先週の半ばくらいまでは、対岸の火事・・・とすらいえないくらい、のんびりと報じられていたのが武漢発の新型肺炎発症者のニュースだったのだが、公式発表される感染者数、死亡者数は瞬く間に増加の一途をたどり、いざとなれば動きが早い中国当局が都市封鎖、国内旅行中止、海外旅行中止と矢継ぎ早に対策を打ったことで、とうとう日本政府まで「チャーター便を飛ばす」とまで言わざるを得ない状況になってしまった。
これまでの経験からすると、この類の話は、大概、最初あまり騒がれていなかった場合の方が、結果的に深刻な状況に陥りがちなわけで、既に春節休暇で発生源の地から世界中に飛び立った人々を介して、世界のあちこちで発症例が報告されている以上、日本だってただでは済まないことは、火を見るより明らかだろう。
当の病気自体は、これまでの報道に接する限り、インフルエンザの亜種くらいに考えておけば良いのかもしれないし、きちんと生活して一定の免疫力をキープできていれば発症を免れる、あるいは発症しても数日休めば何とかなる、というレベルのものではないか、という気はしている。
ただ、日本の景気を下支えしていた訪日客の中でも、最大のボリュームゾーンだった中国からの訪日客が、最大のかき入れ時に大幅減少する、というのは、それだけで経済的にはかなりのダメージになる。ましてや今は、ここ数年ずっと右肩上がりで来ていた訪日客数の動向に大きな変調が生じ始めていたさなかだったから、なおさらだ。
今回の影響は、当然、中国本土だけでなく、密接に人が行き来している香港、台湾、シンガポール、ベトナム、タイあたりまでは確実に及ぶだろうし、欧州・米国方面の人々にしてみれば、中国も日本も”だいたい同じところ”だから、いくらこっちは安全、といったところで当然足は遠のく。
自分の予測では、訪日客が全面的な減少トレンドに転じる潮目は、滞在コストが極限まで高まってしまう夏の五輪前あたりだろうと思っていたのだが、それが半年近く前倒しになってしまったわけで、影響を受ける業界が相当な数に上ることは想像に難くない。
加えて、今週以降、日本国内でも感染者の数が続々と増えるようなことになってくれば、ことは「外国人消費」だけの話ではなくなるわけで、そうでなくても景気が落ち込み始めているところでこういう話が出たというのが、何とも痛恨事だな、と思わずにはいられない。
ちなみに一部の会社では、既に「BCP発動!」とばかりに、全社員に在宅勤務指令を出したりもしているようだし、オリンピックに備えて非常時モードのトレーニングをしていた会社の中には、ここで一つ試してみようか・・・と内心思っている会社もあるのかもしれない。
それはそれで、決して悪いことではないと思うけど、終わりが見えているオリンピック・パラリンピック対策と、いつ収束するか分からない流行病とでは、同じ対策を発動するにしても、それに先立って持たなければならない覚悟が本来大きく異なるはず。
いうなれば、元々は「五輪対策」の方が、真の災害に備えた一種の「予行演習」のようなものだったわけで、それを今から発動するのは、「練習せずにいきなり本番に臨む」のと同じことだから、やってみるのはいいけどどうなることやら・・・という感じではある。
そして、これからの一週間が過ぎていく中で、そんなふうに冷静にジャッジして、やるやらないを決められるような状況が保たれているのかどうかも分からない、というのが、今我々が置かれている状況だったりもするわけで・・・。
何だかんだ騒いでも結局大したことにはならず、1週間後も2週間後も普通の週末を過ごせることを心の底から願いつつも半信半疑になってしまうのは、やっぱり「あの時」のトラウマがあるから、なのかもしれない。
下手をすれば、あの時より終わりが見えず長引く可能性だってある。だからこそ、せめて、「3・11後」の教訓は生かそうね、ということは、いま改めて強く申し上げておきたいのである*1。
*1:既にドラッグストアではマスクが軒並み売り切れ状態。それだけで済むなら世の中の大勢に影響はないのだが・・・。