「現役最強」の証明。そして凱旋門に続く道。

「夏のグランプリ」というよりは、「現役最強古馬決定戦」と呼ぶ方が適切だった今年の第62回宝塚記念

そして、舞台は阪神競馬場なれど、ゴール板の先にはもうロンシャンしか見えない・・・そんな圧巻のレースだった。

早々と故障したデアリングタクトに続き、コントレイルも回避、グランアレグリアもラヴズオンリーユーも出ない、ということで、あたかも”手薄な陣容”になったかのように書き連ねたメディアもあったが、春のGⅠシーズンから少し間隔の空く6月末にレースを行う以上、それは毎度のこと。

さらに言えば、天気がぐずついて馬場が荒れる可能性も高い、そんな中、道悪巧者として名の通ったクロノジェネシスとレイパパレが万全の状態で出走する、となれば、あえてここに勝負を挑む度胸のある陣営もそうそういるものではない*1。そもそも、コントレイルとグランアレグリアは既に大阪杯でレイパパレに敗れ、香港GⅠを勝ったラヴズオンリーユーもその前のドバイではクロノジェネシスの後塵を拝している*2

要するに、今年に入ってから日本馬に一度も負けていないGⅠ馬は今回の主役となった2頭以外にはいなかったわけで、この宝塚記念を「最強古馬決定戦」と言わずに何というか、というのが自分の思いだった。

いざその時になってみればいろいろアテが外れたところも多く、今年も例年のように直前まで雨が降っていたにもかかわらずレースが始まる前にサッと上がってまさかの良馬場。

逃げてペースを作ると思っていたレイパパレは、さらに内からスタートしたユニコーンライオンに先頭を譲って2番手追走。

そして、そのユニコーンライオン、前走・鳴尾記念を逃げ切って勝っているものの所詮は上がりたてのGⅢ馬。ここでは勝負にならんだろう、と見切ったファンは彼に7番手の評価しか与えていなかったのだが、1000mの通過が60秒ジャスト、中盤の600m~1400mをきれいに12秒台のラップで刻んだ鞍上・坂井瑠星騎手の好騎乗に導かれ、最後の直線に入っても行き脚は全く衰えず・・・。

本来なら力強く抜け出すはずのレイパパレがユニコーンライオンを捕まえきれずにもたつき、さらにその後ろとはちょっと距離がある、その絵を見た時に「波乱」の二文字が頭をよぎった人は決して少なくはなかっただろう。

だが、その次の瞬間、予定調和的な現実が戻った。

馬群から抜け出したクロノジェネシスが、ディープインパクト産駒か!?」と見まがうような切れ味で、2頭まとめて一瞬で交わし去る・・・

最終的に付いた着差は2馬身半。コースレコードにこそ及ばなかったものの、昨年の稍重馬場での決着から3秒近くタイムを縮めた2分10秒台の決着で、

グランプリレース3連勝

という史上3頭目の偉業を成し遂げ、名実ともに「現役古馬最強」であることを自ら証明することとなった。

個人的には、高速決着に慣れた他の有力馬が嫌がるような荒れた馬場で、まくり気味に進出して直線先頭一気に押しきり、突き放す、という競馬こそがクロノジェネシスという馬の真骨頂だと思っているし、凱旋門賞はもう手の届くところにある」と感じさせた昨年のこのレースと比べると、今年のレースはいかにも日本国内のレースらしい決着・・・という印象の方が強かった。

ただ、馬場が荒れても乾いててもきっちり走って結果を出す、さらに、早め先頭でも直線の差し勝負でも、最後は着差を付けて勝てる*3というところは、これまでの名馬たちと比べてもスケールの大きさを感じるし、「自らに有利な展開」など望むべくもない欧州の最高峰レースでは、この全方位的な万能さが必ず生きてくるはずだ。

昨年、グランプリシーズを夏冬で制しながらも、JRA賞のどの部門でも栄冠に輝くことのなかった*4この馬にとって、今年はいわば「倍返し」の年ともいえる。

そして彼女がこの後、海を渡って挑むであろう大レースを制し、さらに国内に戻って「未踏の4連勝」を飾れば、おそらく今年こそは文句なしで年度代表馬を勝ち取れる。

そう信じて、この先も徹底的に追いかけていこうと思った次第である。


なお、今年前半のGⅠの勝ち馬をまとめると、↓のような感じになる。

フェブラリーステークス カフェファラオ 牡4
高松宮記念 ダノンスマッシュ 牡6
大阪杯 レイパパレ 牝4
天皇賞(春) ワールドプレミア 牡5 
ヴィクトリアマイル グランアレグリア 牝5 ※牝馬限定
安田記念 ダノンキングリー 牡5
宝塚記念  クロノジェネシス 牝5

昨年に比べると「牝馬」の存在感が薄れた感じにはなっているが、それでも芝中距離のGⅠレースはきっちり押さえたところがさすがだな・・・と。

まだまだ「牝馬の時代」は続く。そしてここまで積み重ねられた名牝たちの歴史の最後のページには、必ずや「凱旋門賞」のタイトルが書きこまれることになるだろう、と自分は確信している。

*1:そんな中で、いつものように”引き立て役”を買って出た、カレンブーケドール、キセキ、アリストテレスと言った馬たちの陣営には心から敬意を表したい。

*2:さらに言えば昨年末の有馬記念ではもっとこっぴどく負けている。

*3:そもそも早め先頭押しきりパターンが定着したのは、主戦だった北村友一騎手の作戦によるところが大きかったのだろうし、「切れ負けしがち」だったといっても、相手は、アーモンドアイ、フィエールマン、ラッキーライラックといった爆発的な末脚を持つ馬たちだったわけだから、鞍上が替わり、彼女の行く手を阻んでいた競走馬たちも皆引退した今となっては、末脚勝負でも本邦一番手、と言っても過言ではないような気がする。

*4:一応「特別賞」は受賞したが・・・。

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