という点で、新しい発見が多い、という理由ももちろんある*2

例えば、「民法(財産法)」に関する章*3の「2(6)債権法改正」で取り上げられている安永正昭=鎌田薫=能見善久監修『債権法改正と民法学Ⅰ~Ⅲ』のシリーズなどは、昨年のBLJの座談会で紹介されたのを見かけたときはそのまま流してしまったのだが、こちらでは、山野目章夫の所収論稿(「改正債権法の社会像」)等について詳細かつ興味を引く解説が付されており、高価な書籍なのを承知の上で、それでも読みたくなってしまう絶妙な紹介になっている。

債権法改正と民法学I 総論・総則

債権法改正と民法学I 総論・総則

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 商事法務
  • 発売日: 2018/10/03
  • メディア: 単行本

他の法領域に関しても、一通り読んでおいて損はない特集企画である。

で、そんな中、異彩を放っているのが、

「最初に、従来の学会回顧とは大きく趣の異なるものになることを、あらかじめお断りしておきたい」(93頁)

というフレーズで始まる、水野紀子・東北大学教授の「民法家族法)」に関する章である*4

自らの学会回顧を「はるかにわがままで、かつ雑なもの」と謙遜されている水野教授だが、この企画の意義を「客観的な(儀礼的な?)紹介よりは、独断と偏見とはいえ、評価を含めた紹介であること」に見出したうえで、それに続けて以下のように述べておられるくだりは、実に強く印象に残った。

「私が学部を卒業して研究室に残った頃に、まず受けた教育は、学説を批判することをためらってはいけないというものであった。批判は対象となる学説への敬意である、指導教授の学説を完膚なきまでに批判して崩す『親殺し』は指導教授への最高の恩返しである、まして学説批判が人間関係には一切影響してはならない、という教育であった。」(93頁、強調筆者、以下同じ。)

現実には、「批判」されても人間関係には一切・・・というわけにはなかなかいかないだろうし、「批判するにも言葉を選べ」という批判も当然あり得るところだと思うのだけれど*5、おもねり、空虚な言葉でもてはやす前に、具体的な指摘に基づく批判こそが、「敬意」を示す最大の方法である、という点には自分も全く異論はない*6

そして、あえてここで付け加えるならば、対象が書かれている内容であれ、書籍・論文の構成であれ、「批判」されているものには、それだけの「価値」が認められているのだ*7、ということも忘れてはいけないところだよな、ということ。

”書き手”として一番悔しいのはスルーされることだ、ということは筆者自身も身に染みて分かっているだけに、よく評価された本の著者は素直に喜び、ネガティブな評価が下された本の著者は、ムカッ腹を立てつつも、「それだけ世の中で自分の著作が認知された証だ」とほくそ笑む、というのが、「批評」世界の正しい楽しみ方ではないかと思うのである。

*1:同じようなコンセプトの企画は『年報知的財産法』にもあって、こちらも毎年楽しみにしている。

*2:当然ながら、これはこの企画固有の、というよりは、この雑誌そのものの魅力でもある。

*3:田高寛貴=伊藤栄寿=熊谷士郎=高秀成=谷江陽介=瀧久範「民法(財産法)」法律時報91巻13号65頁(2019年)

*4:法律時報91巻13号93頁以下(2019年)

*5:この点水野教授の論稿は、ここまで書いておられつつも、棘を感じない文体に加え、矛先が特定の研究者に向かないように、というところにもかなり気を遣っているように思われる論稿になっており、さすが第一人者というべきだろう。

*6:さらに、この後に続く、相続法改正や、所有者不明土地問題に対するコメント等、この水野教授の論稿には、本当に読むべき箇所が多々あるように思われるだけに、読み飛ばしは禁物である。

*7:価値がないと思われているもの、存在感がなく気付かれていないものは、そもそも論評の対象にすらならない。

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