「法務機能」を企業の中で生き残らせるために、今すべきこと。

昨年11月、世に出た時には、SNS上でもかなり議論が沸騰したと記憶しているが、当時は日々忙殺されていたこともあって、まとまったコメントをするタイミングを逸してしまっていたのが、「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会 報告書~令和時代に必要な法務機能・法務人材とは~ 」である。

報告書本文へのリンクhttps://www.meti.go.jp/press/2019/11/20191119002/20191119002-1.pdf

「報告書の概要」*1というペーパーでまとめられている本報告書のコンセプトは、

「「パートナー」と「ガーディアン」としての法務機能について、「事業の創造」つまりは「価値の創造」に重点を置く観点からの可能性を明らかにするとともに、特に組織運営の改革・改善や人材の育成・獲得の在り方に関し、求める法務機能を実現していくためのより具体的な方策・選択肢、フレームワークを提案したものである。」(概要1頁、強調筆者、以下同じ)

というもので、これ自体にはそこまで目くじらを立てていない人でも、報告書本文で書かれている各論や、経営者に対して「法務機能を使いこなせ」と呼び掛けていること*2に対しては、かなり厳しい批判が寄せられていたと記憶している。

そんなわけで、世間的には、”法務業界ではそれなりに老舗”になっているこのブログからも、当然批判の声が上がる、と期待していた方も多かったようだが・・・


この報告書に対する自分の感想をもっとも率直に表現すると、「拍子抜けした」というのがストレートな言い方になる。

2018年4月に出た前回報告書*3は、いわゆる米国型のモデル(それも一部企業のモデル)を無批判に持ち込んだように読める記述が散見される、という点で、”革命的”(悪い意味)なものだったし、その後行われた「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」での議論や資料等を見ても*4、実体から乖離した空論が飛び交っているように見えて、大丈夫?と心配したくなるところは多々あったのだが、今回公表された報告書を見ると、案外まともなものだったからだ。

もちろん、日本企業におけるこれまでの法務機能の生成過程等に関する掘り下げが不十分なまま、直近のいくつかのトピックだけやたら過剰な修飾語を付してフォーカスしていたり*5、前回報告書に引き続き、「ガーディアン」「パートナー」に始まり、「ナビゲーター」「クリエーション」等々、鍵となる概念に限って横文字を多用しているあたりは、いかにも不自然だなぁ、という気分にさせられる*6

だが、

「法務機能は、企業価値を維持・保全するという意味(消極的な意味での価値創造)でも、新たな事業を創造し新たな価値を生み出すという意味(積極的な意味での価値創造)でも、価値の創造に貢献することができ、そのような観点から把握しうるものである。」(6頁)

というくだりとか、

「法的な専門性を武器とする者は、新しい技術や事業に触れた際には、単に既存のルールや解釈を当てはめるのではなく、当該ルールの趣旨・経緯や時代の変化を踏まえて、当該ルールが予定していなかった領域でどこに線を引くべきかをよく検討し、新たな事業構想を実現可能なものとする(enable)努力をすべきである。」(8頁)

というくだり、さらには、

「企業の法務機能の第二の機能として、リスクを分析した上で、取れるリスクと取れないリスクの峻別や、リスクを低減するための方策の提案により、事業を前に進めていくことが求められる。」
「法務機能が、「こういうこともできる」という提案を行うことで、経営陣、事業部門等の発想をストレッチする機能を強化することが必要である。」(10頁)

「法務部門がその法務機能を発揮するためには、社内とのコミュニケーションだけでは不十分で、時には自ら積極的にかつ主体的に社外と直接コミュニケーションをとることも必要である。」(17頁)

法令遵守の観点のみならず、事業を推進する観点からも、経営会議や事業部門の会議の場で、積極的かつ的確な提案を行うことで、ガーディアンとしてのみならず、パートナーとしても関係者の信頼を勝ち得ていかなければならない。経営会議等で事業を推進する観点から積極的に提案するためには、迅速な情報収集が欠かせない。」(24頁)

といった本報告書で強調されているポイントは、これまで法務をバックグラウンドに長年仕事をしてきた者としても当然のことだと思うし、かつ、そのほとんどは、自分自身がこれまでの仕事の中でやってきたことでもある。

「クリエーション」に関していえば、挙げられている「具体例」(9頁)が「規制改革会議」のような”オープンな場での打ち合い”であるために(かつ、一部例としては適切ではないと思われるものもある)、「ここまでできるか!」的な罵声を浴びることになったのだと思われるが、何らかの規制の下で動いている事業者であれば、所管官庁との日常的なやり取りを通じてルールを動かす機会も多かれ少なかれ存在するし、業界団体におけるソフトローレベルのルールメイクや、社外団体を通じた法改正提言等、その気になればいくらでも取り組む機会はあるのだから、これを「法務機能」の一つとして据えることに関しては、自分としては何ら違和感はない*7

また、社外とのコミュニケーション(典型は契約協議だが、合弁立ち上げ段階のブレインストーミングから入って議論したこともある)とか、会議で提案するための情報収集、といったことも、自分にとっては、逆にこれをしなかったら普段何仕事するの?というくらいの位置づけで、特に後者に関しては、待っているだけでは情報なんて絶対入ってこないから、主要なカウンターパートの部門とは定期的なミーティングを設定し、さらに都度都度フロアに入り込んで世間話をしながら様子を探り、担当役員のところにまで乗り込んでいってプレゼンする、そこで指示が出ればその足で取引先との交渉にも乗り込む(だから、日中はあまり自席にはいない)という感じでやっていた*8

「法務」の中だけで議論して、あれこれ論点を深堀りしているだけでは、収益に直結するようなアウトプットは何も生まれてこないわけだから、「外に出て仕事をしろ」というのは、実に真っ当なアプローチだと思う*9


上に挙げたもの以外にも、前回の報告書で欠けていたように見えたボトムアップ型の実装」(19頁)の視点が取り込まれているのは素晴らしいことだと思うし*10、「人材の育成」に関して、

「従前のように「人基準」により人材要件を明確にしないまま(悪い意味で)ジェネラリスト的に人材育成が行われていけば今後求められるスキルやマインドセットが十分に整わず、必要な機能を十分発揮できなくなる可能性がある。そのため、企業は「この人をどう処遇するか」と人基準の発想ではなく、「自社の法務機能のあるべき姿から必要な能力と配分を逆算し、それを担える適材を業務に充てる」という、業務基準の発想も備える必要がある。」(30頁)

と述べられているくだりなどは、よくぞ言ってくれた、多くの会社の人事部門に噛んで含めて聞かせたい、という内容である*11

「人材の育成」に関するくだりなどは、いわゆる「総合職社員」として入社する社員であれば、階層別研修の過程等でことあるごとに意識付けされているような内容だから、何を今さら、といった感もあるのだが、今の法務には、「企業における通常の基幹人材育成サイクルからは外れた人々」も多く入ってきている(法律事務所でキャリアをスタートした弁護士とか、専門職として採用された法科大学院出身者など)ことを考えると、「スキルマップ」を言語化して示す必要性も否定するものではない*12

ということで、基本的にはポジティブに受け止めているところではあるのだが・・・


ここであえて厳しいことをいうとすれば、「こんな当たり前のことを、あたかも一大改革であるかのような勿体ぶった報告書にして公表するな!」ということくらいだろう。

特に、一社員として会社に入り、通常の異動ローテーションの中で「法務」の背番号が後から付いてきた自分のような立場の者にとっては、事業の価値創造に貢献しない組織なり担当者なりが、会社の中で生き続けること自体が厳しい、という危機感が常にあって、「法務なんていらないんじゃないか」とか、「法務とか知財に人集めるのは無駄なコストだよね」という類の雑音をちょっとでも封じるために、ことあるごとに「自分の仕事はこれだけ会社に利益をもたらしているんですよ」ということを力説し続けていたから、

「今はまだできていないけど、これから頑張ろうね」

的な本報告書のトーンは、あまりに悠長すぎるように思えてならない*13

そもそも、本報告書が前提としている、

法務機能強化の必要性はより強く認識されるに至ったものと考えられる。現に、大企業を中心にジェネラルカウンセル(以下「GC」という。)又はチーフリーガルオフィサー(以下「CLO」という。)の設置はますます進んでおり、法務機能の必要性・有効性を認識した企業が法務機能の強化に本腰を入れて取り組んでいる様子がうかがわれる。」(3頁)

という状況認識自体、自分は疑わしいところはあると思っていて、確かに一部の会社ではGCやCLOという肩書きの役職者が出てくるようになったし、湧いてきた新興企業の数だけ、「法務」と名の付く部門なり担当なりを設置する会社の数も増えている、というのが統計的な情報になるのだろうが、その一方で伝統的大企業における「法務部門」のリストラ、格下げの動きも現に存在している*14

法律を扱う世界で生きている者同士で会話をしている限り、位置づけや役割には見解の差があっても「法務なんていらない」という話にはなりにくい。

だが、今や右肩上がりの成長を見込めるような会社はほとんどなくなったのが今の日本。そして、業界の外にいる人々からは、「法務」などコストのかかる管理部門の一零細部門、機能に過ぎず、最小限のリソース+アウトソーシングで代替可能、と思われても不思議ではない状況は依然として存在している。

だから、3年後、5年後、さらにその先まで「法務機能」を社内に生き残らせようと思ったら、既に「危機」が迫っている会社はもちろんのこと、そうでない会社でも、刺さるアウトプットとセットで事業部門に存在感を知らしめ、「法務とは、利益を生み出す組織であり、機能なのだ」ということを強くアピールしていくことは不可欠だ。

多くの大企業では、かつて細々と登記やら、訴訟やら、契約書の管理やらを行っていた”プロトタイプ法務”が、度重なる企業不祥事や”コンプライアンスブーム”を追い風にして規模を拡大してきた歴史があるし、それゆえ本報告書でいう「ガーディアン」機能まずありき、という発想で部門の役割定義がされている場合も多い。

自分もそれ自体を全否定するつもりはないのだけれど、不祥事は起きなければ対応しようがないし、総花的・定型的な取り組みやルーティンのやり取りの中でいくら「リスクの芽を摘んでいる」と自負したところで、要求水準が上がっている人々に存在意義を示すには到底足りない*15

だとしたら・・・

会社の組織も、業務フローもすぐには変えられないし、ましてや年が変わったからと言って、全てのマネージャーやスタッフのマインドセットを変えられるわけでもなく、変える必要もないと思うのだけれど、これまでの守備範囲から一歩でも二歩でも踏み出して仕事を進めるための助言をする、停滞している状況を打開するために火中の栗を拾う、そういったことを一つ一つ積み重ねるところから始めるべきではないだろうか。

そして、マネージャーであれば、もしかしたら自分の足元に、「法務」という組織のディフェンシブさに飽きているスタッフもいるんじゃないか、というところにも目を向けて、(もしいれば)”解き放ってあげる”ことも考えて良いのではないかと思う*16

「他人事だと思ってそんな簡単に言うなよ!」という突っ込みは、甘んじて受ける。

ただ、組織全体で存在意義を訴え続けることができなかった結果、時間をかけて築き上げてきた法務部門が目の前で雲散霧消する悲劇を味わった者としては、新しい年に、同じような話をもう二度と聞きたくはない。

だからこそ、今の日本企業を取り巻く熾烈な経営環境の中で、「法務機能」なるものを担い続けたい、という思いを少しでも抱いている方々には、法務クラスタの中の議論に時間を割く前に、それぞれの持ち場で体を張って、会社の中で自分たちの味方になってくれる人たちを少しでも増やすとにかく「目に留まる結果」を出し続ける、ということに全てのリソースをつぎ込む覚悟で事に当たってほしいな、と思わずにはいられないのである。

2020年、という年が、全ての法務関係者にとって良い年になることを、自分は心から願っているので。

*1:https://www.meti.go.jp/press/2019/11/20191119002/20191119002-2.pdf

*2:「経営者が法務機能を使いこなすための7つの行動指針」(https://www.meti.go.jp/press/2019/11/20191119002/20191119002-3.pdf)参照。

*3:https://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180418002/20180418002-2.pdf

*4:国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会 (METI/経済産業省)参照。

*5:例えば、(本来意図されている使われ方ではない、という評価が一般的な)「司法取引」の第1号案件、第2号案件に関連して「企業のリスクマネジメントやコンプライアンスを取り巻く環境に大きな変化をもたらした」というコメントを付したり、「第4次産業革命」などという経産省関係者しか使わないフレーズをやたら多用していたり(この点については、経産省の研究会だから仕方ない、という見方もあるかもしれないが、こんなところまで所管官庁に忖度してどうする、というのが自分のストレートな思いである)、といった具合である。

*6:<追記>あと、「クリエーション」や「ナビゲーション」の記述に力を注いだあまり、なのか、「ガーディアン」に関する説明があまりに保守的な記述にとどまっているのも気になる。特に「法務機能を担う者は、新たな事業が「法的にどうか(合法か)」のみならず、「社会から見て受容されるか(正しいか)」という基準で判断しなければならない。」(11頁)というくだりについては、そういう発想こそが(経産省が危惧していると思われる)今の日本企業の「決断できない経営」の元凶だし、法務部門を「過剰なガーディアン」(28頁参照)たらしめているのではないか、と思えてならない。もちろん、「自社(あるいは自社の属する業界等)が社会でどういう立場にあり、行政、顧客、株主、地域住民等のステークホルダーからどのように見られているかを肌で実感している」ことはとても大事なことではあるのだが、法令の規律に反せず、かつ長期的にはステークホルダーにとってプラスになる経営判断なら、「違法ではない以上、踏み切って差し支えない」という助言をすることも、法務部門の大事な役割だと自分は思うのである。

*7:個人的には、”オープンな場での打ち合い”は、一見格好よく見えるものの、逆サイドからの猛烈な反論の標的となるリスクが高く、それに対して応酬した結果、本来の立法事実から大きく離れた”空中戦”に議論が陥ってしまう懸念もあるので、実のある「クリエーション」対応としては、決して賢いやり方ではないと思っている。自ら表に出ることなく、水面下で(だがフェアな方法で)良い方向に話を持っていくのが優れたロビイングだ、という評価も、洋の東西を問わず定着していると思っている(もちろん、そんな事例を報告書の中で出すわけにもいかないので、ここではこんな具体例しか出せなかったのだろうけど・・・。

*8:特にマネージャーの地位になってからは、のんびり契約書を直してる暇があったら営業だ!というマインドで仕事をしていたので、契約書のレビューだとか記録の作成だとかといったところで自分が最初に手を動かす、ということはほとんどなかった。だから、昨年フリーになったときの一番の心配は「今さら一から契約書レビューなんてできるかな?」というものだったのだが、幸いにも(若い頃からの経験の蓄積で体に染みついたものに助けられたこともあって)杞憂だった。

*9:もちろん、その前提として「外に出て行っても迷惑に思われない」存在にならなければならないのだが。

*10:メディア向けにどう喧伝するかはともかく、ある程度の歴史がある日本企業の中で「トップダウン型」の取り組みだけで事がうまくいった事例というのは、かなり稀有だというのが自分の実感である。「上からの改革」でうまくいったと喧伝されている施策でも、その裏には天から降ってきたアイデアを「ボトム」からの動きとつなげるために粉骨砕身した人々なり組織なりが必ず存在するのだから、「ボトムアップ(既存組織のブラッシュアップ)」の視点なくして日本企業の機能改革を成し遂げることは不可能だと自分は思っている。

*11:もっとも、前回報告書が出た際にも感じたことだが、この報告書が影響力を持つのはせいぜい一部の法務部門関係者の界隈だけで、企業の中でそれ以上の広がりを持つことを期待することは極めて難しいように思う(なぜなら、この報告書自体が後述するとおり、「法務クラスタの内輪の視点」から脱却できていないように思えるからである。元々法務にあまり関心のない会社幹部に対して、この報告書の内容を報告する機会を得られたとしても「ふーん」という言葉以外のリアクションを得られる気は全くしない)。

*12:ただ細かく見ていくと「部門をまたいだ調整」が「マネジメント(管理職)」だけの役割になっていたり、逆に「交渉役」の役割が「プロフェッショナル職」だけに与えられていたりする等、若干チグハグなところがあったり、多くのスキルが「頭の中で何をするか」的なもので、幹部へのプレゼンのために”簡潔だが刺さる資料”を作る、とか、1分で的確にエッセンスを伝える、といった「表現」レベルのスキルセットが組み込まれていなかったりする、ということもあるので、今後、各社でこれを取り入れるのであれば、内容をよりブラッシュアップしていく必要はあると思われる。また諸々挙げられているスキルのうち「論点を抽出する力」や「法的な分析力」に関しては、トレーニングで何とかなるところはあると思われるが「現実的な解や選択肢を導き提案する力」に関しては学習、経験よりも個々人の”センス”に依拠するところが大きいような気がしていて、OJT、Off-JTだけでは限界がある、ということも認識しておく必要はあるような気がする。

*13:正直、この報告書を日々利益を削りだすことに執念を燃やしている事業部門の人々が読んだら、どういう感想を抱くのか、想像するだけで怖い。

*14:「組織」ではなく「機能」に重きを置く研究会のスタンスからすると、そんなことはどうでもよい、機能として残っているのであればそれでよいではないか、という考え方になるのかもしれないが、名は体を表すというのはここでもあてはまる話。”リストラ”されて法務部員から「総務部員」になった直後は、マネージャーや担当者にもまだ法務機能を担う気概が残っているだろうが、やがて人が入れ替わっていくうちに「法務」色は薄れ、本報告書が強調する「法務人材としてのモチベーションやエンゲージメント」(33頁など)を醸成する土壌も失われていく。以前のエントリー(「法務組織」から逆襲の狼煙が上がるとき。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~)でも書いた通り、自分は唯一無二の法務組織に法務機能を集中させるべき、という考え方に対しては懐疑的なのだが、「マザーシップ」が存在しなければ、事業部門内に入り込んだ担当者が「法務」機能を発揮することもままならないわけで、そういった大組織のリアルな現実からも目を背けるべきではない、と自分は思っている。

*15:<追記>なお、本報告書では「細部に本質が宿る」ことも多い(が、その重要性に経営者が気づかないことが多い)(15頁)という指摘もされていて、それ自体は理解できなくもないのだが、「契約書の細部の創り込みがビジネスの勝敗を決することも少なくない」とまで言ってしまうのは、さすがに”法務クラスタの自信過剰”に過ぎるのではないだろうか。国内外問わず、ビジネスの勝敗を分けるのは、「契約書」以前の「取引相手の選び方」&「スキームの組み方」であることがほとんどだし、それが既に決まった段階で法務が介入しても、「勝ち取ったことを最大限言語化する」といったレベルで貢献するのがせいぜいである。大事なのは、スキームが決まる前に出来上がる契約書のイメージまで描いた上で法務が突っ込んでいくことであり、契約協議の最終段階でひっくり返されないように、協議の初期段階から取引を検討している相手方に対しても楔を打ち込んでいくことであり、そこに踏み込んでいかない限り「法務」が生き残る道はない、と自分は思っている。

*16:筆者自身は、元々かっちりとした「法務組織」に所属する前に自己流で自分の仕事に「法務」の色を付けていく、というところからスタートしたので、誰かに動き方に縛りをかけられることもほとんどなかったし、それこそ当時は契約協議の現場に出るところから上司を飛び越えての幹部プレゼンまで、自分がやろうと思おうが思うまいが、結果的に何でもやらせてもらえた(逆に法務部に移った最初の頃は凄く窮屈に感じた。我を張った結果、最終的にはそれまでと同じように動けるようにはなったし、自分自身のポジションが上がるとともにそれがチーム全体の動き方にも反映されるようになったのではあるが。)ところはある。「法務組織」というバリアで守られていなかった分、自分の社内でのアイデンティティを確立させる過程では、(最初から「法務」のスタッフとして採用されている人たちに比べると)かなり甚大な労力を費やすことになったが、こと仕事に関しては短期間のうちに多彩な経験ができた、という点で非常に意味のある時期だったと思っているし、そんなふうに自分を”解き放って”くれた当時の上司たちの寛容さには、ただただ感謝するほかない。

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